筑波大学芸術専門学群の入試担当者と学生にお話を聞きました

<お話しを聞きました>
筑波大学 芸術系
芸術専門学群入試担当
宮坂 慎司 准教授 

 

 

2025年度入試(2024年度実施)より帰国生向けの入試を受験しやすい形式に変更 

——はじめに、筑波大学芸術専門学群の帰国生向け入試について概要をお聞かせください。

 

宮坂:現在、本学では帰国生に対応した入試として「外国学校経験者特別入試」を設けています。従来は海外経験を持つ受験生について、日本国籍と海外国籍で試験を分けていたのですが、2025年度入試より国籍にとらわれない試験を実施することになりました。それに伴って受験資格がこれまでよりわかりやすくなり、海外経験の期間についても緩和しました。もちろん、これらの変更は芸術専門学群にも反映されています。

 

また、これまでは若干名としていた帰国生向け試験の募集人員についても、本年度より入学定員の約5%を留学生や帰国生徒等に設定することとなり、芸術専門学群では「外国学校経験者特別入試」で5名の枠を設けています。受験生は具体的な募集人員の枠を意識しながら試験に臨むことができるようになったので、気持ちの面でも挑戦しやすくなったのではないかと思います。

 

筑波大学では、グローバル社会を生きるための主体性と総合性を育む真の総合大学を目指し、全学的な改革を実施しています。その改革を進めるにあたって、「グローバル」という言葉を耳にする機会は増えたものの、具体的にどのような施策を行えば「真のグローバル」を実現できるのだろうということを考えています。

 

もちろん、日本の学生が海外留学に行くこともひとつのグローバルの形です。一方で、海外の学生が日本で学びたいと思える環境を準備することも同様に重要であるというのも一つの考えです。これからの時代、グローバル化が停滞するとは考えづらく、社会や大学は引き続き世界に開いていくことが求められています。その交流の中で新しい刺激が生まれるのではないかと、受験しやすい制度づくりを推進しています。

 

 

——「外国学校経験者特別入試」の受験に必要な資格や対策についてお聞かせください。

 

募集要項や必要な提出物は、本学のホームページ上で公開していて、受験年度やその前年度の情報を確認いただくのが正確ですので、チェックしてもらいたいと思います。その上で、芸術専門学群のポイントは、制作に関する提出物が必要な点ですね。自分で制作した作品の写真や設計図、企画書のほか、小論文など、3点以内を資料にして送ってもらうことになっています。これらも入学志願票などと同様に出願書類に含まれていますので、事前にポートフォリオを作成するといったことも対策になってくると思います。

 

当日の試験については、「実技検査」と「面接」を実施しています。「実技検査」では、「論述」「デッサン」「書(臨書)」のうちからひとつを選択し、いずれも2時間で課題に取り組みます。「面接」は日本語での個別面接で、芸術に対する関心度や意欲、将来性、社会性を評価するほか、実技試験の自己評価や提出作品、第1種(長期就学者)では日本語能力についても併せて問います。

 

「外国学校経験者特別入試」は今年から実施する形式なので前例がないのですが、論述や鉛筆デッサンにおける課題のテーマや試験時間を把握する上で、芸術専門学群推薦入試や個別学力検査等(一般選抜)前期日程の過去問が参考になると思います。また、本学では学生が主体となってさまざまな入試情報を発信していますので、オープンキャンパスや学園祭など、ぜひそちらもチェックしてみてください。

 

〉〉筑波大学 大学入試情報サイト

〉〉筑波大学芸術専門学群 受験生の皆さんへ  

総合大学で芸術分野を学ぶ魅力は、幅広い学問に触れられる点

——帰国生に対して期待していることはありますか?

