<相談>
海外に来て1年になりますが、現地の日本人コミュニティになじめません。子どもの友人関係にも影響しそうで頑張りたいのですが、ムリなんです。
1年後の子どもたち
当地に来て、1年経ちました。配偶者の仕事も軌道に乗っているようです。そして、何より心配していた子どもの状態と学習環境については次のような感じです。
上の子どもは、最初の数カ月は浮かない顔で、家の中では無口な状態が続き、かなり心配していたのですが、最近になって、やっと学校の雰囲気や学習のペースがつかめるようになってきたようです。
少しずつですが、リビングでくつろいでいるときや食事中に学校のことを話してくれるようになりました。おもしろかった出来事、いろいろな先生の特徴、新しくできた友人の事、クラブ活動の事、選択科目の事など。とりあえず一安心です。
下の子は、半年前から行きはじめた現地の幼稚園にも慣れ、日本人のお友達に加え、現地のお友だちもできたと喜んでいます。毎朝スクールバスに楽しそうに乗っていきます。
英語や現地のことばの習得は思ったよりもずいぶん早く、お家で日本語をしっかりと向き合わねばと考えている今日この頃です。子どもたちの方は何とか順調のようです。
言語に対するアレルギー
私は、学生時代から英語があまり得意ではありませんでした。今でも、英語が上手くしゃべれません。現地のことばはなおさらで、1年経った今でも、簡単なあいさつぐらいしか分からないのが現状です。
買い物するときも、スーパーマーケットに行って、店のスタッフと対面でお肉やチーズ、お惣菜を買うのは今でも気が引けます。テイクアウト(ドライブスルー)はなおさらで、早口で話されると毎回ドキドキしてしまいます。幼稚園の参観日は、授業を見ている分には良いのですが懇談は緊張します。
とはいえ、今さらチューターについて勉強しようとか、アダルトESLを受けようとかという気持ちにもなれないのが正直なところです。
私の悩み
当地に来て驚いたことがあります。それは、日本にいた時以上に、日本人コミュニティでのおつきあいの範囲がとても狭く、しかもその関係はかなり濃密で、結びつきが強いように思います。半ば強制的に、お茶会や私的な料理教室、そしてさまざまなお出かけに誘われます。
こちらに来たばかり頃には、いろいろな助言をもらったり、世話を焼いてもらったりして助かったこともあったのですが、徐々に辛くなりました。
今では集まりに参加することも、そこで会話することも苦痛でたまりません。プライバシーの部分にまで必要以上に入って来られる気がして、窮屈で心の負担に感じる毎日です。
でも、その集まりには子どもの友だちの親も参加しています。子どものためには我慢して参加し続けなくてはならないと思うことが、しんどさを増しているようにも感じます。

対策
さて、以上のような悩みをお持ちの方は結構、いらっしゃるのではないでしょうか。
実は、海外生活アルアルだと思います。海外ではビザの関係もあり、配偶者はほとんどの方が専業主婦(主夫)になります。このため、日本にいた時以上に日本人同士のおつきあいが密になりがちです。これが助け合いやストレス発散に役に立っているという場合もあり、この狭い日本人コミュニティが性に合っている方がいらっしゃることも事実です。
一方で、国や地域によって差はあるのでしょうが、前述のように狭い日本人コミュニティ内でのトラブルや、日本人コミュニティとの距離感に悩みをお持ちの方がいらっしゃるのも事実です。
私も、二度の海外赴任中、今回のような方を何人かお見受けしました。 無理せず上手につき合う方法があれば、苦労はしませんし、ここまで辛い思いをされるはずはないとは思います。
では、どうすればよいのでしょう。
結論から申し上げますと、各々の状況によるとは思いますが、思い切ってきっぱりとおつきあいを止めてみてはいかがでしょう。
実際に、精神的な負担が増し、心が病んでしまってからでは元も子もありません。
異国では、生活の立ち上げ、環境や文化の違いへの対応、子どもたちの様子の観察、日本食材の調達、日本語での情報の少なさなど、ストレスを感じさせる要因に大小あれど、枚挙にいとまがありません。それが、日本人コミュニティでのおつきあいを煩わしいと思う要因になっている可能性もあるでしょう。
では、どのようにしたらストレスをわずかでも減らせるか、帰国までの日数をただただ待ち望むだけではなく、今の生活の中で楽しいことを見つけられるかなど、発想をかえていくことが大切かと思います。

例えば、静かな生活がお好きならば、一軒家ならガーデニング、コンドミニアムやアパートメントタイプなら、ベランダや屋内でできる植物栽培。外の空気を吸うのも良いと思います。美術館や博物館、あるいはカフェめぐり。観劇も良いと思います。
体を動かすのが好きな方でしたら、治安面が大丈夫なら近所や公園の散策やジョギングをおすすめします。フィットネスクラブのパーソナルレッスン。そして、スタジオレッスンやダンス、格闘系スポーツや乗馬などの習い事を、なるべく日本人のいない所で現地の方とともに汗を流すのも効果的です。
また、現地の方と自然と交流できる音楽系のサークルに入るのも良いと思います。決まった曜日の決まった時間が楽しみになれば、それにこしたことはありません。 スポーツや音楽はいったん始めれば、言語力があまり問われないわりに、気兼ねしないで同じ趣味を持つ友人ができるかもしれません。

スポーツや音楽はちょっと……という方は、ライブラリーやコミュニティセンターが主催する単発の催しや、慣れていかれれば教室的なものに入られるのはいかがでしょうか。 料理やお裁縫・工芸など、会話よりも「手を動かす」ものが良いのではないかと思います。当地だからこそできるものを始めてみてはいかがでしょう。これらのことは、帰国後も続けられるかもしれません。
とにかく、自分のために。
気軽に興味のあることを始められてはいかがでしょう。合わなければ、別のものにチャレンジという具合に。
親御さんが日本人コミュニティに参加しないことは子どもに影響が及ぶかもしれません。でも、親御さんが「無理する」方が子どもに与える影響は大きいものです。それも自分のために辛い思いをしているとなれば、子どもは傷つきます。

終わりに
どうしても、精神的にしんどくなっている場合は、日本の家族とオンラインで会話することも大切ですし、JOESを含め、海外滞在者の方を対象にした日本語でできる相談機関もあります。これらの相談機関には、海外滞在経験のある心理士(師)などの専門家が対応しているところなどもあります。新型コロナ以降は、オンラインのものもたくさんできました。是非ご活用ください。
子どもたちは、大人の表情をみごとに読み取ります。子どもや家族の前で、笑顔でい続けるためにも、我慢しない。無理はしない、そして心の休まる、自分にとって楽しいことをみつけることが、何よりも大切だと思います。
思い出に残る滞在になることを、心より祈念しています。

<回答者> 海外子女教育振興財団 教育アドバイザー 田村 穣(たむら みのる) 1985年 東京学芸大学教育学部教育学修士修了 1987年 鳥取県中学校社会科教諭として勤務 2001~2004年 ブラジル・サンパウロ日本人学校に教諭として勤務 2007年 教頭として勤務 2014年 校長として勤務 2018年 全日本中学校長会副会長・全日中鳥取大会実行委員長 2020~2023年 米国・シカゴ日本人学校に校長として勤務 2023年~ 海外子女教育振興財団に教育アドバイザーとして勤務 2024年 全国海外子女教育研究会鳥取(米子)大会発表