SAPIX YOZEMI GROUP賞

サッカーをはじめて

バンドン日本人学校(インドネシア)

小4 吉田 隆平

        

 「日本! 日本!」

 ぼくは声をからして、おうえんしていた。

 インドネシアに来て半年がたったころ、ぼくの住むバンドンでU17サッカー日本代表ワールドカップのグループリーグが開さいされた。友だちのインドネシア人のお母さんは、「バンドンでワールドカップが行われるなんてバンドンのヒストリーよ。」

とこうふんしていた。

 ぼくは、日本とポーランドの試合を観戦した。そこで見たのは、せん手が最後まであきらめず一生懸命がんばる姿、チームメイトに声をかける姿、ゴールがきまってみんなでよろこぶ姿。どれもかっこよかった。しかも、ぼくの少し年上の高校生が、日本にくらす家族とはなれて海外で試合をするなんて、すごいと思った。ぼくもサッカーをしたい、と自分で決だんした。

 それから休み時間、昼休みにサッカーの練習を始めた。しばらくすると、小学部で一人しかいない男の子の友だちとも、一緒にサッカーをするようになった。学校が始まる前に友だちとサッカーがしたくて、今までより早く登校するようになった。ランドセルをロッカーに置いて、朝の準備をしてグランドへ急ぐ。今まで何をするのも時間がかかっていたぼくの行動が速くなったので、先生やお母さんもびっくりしていた。

 もっとサッカーが上手になりたいと思って、バンドンの子どもたちが通っているサッカーチームに入りたいとお父さんとお母さんにお願いした。習い事を自分からしたいと言ったのは、初めてだった。

 ぼくは、日本人学校に通っていて、先生や友だちといつも日本語で話している。だけど、サッカーチームの練習はすべてインドネシア語なので、ぼくはかたまってしまった。サッカーのコーチがたくさん話しかけてくれるのに、こたえることができなかった。だから、コーチの手の動きから、言葉の意味を考えた。例えば「カナン」と言って右を指しているから、「カナン」は右かな?意味がちがうこともあるけれど、言葉をよく聞いて相手が何を伝えようとしているのか、考えるようになった。

 もう一つは、日本だったら……インドネシアだったら……とくらべて考えて、意見をもつようになった。例えば、日本のサッカーチームの練習は、コーチがこしに手をあててこわい口調で指示をしているのをよく見ていた。時には、みんなの前で怒られていることもあった。だけど、インドネシアのサッカーチームの練習は、人前で怒ることはぜったいにしない。ミスをしても「OKOKバグス」とやさしくわらってくれる。おかげでぼくは、のびのびとサッカーをすることができた。インドネシアのいい文化だなと思った。でも、こまったこともある。それは時間にちょっとルーズなところだ。練習時間より前にいるのはぼくと、友だちだけだ。みんな、なんとなく集まってだいたいそろったら、練習が始まる。日本だと「始めます、礼。」とか言いそうなのに、それもおもしろい。

 もちろんサッカー以外にも、日本だったら……インドネシアだったら……とくらべてそれぞれのよいところ、こまったところを考えるようになった。

 たしかにサッカーは、日本でもできる。チームにも入れる。だけど、ぼくはインドネシアでサッカーチームに入ったからこそ、相手が、伝えようとしていることをよく聞いて考えること、いろいろな考え方ややり方があるということを知ることができた。

 これは、インドネシアにいないとわからなかったことだ。そして、海外にくらすことは、まわりがかわるだけではなくて自分の「やろう」とする気持ちがあるかないかが大事であるということ。それによって、自分の行動や考えもかわる、ということがわかった。

 日本に帰るまで、ぼくは毎日サッカーの練習をがんばろうと思う。