帰国が決まりましたが、アメリカで野球に打ち込んでいた中学生の子どもは日本の部活動の厳しさを気にしています。
2026年5月18日
子どもの教育

アメリカで野球に打ち込んでいました。子どもが日本の部活動の厳しさを気にしています。

<質問> 
帰国が決まりましたが、アメリカで野球に打ち込んでいた中学生の子どもは日本の部活動の厳しさを気にしています。 

 

アメリカ・野球

かつて私がニューヨーク日本人学校に勤務していた時、野球といえば子どもたちの憧れの存在はヤンキースの松井秀喜選手やマリナーズのイチロー選手でした。

 

その松井秀喜選手の学校訪問はいまだに強烈なできごととして記憶に残っています。シーズンオフの秋の日の夕方、ニューヨーク日本人学校の電話が鳴りました。松井選手の通訳でありヤンキース球団広報担当の広岡勲氏からの電話でした。「松井選手がニューヨーク日本人学校に伺って、シーズン中にけがを負ったときの子どもたちからの応援の手紙へのお礼を伝えたい」との電話でした。学校にとってこんなうれしい申し出はありません。最優先でスケジュール調整が行われ、翌々日午後に松井選手は学校に来てくださいました。松井選手のご希望で、児童生徒にとってはサプライズ訪問でした。校内の小学校1年生から中学校3年生のすべての教室に突然、松井選手が現れ、子どもたちは大興奮でした。

 

さて、今の時代は「アメリカ・野球」といえば大谷翔平選手が圧倒的な憧れの存在です。アメリカ野球への注目度は過去最高と言っても過言ではないでしょう。その憧れの環境でお子さんが野球チームに所属して活動に打ち込んでおられるとはなんと素晴らしいことでしょう。異国の地でお子さんが野球に打ち込めたのはご本人の頑張りはもちろん、ご家族の理解と協力があったからと推察いたします。

アメリカ・野球

日本の部活動

一般的にアメリカの子ども向けのチームは季節ごとに異なるスポーツが開催され、それにあわせて編成されたその期間だけ一緒に活動します。お子さんが所属していた野球チームの活動期間や活動方法も同様かと思います。

 

一方、日本の中学校の部活動は、実は世界的に見てもかなりユニークな制度です。授業が終わっても多くの生徒が学校に残り、ほぼ毎日、先生の指導のもと3年間同じスポーツや音楽に打ち込む姿は、世界的にはほとんど見られない光景です。

 

アメリカにお住まいだと、学校のチームと地域のクラブがはっきり分かれているのをご存知かと思います。日本の部活動はその両方の役割を学校が担ってきた歴史があります。第二次世界大戦後、日本の教育に「特別教育活動」と呼ばれる時間が導入されました。自由で民主的な放課後の活動を目指し,勉強だけでなくスポーツ等を通じて人格を磨くという考え方が強く、学校の先生がボランティアで熱心に指導する日本独自のスタイルが定着していきました。

 

さらに、学校の荒れなどが社会問題化すると、部活動は生徒のエネルギーを健全に発散させ、非行を防ぐ場として重宝されるようになりました。実質的に多くの学校で「全員何かの部活動に入りましょう」というルールが作られ、日本の「部活動文化」が完成しました。いったん入部した以上は本人の興味関心以上に卒業まで続けることが大切とされる根性論が醸成されました。このたびの相談のなかの「日本の部活動の厳しさ」は、このようなイメージに起因するかと思われます。    

アメリカで野球に打ち込んでいました。子どもが日本の部活動の厳しさを気にしています。

部活動の地域展開

その部活動が、保護者の皆様が経験された頃とは状況が大きく変わってきています。少子化や教員の働き方改革の影響を見据えて、部活動を学校の外つまり地域での活動に変えようとする動きが国主導で進んでいます。

 

部活動の地域展開とは、これまで中学校が担ってきた部活動の指導を地域のクラブ・団体などに委ねることです。現在は、一部の地域・自治体で地域展開が進みつつあり、市区町村が地域の団体と連携したり、体育・スポーツ協会が主体となって運営したりするなど、いくつかのタイプがあります。私学や高校、文化系の部活動などは、学校や地域の実情に応じて進めるようにというのが国の方針です。

 

一例としては、私が勤務している福岡県春日市教育委員会でも、部活動の地域展開を視野にさまざまな取り組みを図っています。各中学校への部活動指導員の配置もそのひとつです。専門性をもった顧問教員がいない部活動に対して登録された部活動指導員を配置しています。部活動指導員には普段の仕事が終わった後や週末に当該部活動の指導を担当していただいています。通常のボランティア的なコーチとは異なり春日市の会計年度任用職員という立場です。

 

したがって、週末の練習試合等への単独での引率も可能となり、子どもたちにとっては一貫した指導を受けることができます。また、競技によっては合同チームの編成を認めています。今までの学校単位でのチーム編成だけではなくそれを超えたチーム編成を認めて、子どもたちの選択幅の保証に努めています。

 

さらに、2025年12月から吹奏楽部の活動においては、地域で支える「中学校楽器購入プロジェクト」を春日市主導で始めています。これは、ふるさと納税で広く寄付を呼びかけ、各中学校の楽器購入の財源に充てるプロジェクトです。市内にスポーツ科学系の総合大学等がある人材が豊富な自治体とは異なりますが、このように地道な地域展開が始まっています。      

アメリカで野球に打ち込んでいました。子どもが日本の部活動の厳しさを気にしています。

帰国に向けて

2020年3月に突然の要請で始まったコロナ禍での全国一斉休校。休校期間は最長で約3カ月に及び、これまで当たり前とされていた学校の教育活動の見直しが迫られました。高校入試においても、今まで当たり前とされていた部活動の記入欄や欠席日数の記入欄が多くの入試で見直しされたり廃止されたりしました。  

 

つまり、中学校内の活動のみの評価ではなく多様な在り方を認めようという動きが加速されました。同時に、部活動のあり方もかつての「根性論」から、「科学的」や「楽しむ」へと少しずつシフトしています。お子さんにとって、アメリカでの経験に繋がる動きの傾向が見られ、大きな武器になるはずです。

 

帰国前のこの時期にしっかりとご家族でお帰りになる地域の部活動地域展開の進捗状況や編入学予定の中学校の情報を収集し、下記等について話し合われることをお勧めします。そこで、部活動のみにこだわることなく、お子さんが求めていることは何なのかを改めて共有されたらいかがでしょうか。

 

  • ハイレベルの同じ指導者のもとでほぼ毎日練習したいのか? 
  • 日本の中学校特有の軟式野球を経験してみたいのか? 
  • 同じ学校の友人たちと放課後も練習したいのか? 
  • 学校の枠を超えた環境で練習したいのか?   

 

お子さんの希望を共有する中で、次第に選択すべき目標が絞られてくることでしょう。正解を求めるのではなく、優先順位を共有する家族会議であることが大切だと考えます。  異国の地のスポーツチームで頑張れたお子さんです。どの選択でも楽しみながら活躍して くれるはずです。家族で選択できることを楽しんでいただければと思います。     

<回答者>
長 信宏(おさ のぶひろ)
海外子女教育振興財団  教育アドバイザー
長 信宏(おさ のぶひろ)
 
プロフィール
  • 福岡県春日市教育支援センター長 (在任中)
  • 元福岡県公立学校校長
  • 元福岡県教育庁福岡教育事務所指導主事 
  • 元バンコク日本人学校教諭、ニューヨーク日本人学校副校長、釜山日本人学校校長 
  • 2023年8月から現職     

 

       

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