【シリーズ:地球はどこでもミュージアム!】スポーツの力を感じるミュージアム 後編
2026年7月27日
特集

【シリーズ:地球はどこでもミュージアム!】スポーツの力を感じるミュージアム 後編

 

 

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【訪問1】日本オリンピックミュージアム

 

取材協力: 日本オリンピックミュージアム

 

栗原さんおススメの館のひとつめは日本オリンピックミュージアム。JR千駄ヶ谷駅から少し歩くと、巨大な国立競技場が見えてくる。それに沿ってさらに進むと、緑地の向こうにビルがあらわれた。足元には、見慣れたオリンピックシンボルの大きなオブジェが。    

日本オリンピックミュージアムは、2019年に公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)によって設立された。日本のオリンピック・ムーブメントの発信拠点として、「みんなのオリンピックミュージアム」をコンセプトにかかげている。 

 

案内してくれたマネージャーの下湯(しもゆ)直樹さんは、「当館は、アスリートとともにつくるミュージアムなんです」と言う。オリンピアンとの交流イベントや体験授業などを実施して、オリンピアンの生の声を伝えている。ミュージアムがオリンピアンの活動拠点となることも多いそうだ。

 

「生の声だからこそ響くものがあると思っています。それが一般の博物館との大きな違いかもしれませんね」

 

取材当日は、1階でミラノ・コルティナ冬季オリンピックの企画展が開催中だった。 フィギュアスケートの衣装やスキーのユニフォームを見ていると、ちょっと前にテレビで観た競技のシーンがよみがえってくる。ボブスレーのボディは傷だらけだ。「そうか、これが感動と資料劣化のジレンマ…」と、栗原さんの話を思い出した。その横では、TEAM JAPANオフィシャルスポーツウェア試着体験や、カーリングのストーンや車いすカーリングのデリバリースティック(投てき具)などが体験できるようになっている。こうしたスポーツ資料も積極的に競技団体から提供を受けているそうだ。

 

「オリンピックが開催される前に、JOCから各競技団体に『●●選手の、フリー演技のコスチューム』などと具体的に収集希望を伝えています。メダルの色とかは関係ありません。ただ、最終的には選手の意思にお任せしていますから、誰かにあげちゃった、とかの場合もあります。寄贈しようと思っていたけど成績がふるわなかったので辞退したいと言われることも…まあ、気持ちはわかるのでしょうがないですね」       

そんな裏話を聞きながら、国立競技場を望む明るい階段を上って2階へ。 

 

2階はEXHIBITION AREA。「オリンピックを知る、学ぶ、感じる、挑戦する、考える。」をテーマに、5つのゾーンに分かれている。 

 

KNOW[知る]では、オリンピックを様々な視点から紹介する展示がある。経済、都市、環境、社会、スポーツの5つの視点から「オリンピックの遺産」を説明したコーナーでは、競技だけではないオリンピックの奥深さと多方面に及ぼす影響を改めて実感する。   

赤い壁には歴代オリンピックの聖火トーチがずらりと並んで壮観だ。そしてつき当りには、TOKYO2020オリンピックの開会式で世界を驚かせた、あのスポーツピクトグラムの姿が。

 

「この衣装、本物ですよ。足元も見てくださいね。地下足袋スタイルのスニーカーです」 

 

この青いボディが、実際に国立競技場を走り回っていたんだ…。     

FEEL[感じる] のオリンピックシアターでは、ゆったりした椅子で競技やセレモニーの映像を大画面・大音響で堪能できる。 

 

LEARN[学ぶ]は、日本とオリンピックに関する展示。TOKYO2020だけでなく、1998年長野冬季大会や1964年東京大会、さらにはそれ以前の、戦争によって幻となった1940年東京大会の展示も。起点になる位置にあるのが、あの嘉納治五郎の写真だ。     

人気が高いのがTRY[挑戦する]のゾーン。ここではオリンピックでおなじみの競技の動きを実際に体験できる。画面に表示されたオリンピアンの記録に挑戦するのだ。子どもたちはもちろん、大人も結構本気になってやっている。 ちょっとやってみたが、いやもう、全然ダメだ。こうやって自分の身体を動かしてみることで、オリンピアンの身体能力のすごさを実感できる。    

そして、下湯さんが「もっとも大切な展示」と言うのが、THINK[考える]ゾーンの「オリンピズムストーリー」だ。壁いっぱいにパネルが並び、オリンピックで生まれた様々なストーリーを展示している。

