基調講演を終えて ——馬奈木俊介先生インタビュー 前編
2026年2月9日
Davos Next

基調講演を終えて ——馬奈木俊介先生インタビュー 前編

全日程を終了したJOES Davos Next 2025。「ウェルビーイング」というちょっと抽象的であいまいでわかりにくい、でも私たちにとってとても大切な言葉について、世界中に住んでいる子どもたちがつながって、ともに考え、学び、語り合った4カ月間でした。それぞれの場所から参加してくださった子どもたち、そして子どもたちを支えた大人のみなさん、本当にありがとうございました。

 

基調講演の講師をつとめてくださった馬奈木俊介先生(九州大学主幹教授・国連Inclusive Wealth Report Director)に、講演後、感想をお聞きしました。

 

講演前のインタビューでは、「自分の頭で考えながら、きちんと議論をしていくことが大事」と話しておられた馬奈木先生。今回もやはり、「自分で考えること」の大切さからはじまって、「社会の合意形成にかかわるためにも発言する」「どうすれば自分のやりたいことが実現できるかを考える」など、未来を生きる子どもたちへの力強いメッセージをたくさんいただきました。

盛りだくさんなインタビューを、2回に分けてお届けします。

(取材・執筆:只木良枝)

 

——JOES Davos Next 2025の基調講演、ありがとうございました。講演前のインタビューで、「子どもたちに向けて話す機会はこれまであまりなかった、内容はこれから考える」とおっしゃっていましたが、いかがでしたか?  

 

そうですね、特にやりにくいということはなかったです。

 

私からお渡ししたわかりにくい(笑)資料を、事務局のみなさんがきれいなスライドにしてくださって、その内容に沿って、桑原さんとの対話形式で、何も気にせずに話すことができました。

 

スライドにはできるだけ文字を使わないようにしよう、図やイメージを入れよう、お金や仕事の例は使わないほうがいいかな、などと、いろいろ考えました。

 

まあでも、そもそも私は、講演内容が100%伝わるとは思っていないんですよ。相手が大人であったとしても。特に私の扱う事柄はいろんな分野を融合しているのでわかりにくいんですね。

 

相手が同僚でも国連の委員でも、行政官や専門家でも、あるいは一般の方でも、こちらが言いたいことを100%伝えるということは難しい。だから1%でも、ちょっとでも伝わればそれでいいと思っていました。  

 

 

——ウェルビーイングの重要な要素のうち「お金」の話題のときに、ケーキで説明されていましたよね。

 

ああ、そうでしたね。ただ、お金ではなくケーキでいこうというアイデアを出したのは私じゃなくて、事務局の方でした。

 

相手にわかりやすい例を使って話さないと、ちゃんと伝わりません。私、80代の方たち向けの講演では、基調講演でもふれた「健康」の話ばかりしますよ。腸内細菌の話とか。ヘルニア手術のことなんか話すと、「ああ、私もやったのよ~」って共感してくれて、話を聞いてもらいやすくなります。  

 

 

——先生が特にこだわって出された図版ってありましたか?  

 

子どもが興味を持つならアニメや漫画かなと思って、漫画『鬼滅の刃』の1シーンを提案しました。「人のためにすることは、巡り巡って自分のために」というセリフのコマです。残念ながら漫画の絵は著作権に配慮してスライドから外したんですが。

 

 

——講演の最後のスライドですね。

 

私、子どもと一緒に見たアニメとか、飛行機のなかで見た映画などに自分なりの解釈をして、どんどん周りの人に喋るんですよ。

 

ちょっと前のアニメは世界平和みたいなテーマが多かったけど最近は「自分の家族を守ろう」みたいなメッセージが強くなってきているとか、トランプさんが大統領になろうとしたのは理由があってそれが今の政策につながっているんだ、とか。

 

『ワンピース』なんかもそうですね。窮屈だけど王様のもとで生きていくのか、それをぶち壊す方に行くのか、その間を目指すのか、社会はどこに行くのがいいんだろうっていう、強いメッセージがあります。だからウケルんですね。  

 

 

——そういうこところを考えさせるようにできているんですね。

 

みんなからは「そんな解釈するのは君だけだよ」とか「ネタバレやめて」とか言われるんですけどね(笑)。でも、そうやって喋ることで、私の考え方が相手に伝わればいいなと思うんですよ。そっちの方がミスコミュニケーションが減るでしょう?

