2023年9月11日
特集

日本のAI・プログラミング教育最新事情【前編】

ChatGPTに代表される「生成AI」の登場により、ますますAI・プログラミング教育に注目が集まっています。また、2025年度の「大学入学共通テスト」から試験科目に「情報I」が加わることも話題に上がります。子どもたちの将来のために、どの時期からどのレベルのIT教育を受けさせるべきなのでしょうか。日本の小・中学生・高校生向けAI・プログラミング教育の最新事情を取材しました。今回は前編になります。

(取材・執筆:ミニマル)
 

2023年は学校教育がAIによって変わっていく

AI(人工知能)の話題が何かと世間を騒がせています。AIとは、「人間の思考プロセスと似た形で動作するコンピュータプログラム」のこと。最近は、大量のデータからコンピュータが自動で背景にあるルールやパターンを学ぶ「機械学習」の技術を用いたサービスをAIと呼んでいることが多いようです。 

一方、2022年末頃から世界規模で話題になっているのが「生成AI」です。こちらは、事前に学習したデータからテキスト、画像、音声、デザインなどを新たに生成するAIのこと。つまり、「0から1」をつくり出すAIを指します。なかでも世界的に注目を集めるChatGPTは、米OpenAIが開発した一般向けのテキスト生成AI。対話型のアプリで、まるで人間と話しているような自然な文章を生成してくれます。すでに使ってみた経験がある人も多いでしょう。 

こうした流れを受け、2023年7月には、文部科学省が「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を発表。これは、ChatGPTに代表される生成AIの小・中学校・高校における取り扱いのガイドラインを暫定的に示したもので、読書感想文や各種レポートの提出において、生成AIによる生成物をそのまま自らの作品として提出することは適切でないなどの指針が具体的に示されました。 

そこで、対応を求められるのが全国の学校現場です。全国の小・中学校・高校では、AIをどのように活用していく方針なのでしょうか——。 

東京大学大学院教育学研究科で「学習科学」や「教育政策」の研究に取り組み、現在はIT・プログラミング教育を展開するライフイズテック株式会社の取締役を務める讃井康智さんは、「教育現場におけるAI活用」について、こう語ります。

ライフイズテック株式会社取締役の讃井康智さん

「今年(2023年)はAI教育元年、つまり、学校教育がAIによって変わっていくきっかけの年になると思っています。AIによって中長期的に実現されるのは『究極の個別最適化された学び』です。AIは学びのゴールにたどり着くための『コパイロット(Copilot)』=副操縦士的な役割を担うようになるでしょう。これを学びたい、これをつくりたいという課題を投げかけるのは人間です。すると、AIはさまざまな情報や選択肢を提示してくれます。それを参考に、最終的に何をどうするかを決めるのは人間の役割です。つまりメインの操縦士である自分がやるのは、何かを始めるパートと最後に決めるパートに収束していくことになるでしょう」 

ここでいうAIとは、生成AIを含む「人工知能」全般のこと。今後、学校教育の現場は、さまざまな形でAIを活用するようになるのは間違いないようです。例えば、生成AIのChatGPTに「私は化学が好きな中学生。夏休みの課題研究テーマを10個挙げて」と命令すれば、ものの数秒でテーマをリストアップしてくれます。子どもたちは、そこから興味のあるテーマを選び、実験や調査を進めればいいというのが讃井さんの考え方です。つまり、AIは学びにおける相談相手であり、「共創(きょうそう)」のパートナーになり得るのだといいます。 

 

実際にChatGPTに質問した回答。参考にするには十分なレベルです


こうしたAI活用の実現を可能にする背景には、文部科学省が2019年からスタートした「GIGAスクール構想」があります。これは、全国の小・中学校・高校の児童・生徒に1人1台パソコンやタブレットなどの情報端末を整備する取り組みのこと。期せずして訪れたコロナ禍によって、計画が前倒しされ、2022年末までには、すべての児童・生徒が学校で情報端末とインターネットを使用できる環境が整いました。 

「学校間、地域間によって、質の違いはあるにせよ、中学・高校生がほぼ毎日情報端末に触れられる環境が実現されました。小学生が簡単なプログラミングに挑戦し、中学・高校生はGoogleのクラウドサービスを使って、課題のプレゼンテーションを行う時代です。この状況において、文科省が生成AIの使用について、リスク面への懸念や、不適切な事例を例示しつつも「?成AIが、どのような仕組みで動いているかという理解や、どのように学びに活かしていくかという視点、近い将来使いこなすための?を意識的に育てていく姿勢は重要である」と前向きな方針を出したのはよかったと個人的には思います。ただし、AIを使った授業がすぐに始まるとは考えにくく、高校で必履修科目になった『情報Ⅰ』や『総合的な探究の時間』などで生徒各自が個別にAIを活用するところから始まるのではないでしょうか」 
 

AIを使いこなすための注意点は? AIを使った学習法とは? 
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