ハワイで出会った海外の絵本と自由な学びの環境が絵本作家としての発想力を広げてくれた 絵本作家 わたなべあやさん
2026年9月7日

ハワイで出会った海外の絵本と自由な学びの環境が絵本作家としての発想力を広げてくれた 絵本作家 わたなべあやさん

「おやさい生活えほん」シリーズ(ひかりのくに)、「くだものおやくそく絵本」シリーズ(あかね書房)などで知られる絵本作家のわたなべあやさんは、1歳から5歳まで父の赴任先であるハワイで生活した経験を持つ。ハワイの保育園で初めて水彩画を体験したことで絵が好きになり、帰国後は美術の道へ。日本の美術系短大を卒業後、2003年に絵本作家デビューした。ハワイの自然や自由な学びの環境は、わたなべさんの作品にどのような影響を与えているのか? 海外で得た経験と現在の作品づくりの接点について詳しく聞いた。

 (取材・構成:ミニマル丸茂健一)

1歳から5歳までハワイのホノルルで生活  

絵本作家のわたなべあやさんは、野菜や果物、豆腐、パンなどの「食べもの」をキャラクター化した作品で知られている。代表作の「おやさい生活えほん」シリーズ(ひかりのくに)、「くだものおやくそく絵本」シリーズ(あかね書房)では、幼児の日常生活やしつけについて、ユーモラスに伝える作品を数多く手がけており、子育てが楽しくなる絵本として人気を得ている。「おやすみやさい」「ごめんやさい」など、思わず手に取りたくなるような言葉遊びを用いたタイトルも特徴の一つだ。  

ハワイで出会った海外の絵本と自由な学びの環境が絵本作家としての発想力を広げてくれた 絵本作家 わたなべあやさん

「おやさい生活えほんシリーズは、2歳から4歳児が主な対象で、子どもたちに野菜を好きになってもらいたいという願いを込めてつくりました。ジャガイモ、ニンジン、ダイコン、ピーマン、キャベツなどを擬人化しているのが特徴で、子ども時代を過ごした埼玉県川越市の名産品である“さつまいも”のキャラクターも絵本に登場します」  

 

武蔵野美術短期大学デザイン科卒業後、同大学専攻科を修了し、2003年に絵本作家デビュー。作家歴はすでに23年になるわたなべさんにとって、絵本の道を志すきっかけになったのは、幼少期のハワイでの生活だった。  

 

「1歳から5歳まで、父の赴任先だったハワイのホノルルで育ちました。ワイキキビーチの近くです。ハワイの保育園で、水彩絵の具に触れ、色の使い方がきれいだと先生にほめられたのをよく覚えています。そこから絵を描くことが大好きになりました」  日本に帰国後、わたなべさんは、本格的に絵の道を志すようになる。将来の夢は、「絵画の先生」。中学校卒業後は、デザイン科のある高校に進学し、オリジナルのキャラクターづくりに熱中した。本人曰く、当時描いていたのは、「不気味な生き物」。顔が青く、身体が黄色いネコのキャラクターなどが脳内を駆け回っていた。

 

「5歳で日本に帰国したとき、幼稚園で周囲の環境に馴染めない経験をしました。海外から変わった子が来たという扱いを受けたようで……。そのとき、絵を描いてみんなに見せると『すごい!』『うまい!』と言って認めてもらえました。その経験もあって、絵がますます好きになりました」

 

美大の先生から「君なら絵本作家になれる!」

高校卒業後は、武蔵野美術短期大学デザイン科に進学。絵本をつくる授業を受けた際に、わたなべさんの課題作品を見た先生から「君なら絵本作家になれる」と言われ、絵本をつくるという仕事を意識し始める。その後、社会人向けの絵本作家養成ワークショップなどにも通い、出版関係者とのネットワークを広げるなかで、次第に絵本作家への道が拓かれていく。  

 

デビュー作は、「うめぼしくん」。田舎のおばあさんがつくった梅干しのキャラクター“うめぼしくん”が、ひょんなことから町に繰り出し、大騒ぎを引き起こしたあと、おばあさんの家に戻るまでのストーリーをユーモラスに描いた。町中で、ショートケーキの上にのったりした“うめぼしくん”が、最後におばあさんの家のおかゆの上に乗っかるラストの描写はなんともシュールだ。

 

「うめぼしくんはもともと、学生時代に授業でつくった絵本が土台になっています。日本人としての私というテーマで作品をつくるという課題で、その当時、梅干しが好きだったので、擬人化して主人公にしてみました。梅干しみたいな小さな食べものが動いたら、かわいいなぁと思って。好きな食べものをキャラクターにするという発想が生まれたのは、ここからかもしれません」

