JOES Davos Next 2025 基調講演「しあわせってなんだろう?」
2026年1月13日
Davos Next

基調講演「しあわせってなんだろう?」

11月19日(水)日本時間の19時、JOES Davos Next 2025の基調講演が実施されました。

 

テーマは「しあわせ(ウェルビーイング)ってなんだろう?~みんなとつながる“わたし”の力」。講師は九州大学主幹教授 都市研究センター長の馬奈木俊介先生です。

 

例年通り、世界中どこからでも無理なく視聴できるように、リアルタイム配信だけでなくオンデマンド配信も実施。もちろん英語の同時通訳も用意しました。

 

ところで、「ウェルビーイング」って最近よく耳にするけどいまひとつピンとこない、という方が多いのではないでしょうか。 そのウェルビーイングを理解することができるまたとない機会とあって、基調講演には国内外から多くの申し込みがありました。特に目立ったのは、保護者や先生方など、大人の参加者でした。

 

「ウェルビーイング」は、次期学習指導要領にも登場するのだそうです。そのためか教育現場の先生方の関心が特に高く、「この機会にしっかりと理解したい」という声がJOESにも多く寄せられました。

 

JOES Davos Nextの基調講演は、毎年、講師の先生と相談しながら、柔軟にスタイルを変えてきました。今年もフリーキャスターの桑原りささん(インタビューはこちら)が聞き手をつとめ、参加者からの声を織り交ぜながら、まるでテレビのトーク番組のように進行していきました。

 

お二人の掛け合いの面白さが伝わらないのが残念ですが、講演の要旨をお届けしましょう。

(取材・執筆:只木良枝)  

ウェルビーイングって? 

世界保健機関憲章前文には、「Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.(健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてがよい状態にあること)」とあります。

 

ウェルはいいこと。ビーイングはそれを少しずつ蓄積して保つこと。つまり、ウェルビーイングは、みんなが長期的にしあわせであることを指しています。自分が嫌なグループの中にいるなどの「気分」も、病気の原因になることがあります。自分がしあわせでいること自体が、健康のためには大事なのです。

 

道路や建物だけでは人間はしあわせになりません。いい学校や病院、商業施設など、最終的には、人が「良い」と感じるものをつくれたら、そこは住みやすい街になります。作ったモノの満足度をいかに高めるかという点で、ウェルビーイングの考え方が都市工学に必要なのです。

 

このウェルビーイングは、「数値化する」ということがとても重要です。 

 

普段は「ウェルビーイング」は計測されることはなく、みんな感情的にフワッと喋っています。たとえば「今日は5時に帰りましょう」ということにしたら、ウェルビーイングの度合いは上がるでしょう。でも、それが本当に増えたのか、どれくらい増えたのかはわかりませんよね。それを、たとえば「これをやったらウェルビーイングが10%改善する」となれば、「じゃあやろう」という人が増えます。反対に「これをやっても0.01%しか改善しない」となると、「それに膨大な時間とお金をかけるのはやめておこう」となります。

 

ウェルビーイングを数値化すれば、そういう合意形成ができるようになります。

 

 

ウェルビーイングの数値化には、統計学と脳科学が使われています。

調査結果の1位や2位など数字の大きいほうから、全体の流れや傾向として「こういうふうになっていますよ」と示すのが統計学の考え方です。私の研究グループは、40人以上の科学者でチームを組んで、20万人の参加者、20以上の国で5年間調査を実施しました。5年間、同じ人に、家族のこと、収入のことなどの主観的な質問を聞き取り調査しています。

 

脳科学も、すでに一部ではウェルビーイング研究に使われています。たとえば笑顔と真顔の写真では、普通は笑っている方が好まれます。笑顔と真顔では、見る側の脳が反応する部分が違うのです。こういう科学的な根拠があると、ただ「笑顔がいいね」と言うのとは違って、「笑顔が人をしあわせにする」ということの証明になります。

 

また、世界百数十カ国で毎年、主観的にどれぐらいしあわせかを10点満点評価で聞く調査も何十年も続けています。国によって違いがあり、濃い青が北米とヨーロッパ、北欧、その次は日本を含めた緑の国々です。アフリカや南アジアはオレンジや赤が多く、比較的数値が低いことが読み取れます。

ウェルビーイングの重要な要素

ウェルビーイングには多くの要素がありますが、その中で身近で重要なものとしては、「お金」「環境」「健康」「家族」「友達」などが挙げられます。

 

お金があると、やりたいことが実現できます。ケーキで考えてみましょう。ケーキを1年に一つだけ食べます。するとその1回は最高で、しあわせに感じるでしょう。それが毎月一つ食べるとすると、もっと嬉しいですよね。でも毎月食べているうちに、そのしあわせの度合いは、最後のほうは1年に1回の時のしあわせほどではなくなります。では毎日食べるとするとどうでしょう。よっぽど好きな人でも飽きてくるかもしれません。

それを図にしたのが右のグラフで、最初はケーキ(収入)を食べるほどしあわせ(主観的幸福)が上がり、ケーキが増えていくにつれて途中からそれ以降は上がらなくなります。 

 

左の図は、横軸に収入、縦軸にウェルビーイングをとって、国ごとの差を国旗で表したものです。全体が右肩上がりなので、総じてお金があるほどウェルビーイングが上がるということが言えます。そして、国ごとの差が意外に大きいことがわかりますね。

