文部科学大臣賞

個性が咲く私達の花畑

オタワ補習授業校(カナダ)

小4 東村 萌

     

 「お母さん、今日は寒いかなあ、それとも暑いかなあ。」
 

 最近の私は、春が来て毎朝ウキウキしています。マイナス十五度、時にはマイナス二十度にもなるカナダの冬がようやく終わり、洋服選びが楽しくなるからです。スノージャケットやスノーパンツとももうさよなら。お気に入りの夏服がズラリとならんだクローゼットを見つめ、どの服にしようかなと考える時間が私は大好きです。
 

 母によると、今日の最高気温は十二度。私はきれいな青空のTシャツと、白のレースが付いたショートパンツを選んで鏡を見つめます。

「うん、かわいい!」

着がえ終わった私は、明るいたんぽぽのような元気な笑顔で、スキップするように階段をかけ下りていきました。
 

 すると、母がびっくりした顔で私にこう言うのです。

「今日は十二度しか上がらないんだよ!着がえ直してきて!」

私は首をかしげます。

「十二度しか上がらない、じゃなくて、十二度も上がるんだよ!」

そんな私を見て、母はまたびっくりしていたけれど、いつものおだやかな表情にもどって、「萌が大丈夫ならいいよ。」とうなずいてくれるのでした。
 

 カナダでは雪がとけて、気温が五度をこえると、半そで半ズボンで外を出歩き始める人が多くなります。まるで冬みん中にずっととぐろをまいていたヘビが、春の太陽を感じて大はしゃぎでスキップしながらお散歩をしているかのようです。
 

 私もそんなはしゃいだヘビの一人です。と言っても、私は十度を超えない限り、半そでは着ないので、カナダ人には勝てません。日本人の母は、半そでの人たちを見る度に「信じられない」といつも言っていますが、カナダに住んでいると、これが当たり前に思えるから不思議です。
 

 学校に着くと、私はすぐに校庭で遊んでいる友達にかけよります。

「おはよう!」

親友のマチルダは、真冬と同じようなダウンジャケット。その横で私は半そでにショートパンツ。あまりにも自分達のかっこうがちがうので、

「暑くないの?」

「寒くないの?」

と、声がぴったりと重なって、思わず二人で笑ってしまいました。
 

 周りを見わたすと、みんなの服そうはバラバラ。サマードレスや半そでの子もいれば、あたたかいセーターやブーツの子もいて、それぞれ快てきに感じる服を自由に選んでいます。おしゃれというよりは、動きやすい服そうの子ばかりです。
 

 小学二年生の冬、私は日本に一時帰国をしました。小学校にも通いましたが、子ども達の洋服がおしゃれでおどろきました。レースやリボン付きのかわいい服だけではなく、着方にもこだわりがあるのです。Tシャツをスカートやズボンの中に入れたり、シャツのすそを結んだり、おしゃれな洋服をさらにおしゃれに着ています。くつ下をくるくると足首まで丸めてはいているのも初めて見ました。みんな、まるでファッションショーに出ているモデルさんのようで、私もまねしておしゃれを楽しみたいと思いました。
 

 私は日本にいる時も、カナダにいる時と同じように、セーターやパーカー、動きやすいレギンスばかり着ていました。周りの子ども達に比べると、なんだか自分が男の子っぽくなったように感じました。だけど、私は自分で選んだ服が大好きです。母はいつも「かっこいいね」「おしゃれだね」、「かわいいね」、とほめてくれます。
 

 カナダの「快てきで自由なスタイル」も、日本の「おしゃれな着方」も、どちらもすてきだなと思います。自分の好きな服を、好きなように着ると、心が空を飛ぶくらいはずむし、自分がかがやいているように感じるからです。

「あっ、これにしようっと!」

今日も晴天。母によると、今日は十七度まで上がるそうです。大好きなドラえもんのTシャツにハーフパンツ。かわいいのに動きやすいのでお気に入りの組み合わせです。くつ下はくるくると足首まで丸めてみました。

「うん、やっぱりかわいいな!」
 

 学校に着くと、今日もみんなの服そうはバラバラ。でも、みんなよく似合っています。ポカポカした太陽が私達を明るく照らすと、みんなの服の色がまるで野原に広がる花のように見えました。色とりどりの、私達だけのきれいな花畑です。