<質問> 我が家は家族の関係がイマイチです。海外赴任が決まりましたが、こんな状態で家族を連れて行っても大丈夫でしょうか。
はじめに
海外赴任が決まった時、「家族関係がイマイチだから海外に行くことをやめた方がいい」と考える前に、まずは「家族で行く」ことを想定して、ご家族で話し合う機会をつくられることをおすすめします。
大切なのは「イマイチな家族関係を少しでもよくなるようにすること」だと思います。最終的に海外へ行くかどうかは、話し合いの後で決められたらいかがでしょう。
海外赴任が決まったご家族の渡航前相談をさせていただく場合、できるだけご両親いっしょにご相談できるといいと思っています。赴任地にお子さんを帯同すること等について、ご両親のお話を伺っていると、お二人とも同じ考えだと思っていたことでも多少のズレがあったりするものです。
これは、普段からお互いに相手はこう考えているだろうと思い込んでいたり、話し合う時間を満足に取れなかったりすれば、仕方のないことかもしれません。 そして、すれ違いが積み重なると「家族関係がイマイチ」と感じたりするのかもしれません。
しかし、海外赴任となるとご家族での話し合いは避けては通れません。まずは「お子さんを帯同する」という前提のもとに家族で話し合ってみましょう。この話し合いをするということが、イマイチな家族関係をより良い方向へ進めてくれるのではないかと期待します。

大切な家族での話し合い
海外赴任となると、家族それぞれに期待や不安があり、赴任する国の生活環境、教育環境、赴任期間の長さ、さらにお子さんの年齢によって考えなければいけないことが多く出てくると思います。
特にお子さんの教育に関しては、保護者にとってもお子さんにとっても、検討すべき内容の大きなウエイトを占めることになるでしょう。
また、家族関係がイマイチなら、なおさら家族でしっかりと話し合い、情報を共有し、全員が納得できる結論を出すことが大切になります。
家族そろって赴任するのか、別々の暮らしを選択するのか、結果はどうであれ、しっかり話し合うことで家族の絆を強くし、家族がまとまるチャンスだととらえてほしいと思います。
家族で話し合う大切さは赴任前だけでなく、赴任中も帰国後も同じです。家族同士の信頼こそが海外赴任を充実したものへと結びつける源だと思います。
家族帯同で海外赴任をしたことがきっかけになって、家族の仲が良くなった、絆が強まったという話を聞くことは珍しくありません。海外でのマイノリティ体験が否応なく家族の繋がりを深めるようです。
言葉も文化も違い、知り合いのいないなか、相談したり、助けてもらったりするのは家族しかいない状況になります。家族全員が同じような孤独感や不安感を持つからこそ、心配事をため込まず、みんなで解決策を模索していくことができるのでしょう。

話し合うために必要なこと
海外赴任が決まり、家族で行くことを想定して、何を話し合えばよいのでしょうか。
現地での教育、母語としての日本語の保持、帰国後はどうなるのか……赴任期間やお子さんの年齢、それぞれの性格等を踏まえ、さまざまな不安に向き合いながら考えなければなりません。
そのためには、まずは現地の情報を集める必要があります。なるべく早く、家族の不安材料に関する情報やアドバイスを集め、それをもとに生活の見通しを立てられるよう、家族みんなで相談しあえるとよいでしょう。
そのうえで、不足している部分については、さらに家族で協力して情報を収集してみてください。そうする過程で、家族に一体感が育まれ、「みんなで行けば大丈夫!」といったポジティブな気持ちが生まれていくことでしょう。 では、どのように情報を収集すればよいのでしょうか。
インターネットを活用する
行先について検索しておよその情報をつかんでください。最近はSNSやYouTube等で、現地での生活について子どもの学校生活を含めてアップしている日本人の方も多くいらっしゃいます。参考になることは多いでしょう。
ただし、同じ国でも地域によって大きな差があったり、間違えた情報だったりする場合もありますので注意が必要です。
前任者から情報を集める
赴任者本人は自身の仕事の関係で海外に行くのですから積極的になれるかもしれませんが、家族には未知のことが多く、そう簡単に気持ちを切り替えることができないものです。
会社等の転勤であれば、ほとんどの場合は前任者がいらっしゃることでしょう。現地の生活や教育・学校情報のほか、その方の場合はどうしたのか、何に困り、何を不安になり、それをどのように乗り越えたのか。逆に、日本ではできなかった経験や出会い等もうかがうことができればとても有益です。
家族が不安に感じていることを含め、できるだけ具体的に、前向きな話が聞けるといいですね。
海外子女教育振興財団のセミナー等や教育相談、刊行物等を活用する
海外子女教育振興財団では、海外赴任が決まったご家族向けにさまざまなセミナー等を行っています。
「赴任前子女教育セミナー」では、海外での学校選択の方法や教育の様子、言語の習得のほか、帰国後の学校選択や受験情報、小さなお子さんの母語の保持についてなど、さまざまな情報をお伝えしています。
「インターナショナルスクール入学オリエンテーション」や「現地校入学オリエンテーション」「日本人学校入学オリエンテーション」では、海外での実際の学校の様子を現地で勤務しているスタッフから聞いたり、海外での学校生活を経験し、現在帰国している大学生の方からの体験談などを聞いたりすることができます。特に経験者の話は、参加者から「実際の情報で、とても安心できる」と好評をいただいています。
また、赴任される国や地域、お子さんの年齢、滞在年数などに合わせて、ご家族ごとに寄り添う個別の「教育相談」も実施しています。保護者の方はもちろん、お子さんの同席も可能です。受験に特化した専門家による受験相談もできます。 お子さんが抱いている不安に対して、できるだけ有益な情報を専門家から収集し、海外生活を前向きにとらえられるようになると思います。
さらに、『海外子女教育マニュアル』や『サバイバルイングリッシュ』など、海外渡航前に知っておきたいことや、渡航後にすぐに役立つ情報が詰まった刊行物もご用意しています。
なお、「情報」は渡航を前向きにとらえているお子さんにも必要です。単に海外で生活できるという楽しみだけではなく、実際に厳しいことがあること、それをどのように乗り越えればいいかなどを出国前に聞いて、心の準備をすることが大切です。
集めた情報をもとに、引っ越しの準備やお子さんの学校選択など、大まかな予定表をつくることをおすすめします。今後何をしていったらよいかがはっきりすると同時に、家族の中でどんな話し合いをしていけばよいかも明確になってくるはずです。