 

「『オリンピズム』って形がないから、展示しにくいものです。そこで、オリンピズムを体現している競技の1シーンや選手のエピソードを、解説を添えて紹介しています。その瞬間を感じ、そこから考えてほしいんです」 

 

選手の思考や人柄まで感じさせる、これはまさに栗原さんの言っていた「ストーリー」の展示だ。 壁にずらりと並んだ選手の名前には、おなじみのものもあれば、はじめて知るものもある。そしてどのパネルにも漫画が1ページ。これが、ぐっと感情に訴えてくる。人気漫画『スラムダンク』(集英社)作者の井上雄彦さんの事務所制作によるものだという。 

 

下湯さんが一番好きなパネルは「城戸俊三」だそうだ。1932年ロサンゼルス大会、馬術の障害レースで、50個ある障害の最後の一つを前に、馬の疲労が限界だと判断してその命を守るために下馬、途中棄権した。疲労困憊の愛馬に顔を寄せて、「もう十分だ」と語りかける城戸選手の姿が漫画になっていて、これは涙腺にくる。パネルの下には、彼の行為をたたえてアメリカ人道協会が設立したという記念碑が置かれている。 

 

一つおいた右側にある乗馬ブーツは、同じく戦前の馬術競技で名をはせたバロン西こと西竹一選手のものだ。

 

「パリ2024大会で大活躍した日本馬術チーム(初老ジャパン)が来館されたときにご案内したら、『ここにあったんだ…』と、みなさん感慨深い表情で見入っていらっしゃいました」と下湯さん。      

さらにパネルの中心に設置されたスクリーンでは、動画が上映されている。選手本人が登場する自分語り、インタビュー、そのほかにアニメーションやクレイアニメの全8話。有名な選手ばかりではない。いや正直に言えば、はじめて聞く名前のほうが多い。競技中にストックが折れた相手チームの選手にストックを渡したスキーコーチ、相手チームの転覆したヨットを、競技を中断して救いに行った選手、紛争地域で十分な練習環境もない中でオリンピックに出場した選手の想い…。

 

「オリンピックは競技大会なんです。勝敗より、みんながベストの状態で競技することが何よりも優先されないといけない、という精神があるんですね」 

 

ソファに座って、全編33分を通して見ていく人も少なくない。副館長をつとめるオリンピアン小谷実可子さんもここが好きで、映像の前で涙ぐんでいる姿が時々目撃されているそうだ。    

最後のコーナーには、パラリンピック関係と、オリンピックを支える人に関する展示がある。

 

「オリンピックはもちろんですが、スポーツは自分がするだけでなく、人が取り組んでいる姿から刺激を受け、活力が生まれるもの。自分も頑張ろうというきっかけをつくってくれる。そういう普遍的な価値があると思っています」という下湯さん。オリンピックミュージアムは、単にオリンピックの感動を振り返る場所であるだけではない。オリンピックとは何か、そして自分とのかかわりについて考えるきっかけを提供していきたいと、熱をこめて話してくれた。   

 

いま海外に住んでいる君へ

下湯直樹(しもゆ なおき)さん(日本オリンピックミュージアム 学芸員、マネージャー)
下湯直樹(しもゆ なおき)さん(日本オリンピックミュージアム 学芸員、マネージャー)  

スポーツは好きでテニスとかサーフィンはやっていましたが、格別熱心に打ち込んでいたわけではありません。最近はサッカーや野球を見るくらいです。博物館学の研究者だったので、まさか自分がスポーツミュージアムの学芸員になるとは思ってもいませんでした。 

 

オリンピックは人種や肌の色、国籍抜きにしてそれぞれのベストを尽くす場です。いま海外に住んでいるみなさんは、まさに同じような状況にありますよね。それは日本国内だけで育っていたとしたら経験することのないとても貴重なものですから、どうぞたくさん刺激を受けてきてください。実は私の姪っ子姉妹も、海外で育っています。彼女たちの現地での活躍を聞くのは、とてもうれしいものなんですよ。 

 

近代オリンピックの父クーベルタンは、若いアスリートたちの国際交流について、「漕ぎ手たちを、走者たちを、そして剣士たちを外国へ送り出しましょう。彼らは平和の使者になるのです」という言葉を残しています。いままさに外国に送り出されたみなさんに、この言葉を贈ります。 

 

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