JFE21世紀財団賞

しっぱいって悪いこと?

オタワ補習授業校(カナダ)

小3 東村 萌

        

 「おまえら、本当に使えないな!」

体育の時間にドクタードッチボールで遊んでいる時でした。ゲームに負けたとたん、同じチームのマイカが私たちに向かって、急にどなり出しました。私たちがゲーム中にしっぱいをして、マイカをどんどんイライラさせてしまったのです。私はボールをドクターじゃない子に当てて一点取られてしまったし、他の子たちも小さなミスをしていました。

 「おまえら、いつもミスばっかりだな。おまえらがいなかったらかててたんだ。おまえらは次からドッチボールは絶対えらぶな。」

マイカは、つばがとびちるくらい私たちに顔を近づけてどなってきます。私は思わず耳をふさぎました。マイカはドッチボールが上手な男の子で、負けたことがとてもくやしかったんだと思います。でも、私たちは負けてしまったけど、楽しんでゲームをしていたので、どなられて悲しかったです。私たちが言い返しても、「だからなに?」と言ってきいてくれません。

 すぐにロドニー先生が来てくれて、マイカを校長室に連れて行きました。悪いことをした子どもは、校長室に連れて行かれるのです。体育の時間が終わって、校長室の横を通る時、マイカのすがたが見えました。マイカはかたをおろして、いつもより小さくなって、校長先生の話を聞いています。私はひどいことを言われて、すごくいやな気もちだったので、

「そう、はんせいすればいいわ」と思いました。その日、マイカは教室にもどりませんでした。家に帰らせられたのだと思います。

 その日の私の頭の中は、ぐちゃぐちゃの落書きのようでした。

「どうしてあんなにおこるんだろう。しっぱいって、そんなにおこられることなのかな。」どんなに考えても、やっぱり私の答えは「ノー」です。しっぱいした人をあんなにせめるのはおかしいと思います。しっぱいは大事です。しっぱいしたら次は気をつけようと思えるからです。上手にボールをなげられなかったら、もっと練習しようと思うし、「次はこうやってみたらうまくいくかもしれない」と考えたりもします。それに、一番大切なのは、みんなで楽しむことだと思います。

 私の大好きなまんが「ドラえもん」には、しっぱいばかりするドラえもんが登場します。ある話で、ドラえもんがしっぱいしないパーフェクトロボットにかいぞうされそうになった時に、「パーフェクトになんかならなくていい、これがぼくだからだ」とさけぶシーンがあります。私はこの言葉が大好きで、本で初めて読んだ時から心の宝箱に大切にしまっています。「私の好きな日本語の言葉」というテーマで、カナダのスピーチコンテストで発表したこともあります。

 私もそのままのドラえもんが大好きです。しっぱいが多いけれど、なやんで、ないて、おこって、わらって、それでも前を向いて進んでいくからです。私もしっぱいをするふつうの人でいいけれど、楽しみながらチャレンジし続ける人を目指したいです。

 次の日、私は休み時間に友だちとボールを遠くまでなげる練習をしました。走るみたいにいきおいをつけてなげたら、もっと遠くまでなげられて、うれしかったです。でも、もっとうれしかったのは、マイカがランチタイムに私たちの所に来て、

「ひどいことを言ってごめんね。またみんなでいっしょにドッチボールしてくれる?」

と、あやまってくれたことです。私はもちろんマイカをゆるしてあげました。マイカもおこりすぎたしっぱいを直すチャンスです。

 「ナイスキャッチ!」

今日の体育の時間は、またドクタードッチボールです。マイカはチームメイトを大きな声でおうえんしています。だれかがしっぱいしても「次がんばろう」と声をかけてくれます。これこそチームワークです。私もいきおいよくなげたら、見事にドクターに当たって、一点入りました。私はうれしくて、

「やったー!」

と思わずさけんでいました。ゲームは私たちの勝ち。もちろん勝ててうれしかったけれど、みんなで楽しく遊べたことが何よりもうれしかったです。みんなの顔はあせでキラキラ光っていました。