家族を帯同するか否か
最終的に、単身赴任をするのか、家族を帯同するのか、もしくは配偶者のみ連れていき、お子さんは学校の寮に入れるなどして日本に残すのか、決めなければなりません。
単身赴任でない場合は、家族同時での赴任なのか、扶養者があらかじめ何か月か前に渡航されるのかも、準備を進めるうえで大切なポイントとなります。お子さんのみを残していく場合は特に、親戚等ともよく話し合っておく必要も出てくるでしょう。
どのような形で赴任するにしても、今後、「家族」に与える影響についてよく考えなければなりません。親が強引に決めるのではなく、お子さんの意見もきちんと聞きながら、赴任後に問題が起きる場合も想定しつつ、みんなが納得する形で決められるとよいでしょう。
明るく前向きに
家族を帯同することが決まったら、多くの場合、親にはまず不安と希望が交錯します。
「引っ越しはどうするの」「どんな学校があるのだろう」という不安が出てくる一方で、「外国で得難い経験ができそうだ」「外国の言葉が覚えられる」など楽しみな気持ちも浮かんできます。
ただ、赴任日が近づくにつれて楽しみよりも、不安や心配のほうが先に立つのが普通です。特にお子さんが楽しい学校生活を送っているような場合は、友だちと別れるときの淋しさを察していつ外国行を知らせようかと悩むこともあります。さらに帰国したときの日本の学校のことも心配になります。
海外赴任は家族の理解と協力が不可欠です。お子さんの気持ちを前向きにするには、親自身が海外生活を肯定的にとらえ、楽しみに思うことが重要です。
子どもは親の背中を見ています。
家族で協力して集めた情報を共有し、これから始まる新しい生活について楽しく話し合うよう心掛けてください。

終わりに
海外赴任が決まり、家族の関係がイマイチと思われていても家族を帯同するかどうかを検討されることはとても大切です。
家族帯同での赴任を配偶者とともに考えてみること自体に「家族関係修復のチャンス」があるのではないかと思います。
これまでは話をしなくても生活できていたことがバラバラではいられなくなります。お子さんの将来の進路についても話し合わなければならなくなります。
「お子さんにどのような経験をさせたいか」「その経験を通してどのような力を身につけてほしいか」を考え、家族としての目標を決めることが大切になってきます。お子さんの意見を聞ける良い機会です。「海外赴任」がなければ、実はなかなか話し合うことのない内容かもしれません。
だからこそ、海外赴任が決まったら、まずは行くことを前提に話し合ってみてください。家族関係をよい方向に向けるために、たいへん意義があることだと思います。応援しています。
<回答者> 海外子女教育振興財団 教育アドバイザー 鈴木 敏彦(すずき としひこ) 海外での貴重な経験は誰もができることではありません。赴任前、赴任中、赴任後のことなど、帯同されるお子さんやご家族の方がポジティブになれるよう少しでも参考になることがあればお伝えしていきたいと思っています。よろしくお願いいたします。 プロフィール ・元愛知県公立学校校長 ・元アンカラ日本人学校教諭 ・元株式会社デンソー海外子女教育相談室長 ・2022年より現職







