<相談> 乳幼児を連れて海外赴任しますが、準備を含め、気をつけるべきことを教えてください。
1.海外で子育てをするために大切なこと
海外で子育てをする、とりわけ乳幼児のお子さんを連れての生活には様々な不安があると思います。何よりも大切にすべきことは「家族が協力して子育てに臨む」ということです。
初めての海外生活で親の心細さや不安が募っていけば、それはおのずとお子さんの精神状態や発達に影響を与えます。家族皆さんが力を合わせて笑顔で子育てできる環境を作りましょう。
特に赴任者の配偶者、家で主に子育てをする方が孤独感を持たないようにすることが大切です。頼れる日本人のコミュニティや現地での先輩日本人とのつながりは大切にしましょう。
また、滞在国の教育事情をよく理解しておくことをお勧めします。外国では日本国内の子育てや教育とは基本的な違いや制約があることを理解し、それぞれの長所・短所を見極め、家庭の教育方針に沿った子育てをしていきましょう。

2.母語の獲得と保持について
多くの日本人の場合、母語は「日本語」です。海外で生活する小さなお子さんは、この母語の獲得について最も留意する必要があります。母語は「ことばの基礎力」となり、その後の就学期での学習、また生涯にわたっての思考力、表現力につながります。
また感情のコントロールにも影響を及ぼします。小さなお子さんが保育園で友達にかみついてしまうということを聞いたことがあると思いますが、感情を表す言葉の力がないが故の「かみつき」ととらえると納得できると思います。
母語が急激に発達する2~4歳頃、いわゆるおしゃべりができるようになる時期、更に赤ちゃん語から大人の使う言葉に移行する4~8歳頃、母語の基礎ができる時期がとても大切な時期です。この2歳から8歳の頃が言葉の発達に最も大切な時期といえます。 しかし、この時期に海外で過ごす場合、「日本語」に触れる機会が極端に減ります。何も配慮しないと子どもは外国語の環境の中でどんどん現地の言葉を吸収し、逆に日本語を使わないことで日本語を失っていきます。
乳幼児期に海外で過ごす際にはまず「母語の獲得と保持」について配慮してください。

3.海外で日本語を育てる方法
では、実際にどんなことに心がけて日本語を保持させ、育てていけばよいのか、具体的な方法を紹介しましょう。
正しい日本語の会話の徹底
お子さんと会話するときには、意識的に丁寧な会話を心がけましょう。
食事の支度ができたときには「ごはんよ」と簡単に言いがちですが、「ごはんの用意ができたわよ」などのように省略しないで話す習慣を心がけてください。これは、少しでも日本語の語彙を増やすということにつながります。もしお子さんが間違った日本語を使い始めたら、「間違っているよ」とだけ指摘するのではなく、正しい言い方や見本を具体的に示して言い換えてあげるようにしましょう。
本(絵本)の読み聞かせ
本(絵本)の読み聞かせは最も有効な方法です。絵本の中には日常会話ではあまり使わない豊かな日本語表現がたくさん出てきます。何度も繰り返し聞くことで日本語の読解力もおのずと伸びていきます。これは小学生以降にも続けたいことです。
絵本の読み聞かせを通して、本好きの子どもに育てることが、就学期以降、自分で読書をする習慣にもつながります。 また、読み聞かせをしたあと、本を読みっぱなしにするのではなく、「どんなところが心に残っているか」「一番好きな場面はどこか」など、話の内容について会話をたくさんしてください。自分の考えを言葉にするということも日本語を育てるための有効な方法です。
日本語のシャワー(日本語の音声にたくさん触れる)
日本人のコミュニティに積極的に参加し、生の日本語をたくさん聞いたり、話したりすることは有効です。せっかく海外に来たのだからと、あえて日本人とは交流しないようにするという方がいると聞きますが、これはお子さんの日本語の保持にとっては逆効果になります。
言葉の習得は「聞く」ことが基本です。たくさん「聞く」、そして特に同年代のお子さんとたくさん「話す」ことはとても有効な方法です。
配信サービス等の利用
今は様々なコンテンツが手に入りやすい時代です。海外にいても日本の良質な動画や歌などで日本語にたくさん触れることは有効です。
ただし、なかには良くないコンテンツも見受けられます。YouTubeなど簡単に子どもが操作できるものもありますから、必ず保護者が一緒に扱うことを前提にしてください。