 

太線で示した同じ収入グループの縦軸の中で見ると、カナダとか北欧が高く、日本は低いところにあります。日本人は、収入があるのに、あまりしあわせを感じられていないということになります。

 

日本は第二次大戦以降、総じて平均所得がずっと上がってきました。右上のグラフで見ると、客観的ウェルビーイング(ひとりあたりGDP)は上がっているのに、主観的ウェルビーイング(生活満足度)が上がらずにギャップが生じています。経済的には豊かになったはずなのに、みんなはそう感じていないということです。モノばかり作って、人がしあわせを感じやすい教育や健康や自然とかを重視しなかったということですが、逆にそこを改善できるなら、これからウェルビーイングがどんどん上がる伸びしろがあると見ることもできます。

 

 

環境については、家をイメージしてみてください。 

 

家は狭すぎると大変ですが、大きければいいというものではなく、大きすぎる家では家族のコミュニケーションがとりにくいかもしれません。お金も同じことで、多いのはいいけれども、しあわせは、お金が多いほど高まっていくというわけではなく、ほどほどが一番良いという結果が統計的に出ています。自分に適切な度合いを知るというのが大事なのですね。    

この地図は、2100年に人口がどれくらい増減しているかを予測したものです。赤色の部分はすごく人口が増え、黄色はほどほど、緑と青では減ります。都市計画は先を見るものですので、このような状況になっている2100年に何をどのように良くしたら人々のウェルビーイングが上がるかということを考えることになります。人口が減る地域をどうするかということは、いま世界中で課題になっています。    

これは九州北部の地図です。左は土地が何に使われているかの地図で、赤い部分が都市で福岡市の中心部などです。

 

真ん中の地図は「自然資本」です。自然資本というのは自然の価値を経済価値に直したもので、自然があるところの、農業、林業、水産業、そして森林の価値を示しています。海にも色がついていますが、これは海産物の価値があるからです。

 

右の地図は、携帯電話の移動データです。どれだけ遠くからその土地を訪れる人がいるのかを示しており、これは、その土地の「お金と時間を使って訪れる価値」を表しています。観光や、街の魅力を数値化するのに使われます。

 

土地のデータと、各地に住んでいる人のウェルビーイングを統計で合わせると、「ほどほど田舎、ほどほど街中」の場所のウェルビーイングが高くて、都会すぎたり、田舎すぎたりすると低くなるという結果が出ます。これは日本に限らず世界中で同じ傾向です。

ところで、衛星画像を使った街づくりなどと言うと、何か大きな話に聞こえてしまって、人々にウェルビーイングの話が響きません。しかし「健康」というテーマだと、身近に感じてもらえます。

 

そこで、一般論でウェルビーイングを語るよりも分かりやすいのではないかと考えて腸内細菌に着目し、大分県の別府温泉で「温泉は身体に良い」と言われていることを検証しました。腸内細菌の数は40兆個ともいわれています。温泉に入る前後の腸内細菌のデータから、温泉によって健康が改善したということを証明しました。ウェルビーイング改善・健康のための取り組みとして、その地域の大事な資源である温泉を活用する。これは街づくりにも使えます。

「家族は仲がいいほうがいいじゃん」と、みなさん何となく感じていると思うのですが、これもちゃんと数字に表れています。心理学、社会学などを使った色々なアンケート調査から、「家族の関係性が強いほどウェルビーイングが高い」という結果が出ています。子どもの頃から一緒にいて信頼できる相手がいるとか、身体の弱った祖父母を助けるために自分が優しくなれるとか。

新型コロナが流行った時、世界中で多くの方が亡くなりました。この時も、家族の繋がりが強い地域の方が、死者数が少なかったというデータがあります。家族関係が良く信頼できる人がいると、心が安定して免疫力も上がるそうです。感情が体の中に影響するんです。

重要な要素の最後は友達です。友達が多いとか、大事な友達がいるとか、友達としっかりとした関係性を持っている人のウェルビーイングが高くなっています。これは大人も子どもも同じです。

 

ただ、友達は大事ですが、友達づくりが苦手とか、一人が好きな子もいます。ウェルビーイングのために、友達をたくさん作らなきゃとか、親密な友達がいないとダメ、なんて思う必要はありません。「あの時あの人のために何をしたらよかったかな」と考えたり、その難しさがわかったりするだけでも良いのです。

 

 

「人のためにすることは、巡り巡って自分のために」というセリフがありますよね。

 

相手のことを思いやることは、その人の問題を解決することにつながります。そうすると相手がより良く思ってくれて、自分のことを助けてくれたりします。それだけではなく相手のことを思えるという感情も大事で、相手の問題を解決できるように自分の能力を上げることは、自分自身を良くしているということなんです。

 

「義務だから」とか「先生に言われたから」とか、あるいは誰かに「やりなさい」と命令されたりすると、もう反抗期の子どもなんかは余計に行動しませんよね。でも誰かのための行動は自分の何かに繋がるのです。これを知識として持っているだけでも違ってくると思います。

 

無理なことはできませんから、自分にあったやり方をすればいい。自己認識をして、自分なりに難しさを踏まえて考えるということ自体が、ウェルビーイングについて考えるいいきっかけになると思います。   

 

JOES Davos Next 2025公式サイトはこちら

 https://www.joes.or.jp/kojin/jdnext