 

芸術は、多様なものに触れてきた経験や感性が非常に大事な分野です。海外での経験も例外ではなく、芸術に取り組む上で力になってくれると思います。また、本学で学ぶ他の学生にとってもいい刺激になることを期待しています。帰国生には、海外で身につけた価値観を発信しながら、熱意を持って筑波大学で学んでほしいと考えています。 

 

 

 ——最後に、筑波大学芸術専門学群への進学を目指す帰国生にメッセージをお願いいたします。

総合大学である筑波大学には、幅広い分野を学ぶことのできる環境が整っています。芸術に注力することはもちろん、海外で培った広い視野を活かしながら他の学問に触れ、それをまた芸術作品に反映することもできるでしょう。また、「外国学校経験者特別入試」以外にも、「国際バカロレア特別入試」なども展開していますので、受験生はそれぞれの強みを活かして形式を選択することもできます。自分の表現と向き合うには理想的な環境ですので、ぜひ期待感を持って本学を目指していただけたらと思います。 

 

 

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筑波大学 芸術専門学群 学生対談

筑波大学 芸術専門学群4年 酒井蔵人さん
筑波大学 芸術専門学群2年 深川穂乃花さん
筑波大学 芸術専門学群2年 深川穂乃花さん

グローバルな校風に惹かれたことが受験のきっかけ

——これまでの海外経験についてお聞かせください。

酒井:私はもともと日本の学校で勉強していたのですが、中学3年生の時のサマースクールでシアトルを訪れ、海外留学に興味を持ちました。そこで、カナダのビクトリアにある公立高校に語学留学。私の場合は2年半で高校卒業までのカリキュラムを修め、日本に帰国して筑波大学に進学しました。大学でも交換留学制度を用いて、イタリアのミラノで1年間生活した経験があります。

 

深川:父の仕事の都合で、幼少期をアメリカのアラバマ州、日本でいう中学3年から高校卒業までの期間をオハイオ州で過ごし、それ以外の期間は日本で生活していました。酒井さんとは異なり、私の場合はアーリー卒業を使わずにアメリカの高校を卒業。その後、日本に戻って筑波大学に入学しました。 

 

 

 ——筑波大学の芸術専門学群に進学したきっかけを教えてください。 

深川:父の海外駐在の任期と私の高校卒業のタイミングが重なっていたこともあり、自然な流れで日本の大学に進学することを決めました。私は小さい頃から絵を描くのが好きで、せっかく大学に進むのであれば好きなことに挑戦したいと日本の美術系大学や学部を調べるようになりました。美術大学も視野に入れる中で筑波大学を選んだ決め手は、総合大学ならではの学びに魅力を感じたからです。美術を専門的に学びつつ、それ以外の分野の勉強もできるところに強い憧れを抱きました。筑波大学が多様性を重視していると知ったことも大きなきっかけになっています。

 

酒井:デザイナーとして働く父に影響を受け、自分も芸術系の道に進みたいと考えました。ただ、海外で生活していると日本の進学に関する情報がほとんど手に入らなくて……。日本に戻ってきた休暇期間中に手探りでアドミッションポリシーをはじめとする大学の情報を集めました。そんな時、筑波大学に芸術専門学群があることを知り、帰国生に向けた入試を実施しているということで、「ここしかない!」という気持ちで受験しましたね。  

 

 

——芸術専門学群を受験するにあたって、どのような対策をしましたか?

 

酒井:今年から新しく実施される「外国学校経験者特別入試」の実技では「論述」「デッサン」「書(臨書)」からひとつを選択しますが、当時の入試では2種類の実技に取り組む必要があり、僕は「デッサン」と「平面構成」で受験しました。予備校には通わず、参考書やYouTubeを使って独学での対策を続けました。本番でベストの力を発揮できるように、日々全力で練習していましたね。部屋にあるものをひとつずつ選んでデッサンし、描くものがなくなるまでやろうと努力を重ねました(笑)。入学後に同級生に話を聞くと、ほとんど全員が予備校に通っていたらしく、カルチャーショックを受けました。

 

深川:私も酒井さんと同じ形式で受験し、実技では「論述」と「デッサン」を選択しました。筑波大学の小論文に強いオンライン予備校があり、アメリカにいた時からそれを利用して論述の対策をしていました。デッサンに関しては、小さい頃から絵は描いていたものの、受験で必要な画力がまったくわからないという状態でした。日本に帰国してから半年足らずの期間で毎日予備校に通って絵を描き、合格に必要となるノウハウを詰め込みました。

