2023年9月1日
特集

これからの時代を生き抜くために必要な資質・能力~ 学校教育における21世紀型コンピテンシーの育成~

グローバル化が進み、先の見えない時代を生きていかなくてはならない子どもたちにとって必要な資質・能力とは、いったいどのようなものなのでしょうか。知識をただ暗記することの価値が低下し、今後は既存の知識やスキルを組み合わせ、目の前の課題に対して新しい解決策を生み出し続けることが求められます。本稿では、子どもたちが、これからの時代を生き抜くために必要な資質・能力について、読者の皆さまと共に考えていきたいと思います。


Key visual:buritora / PIXTA
text :服部孝彦

 


複雑で予測が困難なVUCA時代

Illustration:りびっつ / PIXTA

  
現在は「VUCA時代」といわれています。   
VUCA(ブーカ)とは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った略語で、目まぐるしく変化し、先行きが不透明な、複雑で予測が困難な時代の特徴を捉えたことば。    

もともとVUCAは1990年代にアメリカで軍事用語として使われていましたが、2016年1月のダボス会議(World Economic Forum Annual Meeting、世界経済フォーラム年次総会)でVUCA Worldという用語が使われたことで有名になり、ビジネスや教育の世界で一般に広く用いられるようになりました。   

VUCAの時代には、業界の概念を覆す事業も次々と出現しています。   
タクシー会社は、車を購入し、運転手を雇い、なるべく多くの客を乗せて利益をあげていました。ところが最近では、Uberという一般の人が自分の車に客を乗せて移送するための配車サービスが現れました。もはやタクシー会社の競合相手は同業他社だけではなくなったのです。ホテル業界でも同じことが起きています。従来は宿泊できる建物を建て、従業員を雇い、客室の稼働率をあげて利益を得ていましたが、一般の人が持っている家に旅行者が宿泊できるように斡旋し、手数料を取ることにより利益を上げるAirbnbが現れたことにより、ホテルの競合相手は他のホテルだけではなくなってきました。   

VUCA時代では、意思決定法も変える必要があります。従来はPDCAサイクルがよく使われていました。PDCAとはPlan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)の頭文字をとったビジネス用語で、スタートは計画からです。しかし、最近ではVUCA時代にふさわしい意思決定法はPDCAではなく、敏速に意思決定ができるOODAループであるのではといわれるようになりました。   

 

Illustration:りびっつ / PIXTA

   
OODAとはObserve(観察)、Orient(状況判断)、Decide(意思決定)、Act(実行)。OODAは、1970年代のアメリカ空軍の戦闘機操縦士John Boydが草案した空軍戦術であり、今ではビジネスや教育などの分野でも応用されるようになりました。   

OODAの優れている点はスピード。そのため、VUCA時代では効果的なことが多いのです。上司からの指示を待つことなく現場の状況に合わせて個人が判断し、行動することが可能で、課題に直面しても素早い意思決定ができ、効果的な対応がとれます。ビジネスの世界で課題を中長期的な視点で改善する場合はPDCAが適してはいますが、変化の激しい時代に市場や顧客のニーズの把握に対して臨機応変な対応を迫られる場合はOODAが適しているといえるでしょう。    

 

答えがないVUCA時代。教育に必要なこととは?

Photo:msv / PIXTA




これからの時代の教育は、子どもに知識・技能を教えるという従来の教育観から抜け出さなければなりません。  
経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development、以下「OECD」)が2015年に立ち上げた「教育とスキルの未来2030プロジェクト」(OECD Future of Education and Skills 2030 project、以下「Education 2030」)では、よりVUCAとなる2030年の世界を生き抜くために、子どもたちに必要な力をよりよく理解するための枠組みを構築することが明記されています。VUCA時代だからこそ、子どもたちが自信をもって自らを導いていくことができる力を育成する必要があるのです。  

2013年、オックスフォード大学のFrey と Osborneは、アメリカにおける労働市場において10年から20年内に労働人口の47%がAI等によって代替される可能性が70%以上という推計結果を発表。  
続いて2017 年にFrey と Osborneは、野村総合研究所との共同研究において日本を対象にした推計結果を発表し、アメリカと同様に日本の労働市場の約 49%がAI 等に代替可能になるとの結果を示しました。  

最近ではChat GPTの登場により、伝統的に安定的とみなされてきた職種にも急激な変化が予想されます。VUCA時代は答えがない時代。子どもたちに教えるという従来の教育ではなく、AIにはできない、考える力を育成する教育を行うことが必要です。  

 

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