志望校の帰国生枠受験にはもう半年の海外滞在が必要ですが、夫の帰国が決まりました。どんな選択肢がありますか。
2025年10月20日
子どもの教育

志望校の帰国生枠受験にはもう半年の海外滞在が必要ですが、夫の帰国が決まりました。どんな選択肢がありますか。

<質問> 
志望校を帰国生受入枠で受験するためには、もう半年の海外生活が必要ですが、夫の帰国が決まりました。どのような選択肢がありますか。   

はじめに

駐在員の帰任と子どもの受験や進学のタイミングが合わず、「帰国生受入枠出願資格の海外滞在年数に何カ月か足りない」ということは往々にしてあります。  

 

突然、辞令が出て、当初の予定とは異なるタイミングで帰任となることも想定し、あらかじめ長いスパンで将来のキャリア形成や進路、学校の選択肢などのイメージを、お子さん一人ひとりに対して持つことが肝要です。備えあれば憂いなしです。 

 

受験のタイミングと赴任地、家族構成、お子さんの学齢、そして赴任時期と期間などによって、帰国のパターンを考えないといけません。   

 

帰国のパターン  

出願資格を満たすためには、現地に子どもだけ残ったり、駐在員のみ単身帰国したりする「家族残留」、もしくは「早期卒業」といった方法が考えられます。     

志望校の帰国生枠受験にはもう半年の海外滞在が必要ですが、夫の帰国が決まりました。どんな選択肢がありますか。

1.家族の残留  

夫の海外赴任に子どもを連れて駐在したが、夫の帰任が早まり、受験のことを考えるとしばらく子どもを海外に残したいという場合、基本的には駐在員が帰任になれば、家族もステイタスを失いますので、子どもは帯同者ビザのまま滞在を続けることはできません。  

しかし、父親が帰国した後、子どもが単身、もしくは母親と残るケースは、赴任地によって事情は全く異なるようですが増えていると聞きます。  

配偶者が「ガーディアン」として残留する場合や、子どものみが残留するといった帯同扶養家族のみの延長申請が可能かどうかは、滞在国の移民局に相談し、確認してください。  

この場合、申請を出してから許可が下りるまで、非常に時間がかかる国もあるようですので注意が必要です。  

また、このような形で残留しても、延長が1年以上になる場合は単身留学者としての扱いとなり、「保護者の赴任に伴う出国」という理由が受入校によっては認められず、帰国子女枠での出願ができなくなるケースがあります。  帰国子女枠入試は保護者の海外駐在で日本での教育の機会を逸した子どもに日本の教育に戻る手助けをすることが目的とされているためです。

さらに、アメリカの例になりますが、子どものビザ資格をF1(学生)など他のステータスに変えられる場合は、変更申請を提出することになりますが、公立の学校に通っている場合、K(幼児)~8年生はF1に切り替えることはできません。ただし、SEVP(Students and Exchange Visitor Program) Certificationを取得している学校では切り替えられる可能性があります。

一方、9~12年生は、条件が満たされれば最高1年までの滞在が可能ですが、滞在のビザステイタスによっては留学生扱いになり、授業料の負担が必要となる場合があります(現地の人は授業料無料)。  

ほか、母親がフルタイムの学生としてF1資格で米国に残る場合、21歳未満の子どもは扶養家族としてF2資格で滞在できます。

このような「逆単身赴任」が発生することが事前に予想できる場合は、会社(雇用主)がその駐在員のスポンサーになることで、永住権申請を提出して解決する方法もあるようですが、海外における家族の残留については、まず、次のことを確認してください。 

 

●会社から残留承諾を得られるか。

また、補助や保障はどうなるのか。  承諾が得られても、外国に残留するのは個人的な理由となるため、会社からの補助や保障が継続されるとは限りません。  ただ、なかには、駐在員の帰任後1年間は住宅、医療、教育などの補助制度が適用される会社もあるようです(例えば、住宅手当は半額、医療費は全額など)。 

 

●現地の学校が許可するか。

子どもが単身で現地に残る場合、学校がそれを許可するかどうか確認しておきましょう。     

 

2.アーリー・グラデュエー ション(早期卒業)  

駐在員の帰任時期を見据え、例えば、アメリカの現地校ハイスクール4年間の単位を3年間で取得します。同学年の生徒より1年早く卒業し、高校卒業資格を取得しておきたい場合などの「飛び級」の手段です。 

●アーリーは州や学区によって多少の違いはありますが、学校のプレースメントテストを受けて、学校側が提示する規準(学業成績や出席率、またスクールカウンセラーの推薦など)をクリアすれば可能です。 

 

●現地校での成績や英語力などに関わることなので、アーリーのメリット・デメリットを含め、スクールカウンセラーなどに相談されるといいでしょう。 

 

●現地校のアーリーに向けた勉強と受験対策を並行して行うのは、本人の努力と家族のサポートが不可欠です。 

 

●アーリーで卒業資格を得ることで、誕生日によっては日本国内の同学年よりも1年早い飛び入学ができると思われるかもしれませんが、学校教育課程12年未満でのアーリーで日本国内の大学受験の出願資格を得られるかどうかは、各大学・学部によって異なることがあります。出願資格、選考方法、年齢条件などにご注意ください。

 

 募集要項に「不明な点は必ず問い合わせること」と明記している大学もあります。   

志望校の帰国生枠受験にはもう半年の海外滞在が必要ですが、夫の帰国が決まりました。どんな選択肢がありますか。

志望校を見直してみる  

志望校を絞ることは大切です。 

ただ、家族全員で帰国しても帰国生受入枠で受験できる学校がほかにないか、調べてみるとよいでしょう。そのなかに、新たな志望校が見つかるかもしれません。  

海外子女教育振興財団では、全国の受入校を検索できる「国内学校情報検索サイト」を用意していますので、ご活用ください。  また、海外子女・帰国子女教育専門の教育アドバイザーによる教育相談も行っていますので、 あわせてご利用ください。   

 

おわりに  

どのような帰国のパターンを選択するかは、ご家庭の方針と状況次第になります。  

「帰国生受入枠」の海外在住期間の条件は学校によって違いますので、まずは広く情報を集め、家族として何を重視するかを家族で話し合うことが大切です。これを機に、家族の結束や絆が一層強まることでしょう。それが選択の幅を広げ、お子さんの新たな道が見つかることにつながるかもしれません。  

また、たとえ海外での在留期間が帰国生受入枠での出願資格に満たない段階で帰国したとしても、海外での貴重な体験はお子さんにとって得難い成長の糧となることには間違いありません。  

家族で、海外で頑張ってきたことに自信を持って、受験可能な入試に向けてポジティブに向かっていってください。     

志望校の帰国生枠受験にはもう半年の海外滞在が必要ですが、夫の帰国が決まりました。どんな選択肢がありますか。
<回答者>  
海外子女教育振興財団 教育アドバイザー   岡本 健(おかもと たけし)
海外子女教育振興財団 教育アドバイザー 
岡本 健(おかもと たけし)
元・大阪府公立学校校長。1999年から2001年まで台北日本人学校にて勤務。その後、2019年から2021年までコロンバス(OH)補習授業校にて校長として勤務。『算数・社会・理科でSDGsがわかる!—考える力をきたえるワーク』(2022年発行)監修。2022年8月より、海外子女教育振興財団の教育アドバイザー。 在外教育施設重点支援プラン(略称:AG+)評価法部会委員。