2026年6月に開催した「くだものおやくそく絵本」シリーズの原画展
2026年6月に開催した「くだものおやくそく絵本」シリーズの原画展  

わたなべさんの絵本作品で、数多くの原作を担当するきだにやすのりさんは、「絵の具の塗りがきれいで、キャラクターの存在感が強い」とわたなべさんの原画を評価する。水彩絵の具を何度も塗り重ねる手法で生まれる表現は、デジタル技術ではなかなかできないものだという。そこには、海外の絵本を見て育った影響があるのではないかときだにさんは推測する。

自由に絵を描かせてもらえたハワイのプリスクール時代

わたなべさんが、ハワイのプリスクールに通っていたのは1980年代。英語オンリーの環境で、さまざまな国籍の子どもたちと一緒に絵を描いたり、おままごとをしたりして遊んでいた。水彩画の時間は、とにかく自由に何でも描かせてもらえた。わたなべさんが経験した日本の絵画教育では、手順やモチーフが決まっていたが、ハワイではすべてが自由だった。食べものが人間の言葉を話し、町に繰り出す自由な発想力はここで培われたのかもしれない。

プリスクールに通っていた5歳頃
プリスクールに通っていた5歳頃 
ハワイ時代に読んでいた絵本たち
ハワイ時代に読んでいた絵本たち

また、この頃に出会ったのが、白雪姫やバンビ、セサミストリート、ストロベリーショートケーキなど海外のカラフルな絵本たち。コミカルながら、やさしさを感じさせるわたなべさんの絵本作品のキャラクターたちは、「海外の絵本からの影響もあるかも……」(本人談)。さらに、さまざまな種類の野菜や果物が仲よく暮らす代表作の背景にも海外暮らしの経験が反映されているという。

 

「ハワイで住んでいたコンドミニアムには、アメリカ人はもちろん、ドイツ人、ハンガリー人、ベトナム人、韓国人など、さまざまな国から来たファミリーが住んでいて、パーティなどに招かれた記憶もあります。いろいろな食べものが一緒に暮らす私の絵本の世界は、その当時見ていた多国籍の人々が仲よく一緒に暮らす理想郷が表現されているのかもしれません」

 

自らの絵本作品の英語版をハワイの書店に並べたい!  

わたなべさんの将来の目標は、自らの絵本作品の英語版を出版し、ハワイの書店に並べること。すでに中国語、韓国語、ベトナム語、タイ語の翻訳版が出版されており、夢の実現はもう間近だろう。最後にわたなべさんから海外で学ぶ子どもたちや帰国生に向けて、応援メッセージをいただいた。

海外版に翻訳されたわたなべさんの絵本作品
海外版に翻訳されたわたなべさんの絵本作品

「ハワイから戻ってきて、最初はカルチャーショックがありました。ハワイでは知らない人でも互いに挨拶をするし、子どもを見れば無条件でかわいがってくれる。でも日本では、誰も挨拶をしない。こうしたギャップに最初は苦しみました。帰国後は、コミュニケーションに悩んだ時期もありましたが、ハワイで好きになった絵を評価してもらうことで、仲間を増やすことができました。そして、絵本作家になったいま、作品の背景に幼い頃の海外経験の影響を感じることがあります。海外で得たものは、必ず将来の糧になるのです。いま海外にいる人はぜひ日々を楽しんで、貴重な経験からたくさんのものを吸収してください!」

 

   【profile】 
わたなべあや
 絵本作家
1978年東京都生まれ、埼玉県出身。1歳から5歳まで父の赴任先であるハワイのワイキキで育つ。ハワイの保育園で初めて水彩画を体験したことで絵が好きになる。武蔵野美術短期大学デザイン科卒業、同大学専攻科を修了し、2003年に絵本作家デビュー。代表作は「おやさい生活えほん」シリーズ(ひかりのくに)、「くだものおやくそく絵本」シリーズ(あかね書房)、「ぱんぱんでんしゃ」シリーズ(フレーベル館)など多数。食べものと子育てをテーマにユーモアあふれる絵本を描いている。日本児童出版美術家連盟会員。
 Instagram:https://www.instagram.com/watanabeayaehon 
 
 ※日本児童出版美術家連盟は、海外子女教育振興財団と協力し、わたなべあやさんをはじめとした有志の会員の方々の作品を海外の日本人学校や補習校および日系幼稚園に提供しています(https://www.joes.or.jp/zaigai/bookdonation)。