4.幼児施設の選び方
日本で幼稚園や保育園に通っていた場合、海外でも早いうちに幼児施設に通わせることを希望されていると思います。海外の幼児施設、またそのシステムは国によって大きく異なります。まず、その国の幼児教育の仕組みをよく理解し、それに合わせてお子さんにあった幼児施設を選択してください。
アメリカやイギリスのように公立の幼稚園の最終年度は公立の小学校に紐づいている国もあります。その場合は学区制が多くなりますからどこに住むかということが関係してきます。それ以前の年齢のお子さんの場合は私立の幼児施設を探すことになります。
また、インターナショナルスクールの幼児施設であれば、小・中・高校段階まで継続しているところがほとんどです。 そして、ローカルの幼児施設の場合は、子どもが通う日数や時間はそれぞれですので、よく調べておきましょう。
まず、その園の保育方針を確認する。次に、実際に見学して保育者と子どもの関係性、施設全体の安全性、衛生面等を自分の目で確かめる。焦って園を決めるより、お子さんにあった施設をじっくり選び、きちんと納得した上で入園を決めましょう。
実際に登園が始まってからもお子さんの状況をよく観察して少しでも不安なことがあれば早めに園に伝えてください。海外では子育ての文化が異なるので、子どもが一人でポツンとしていてもそのままにされてしまうことがあります。「一人でいることが好きな子ども」という解釈をされてしまうケースがあるということです。 これは文化の違いなので、はっきりと保護者の希望を伝えなければなりません。もし合わなければ早めに別のところに変わるということも大切なことです。

5.その他の留意点
子どもの発達には、それぞれの年齢に特徴的なことがあります。言語の獲得以外にも留意すべきことがあります。
乳幼児期には滞在国の気候や食料事情に合わせた健康管理、食習慣への配慮は欠かせません。活発に体を動かした方がよい時期に、滞在国の事情で自由な外遊びができない場合は、大人が意識的に体を動かせる環境を整えましょう。
幼児後期(4~6歳頃)は、自我が芽生え周囲と自分の違いを気にするようになります。子どもの内面の変化を見逃さず、少しでも気になることがあれば、すぐに園の先生に伝えましょう。親が子どものよい聞き役になるということがとても重要です。
また、日本への本帰国が近づいてきたら、日本の幼稚園や小学校のシステムを具体的に教えておいてあげましょう。
そして、多少なりとも帰国後にカルチャーショックがあることを想定しておきましょう。

最後に
子どもの時期に海外生活を経験することはとても貴重なことですが、乳幼児期であれば現地で身に着けたことが帰国してすぐに忘れてしまうこともよくあります。それを無理に保持するという考え方は危険です。
子どもが「今」いる環境で、少しでも安心して過ごせることを保護者として第一に考えてください。
そして、いつか帰国するのであれば、その時のことも考えて、お子さんの生活や学習の環境を整え、有意義な海外生活を送っていただきたいと思います。
<回答者> 海外子女教育振興財団 教育アドバイザー 中村昌子(なかむらまさこ) これまで海外で様々な経験を積んで帰国された多くのお子さんと学んできました。日本での生活・学習適応に苦労しながらも、海外での経験を周囲に発信していくことで自信をつけていくお子さんたちの素敵な姿を支援することは大きな喜びでした。
- 帰国生だけの特設学級(国際学級)を併設する東京学芸大学附属大泉小学校にて35年間勤務し、国際学級主任、主幹教諭を歴任し、帰国生の面接等も担当
- 元東京学芸大学講師
- 2020年より現職