 

 で、この「自分なりの解釈」を、子どもたちにぜひやってみてほしいです。先生とか親とか、大人はいろんなことを言いますよね。それはそれとしてうまく聞き流す能力も必要ですが、それよりも、きちんと自分の意見を持つこと、そしてそれを喋ることが大事なんです。  

 

 

——今回の基調講演は、子どもたちからの質問を織り交ぜながら進みました。大人相手にお話しされるときとは、印象が違いましたか?

 

うーん、それは逆ですね。むしろ一緒だったと思っています。 

 

私の話がいつもゆるいっていうのもあるかもしれませんが(笑)、「なんでも全て数値化できますか」とか「幸せって測れるんですか」とか「計測をミスったらどうするんですか」とかって、大人でも子どもでも、ありがちな質問なんですよ。基本、大人も子どもも同じだなと感じました。 

 

ただ、そういう社会全体にかかわる質問にまじって、「うちのおかあさんはコーヒーを飲んでいるときに幸せを感じるそうですが」と自分の家族の例をあげたコメントがあって、この子は自分の家族からウェルビーイングを考えようとしている、面白いなと思いました。 

 

社会のことと自分のこと、両方考えられたらいいですよね。そういう質問を、桑原さんからバランスよく投げていただいたので、やりやすかったです。講演が終わってシーンってなるのが一番イヤなんですよ。  

 

 

——「どなたか質問ありますか」と聞いても誰も手を挙げない……気まずい沈黙ですね。  

 

それ、何のために自分は1時間喋ったんだろう、と思うじゃないですか。だったらもう早く終わろうよって(笑) 。

 

私は答えにくいことでもなんでも、いっぱい質問してもらうほうが好きです。だから、人の講演の時は、一番最初に質問します。みんなカッコいい賢い質問しようと考えこむんだけど、質問や反論の内容なんてだいたい講師自身はわかっていることですから、私はものすごく低レベルなことを聞きます。

 

他の聴衆に対して、「こんなことでもいいから喋ろうよ」とメッセージを出すわけです。知識を競う「賢い合戦」じゃないんだから。自分が司会している時なら、周りにふって無理やりにでも発言させます。質問じゃなくて、コメントでもいいんです。「全然興味わかなかった」でもいいんですよ。  

 

 

——それでも、伝える価値があるんですか?  

 

そうです。例えば今回の講演だったら、「ウェルビーイングについて話を聞いたって幸せにはならないでしょ」とか、あるいは「しあわせメーターで計測して7点ってわかっても、別にそれが何なの?」とかでもいいんですよ。  

 

 

——仮にそういうコメントがあったら、先生はどうお答えになりますか?

 

君は、自分は周りよりも幸せだと思っていないんだよね。でも、たとえば何かの運動をしているときとかご飯を食べているときとか、普段よりも幸せを感じる時ってない? それは何? どんなこと? と問いかけてみたいですね。何でもいいから自分の思っていることを言ってくれたら、そういうキャッチボールができます。 

 

 

 ——こんな質問をしたら笑われちゃうんじゃないかとか、質問になってないなあとか気にせずに、とにかくキャッチボールの一つ目のボールを、へたくそでもいいから投げなさいと。  

 

そうですね。それと今回の質問は英語で書いた人と日本語で書いた人がいましたよね。今は音声入力や自動翻訳もありますから、そういうツールも活用できます。

 

どんなことでも、自分の価値観を言葉にして表出することが大事です。それは相手に伝わるし、集団の意思決定にもかかわっていくことですから。自分が発言しないっていうのは、自分が損することなんですよ。意見をきちんと出せば、それはウェルビーイングを含めた社会の方向性を決めることにつながります。  

 

 

馬奈木先生インタビュー 後半は、意見を持ち表現することの重要性、自分がやりたいことを実現するための道筋などについてお話しいただきます。お楽しみに。(2026年3月9日公開予定)