日販アイ・ピー・エス賞

僕らの大作戦       

                     イスラマバード日本語クラブ(パキスタン)

小5 藤﨑 巴吏秀

           

 二年前から僕たちは野生の猿の被害にあっている。例えば、洗濯ものを持って行かれたり、車の上に乗られたり、サイドミラーを曲げられたり、庭のパパイヤを食べられたりしている。隣の家では、猿に携帯電話を盗まれたそうだ。猿は春から秋まで僕の家に来る。今年こそはワナを作って捕まえようと家族全員で話し合った。父は猿のいたずらにはうんざりしていたので、本気だ。父は職人さんを家に二人呼んで、四角いスチール製の大きなかごのワナを作ってもらった。僕が入るくらいの大きいかご型のワナだ。かごにはドアが付いている。猿が入ったらドアが閉まる仕組みだ。ワナを作ったら、猿が来なくなった。猿が気づいたのかな? 僕たちは悲しかった。

 しばらくして、また猿が来た。僕と弟、父母とお手伝いさんもみんな一緒に作戦を立てた。これが僕らのプロジェクトの始まりだ。僕と弟はわくわくした。ワナの中には横向きにブランコのようにひもで棒をぶら下げていて、その棒の上に、おとりのエサをテープで付けた。エサはバナナと人参にした。猿の好物だから。かごは入口が開いていて、猿がエサに気づいて中に入るのを待っていた。猿がエサに触ると棒が動いて、ひもが引っ張られ、ストッパーが外れてかごのドアが落ちて閉まる仕組みになっている。僕の案だ。ワナは庭のパパイヤの木の近くに置くことにした。僕たちは猿が来るのを毎日楽しみに待っていた。

 猿が来た! 僕の心は弾んだ。静かに。気づかれてはいけない。猿はワナに入ってバナナを食べている。ドアが閉まらない。なぜだ。猿はバナナを食べ終わって、バナナの皮をワナの中に捨てて、急いで開いたドアから出て行った。失敗、エサだけ食べられた。ワナを調べたら、ドアが閉じなかったのはドアのストッパーが固すぎたからだった。ストッパーを緩くして改善した。家の中で猿が来るのを待つ。

 夕方また猿が来た。今度こそ捕まえるぞ。猿はまたワナに入ってバナナを食べようとしている。バナナに触るとエサがついた棒ごと下に落ちた。猿は落ちたバナナをゆっくりと食べて、こちらをちらっと見た後、のんびりとワナから出て行った。なんでドアが閉まらないんだ! お手伝いさんがワナを見に行って中に入った途端、バタン!とドアが閉まってお手伝いさんが捕まった。僕は怒っていたけれど、大笑いした。なんでこうなるの?猿も笑ってるに違いない。ワナを改善しなければいけない。僕たちはみんなで知恵を絞って、入口を確実に閉めるためにマニュアルを変えることにした。ワナの入口にはドアにつっかえ棒をして、棒にはロープをつなげて、ロープを家の窓まで引いてきた。猿がワナに入ったら、僕が家の中から急いでロープを引っ張ると、つっかえ棒が外れて猿はワナに閉じ込められるはずだ。僕は毎日猿を待ってそわそわしていた。

 翌朝、朝一番に猿が来た。猿はエサがあることを知っている。猿はワナに入った。僕の五才の弟がロープを引っ張ろうと窓まで走って行った。猿はその足音に気が付いて素早く逃げて行った。敵は手ごわい、また失敗だ。僕たちは話し合って、絶対に音を立てないように静かに動く練習をした。

 次の日は休みで、朝から猿が来るのを楽しみに待っていた。予想通り猿が来た。静かに。僕はすり足で窓まで向かい、ドキドキしながら強くロープを引っ張った。大成功! あんなにいたずらをした猿、ついに捕まえたぞ! 僕達はみんな大喜びで、万歳をした。僕らの作戦勝ちだ。猿はびっくりしてキョロキョロしながら、夢中で出口を探していた。あちこちワナをガタガタさせて、開く場所を探している。僕はイタズラ猿を捕まえた証拠にビデオを撮って日本の家族とパキスタンの父の家族に送った。みんなが驚いて電話をしてきたので、僕はテレビ電話で猿を見せてあげた。

 僕らが二年間いたずらに苦しんだ猿を捕まえた。僕らのプロジェクトは完了した。僕は今とても満足している。近所の人も猿の被害にあっていたので、僕らが猿を捕まえたことを知って、お祝いにスイーツを届けてくれた人もいた。捕獲した猿は、家族で話し合った結果、家から一時間ほどのマリーという大きな山までワナに入れたまま連れて行った。マリーに着いてワナのドアを開けると、猿は自分から逃げて行った。猿は新しい家族を見つけて幸せにしているだろうか。山があって、食べ物もある。僕の家より幸せだろう。僕達はワナを持ち帰った。僕の家の裏庭には空っぽのワナが置いてある。僕は空っぽのワナを見ながら、あの猿を思い出している。猿を捕まえたことはすごく嬉しかったけど、今は少し楽しみがなくなったようにも感じる。だから、また猿がやってくるのを心の奥では楽しみに待っているんだ。