 

入学してからも自分の進みたい道を見つけられる環境  

——入学後の学びの魅力についてお聞かせください。

酒井:僕は現在、情報・プロダクトデザイン領域で制作や研究に取り組んでいます。これは名前の通り、デジタルからアナログまであらゆるプロダクトの制作に関わることのできる領域です。アプリを開発している人もいれば、木材などを使ってプリミティブな製品をつくっている人もいます。例えば僕の場合、椅子をつくっています。入学時の僕はグラフィックデザインに関心があったのですが、ある時に受けた椅子をつくる授業が面白くて方向転換しました。僕のように、入学してから進みたい道を見つけられるところは芸術専門学群の魅力ではないでしょうか。

 

深川:私は入学前からファインアートに関心があり、特に日本画を学びたいと思っていました。芸術専門学群では3年次から領域が分かれるので、2年生の現時点では本格的な日本画の研究に取り組んでいませんが、今後に向けて準備を進めているところです。中でも日本画の画材の美しさに魅力を感じており、その分野の研究に携わりたいと考えています。

 

酒井:これは筑波大学全体の話ですが、多様性溢れる環境も大きな魅力だと思います。僕が所属する研究室だけでも10人中7人が海外からの留学生や帰国生で占められており、ブラジルやフランス、インドネシアなど、幅広いバックボーンを持つ学生と交流することができます。僕自身、留学していた時と同じくらい英語を使っていますね(笑)。 

 

 

——大学生活において、海外での経験が役に立っていると感じる場面はありますか?

 

深川:アメリカの高校で美術を学んでいた際、生徒同士でお互いの絵についてコメントする時間がありました。「この絵は何がモチーフなの?」といったように相手が興味を持って問いかけてくれて、私もそれに応えていました。競い合わせるのではなく、お互いの考えを伝え合わせる授業だったんです。そんなアメリカでの授業を通じ、自分の作品の意図を伝えたり、相手の作品を汲み取ったりする力を養うことができたと考えています。この力は大学で美術を学ぶ現在も役立っていますね。

 

酒井:プロダクトデザインは、日常生活と密接に関わる芸術分野です。そして、当然ながら日本と海外の生活様式は大きく異なっています。そのため、海外の街を散歩しているだけでも、バスの形や看板の表記といったあらゆるプロダクトから各国の歴史や生活のあり方を感じ取ることができるんです。このように、日本と違うプロダクトに触れてきた点は、自分の強みなのではないかと思っています。  

 

 

——日本の美術系大学・学部への進学を目指す帰国生にメッセージをお願いいたします。

酒井:海外から日本の大学、特に美術系の大学に進むと決めた際、周囲との環境の違いに不安を覚える人も多いと思います。僕自身もそうだったので、気持ちはすごくわかります。ただ、人とは違う環境で頑張ってきた部分は、絶対に大学も評価してくれると思います。画力や表現力といった技術は大学に入ってから伸びるので、受験時は自分の努力に自信を持って挑戦してもらえたらと思います。

 

深川:日本人の心を持ちつつ、海外での特別な経験もあるという点で、帰国生は日本において貴重な人材だと考えています。もちろん、筑波大学もそうした経験が活かせる場所だと思いますので、何も恐れずに挑戦し、入学後も自分の好きなものを探求し続けてほしいと思います。  

 

酒井さん、深川さんの作品・活動をご紹介

■酒井蔵人さん

ユーザーの身体とインタラクトするアウトドアチェア
廃材を利用したリサイクルキッズチェア
コロナ禍を明るく照らすプロダクト
コロナ禍を明るく照らすプロダクト

■深川穂乃花さん

芸術専門学群の入試(午後・デッサン)対策
芸術専門学群の入試(午後・デッサン)対策
大学での授業(石膏デッサン)に向けた練習
他大学日本画科の水彩試験を想定した受験期の作品
他大学日本画科の水彩試験を想定した受験期の作品

(取材協力) 筑波大学