海外子女教育振興財団主催の第47回海外子女文芸作品コンクールの審査結果が発表されました。このたび、特別賞受賞作品をご紹介します。
このコンクールは、海外に在住する小・中学生が言語・風習・気候風土・治安など、日本と異なる生活環境の中で感じ、考え、感動したことを日本語で表現する力を育むために、1979年から毎年行われています。
今年の応募作品総数は31,196点(作文=2,057点、詩=2,538点、短歌=6,555点、俳句=20,046点)。日本人学校、補習授業校、私立在外教育施設等の先生方のご指導やご家庭でのサポートをいただき、多くの作品が集まりました。
これらの作品は予備審査を経て9月18日、海外子女教育振興財団(東京都港区)で行われた最終審査会において、文部科学大臣賞をはじめ、海外子女教育振興財団会長賞、後援・協賛者賞、特選、優秀、佳作が決定しました(特選・優秀・佳作・学校賞の審査結果は弊財団の文芸作品コンクールのサイトに掲載しています https://www.joes.or.jp/kojin/bungei)。
海外に暮らすお子さんたちの思いが息づく作品の数々を、どうぞご覧ください。
なお、今年の12月には、作品集『地球に学ぶ 第47回』が刊行される予定です。
文部科学大臣賞
今はもうない図書室
ペンシルベニア州在住
中2 清水 冬和子
私には忘れられない場所がある
卒業した日本語補習校
そこにあった小さな図書室
古くなった学校は
新たな街へ移っていた
今はもうない図書室を
時々無性に思い出す
歩くたびにきしむ床
異常にくもった窓ガラス
そこからもれる弱い光
少し傷んだ絵本の背表紙
修理を重ねた古い児童書
ページに残る小さな落書き
出番を待つ本達は
優しく私を出迎えた
そこに置かれた全ての本は
遠い海を越えてきた
きっと長い旅の中
ページは何度も開かれて
人の心に入っただろう
本の数だけ語られぬ
旅の思い出があっただろう
けれど破れ目隠す白いテープは
何も知らないふりをする
色あせながら傷跡守り
平気だよと眠り続ける
今はもうない図書室は
アメリカ暮らしに慣れない私に
優しい時間を与えてくれた
知らない道へと連れ出した
日本の文字に囲まれた
その場所だけは日本だった
異国の地だが日本だった
そして私はこれからも
きっと思い出すだろう
ピッツバーグの小さな街に
確かにあった古びた図書室
存在しない図書室は
時折私の心の中で
ほのかに光が差しこんで
静かににひっそり開館する
海外子女教育振興財団会長賞
最初のパス
バルセロナ補習授業校(スペイン)
中1 橘田 頼安
一年半前、南国からこの街へ流れ着いた
初めての公園
知らない顔、知らない声、知らない風
けれどボールだけは、どこまでも同じだった
光の線みたいなパスに目を奪われていると、
突然、声が飛んできた
「早く来て!」
意味なんて考える暇もない
初めて聞くカタラン語を、
胸より先に、足が理解していた
夢中だった
夕焼けを踏みしめながら、
風より先にボールを追っていた
知らない誰かと笑い合い、
なんて温かいのだろう、この街の人たちは
太陽みたいだ、みんな
肩を叩く手も、笑い声も、
オレンジ色に染まっていた
僕は好きになってしまった
この街を
潮の匂いの残る夜も、
バルコニーを染めるピンクの朝焼けも
もうスペイン語も話せる
まるでメッシのドリブルみたいに、
言葉をするりとかわしながら、
人と人のあいだをすり抜けて、パスを出した
今日も澄んだ青い空
遠くへ来たはずなのに、
たどり着いた気がしている
日本放送協会賞
お別れのトゥクトゥク
クアラルンプール日本人学校(マレーシア)
中1 秋山 詠司
携帯に通知が来た。
「5分後にトゥクトゥクが到着します。」
彼と残っている時間は、あと5分。
5分は300秒
5分は0.083時間
5分は0.003472日
時間はもうわずかだけど
楽しかったわ
「トゥクトゥクが到着しました。」
もう一度携帯が
軽く振動した
トゥクトゥクのエンジンの音が
だんだん
大きく
なってきた
そして
目の前に
青いトゥクトゥクが現れた
一瞬で
2年半が
経過したようだった
彼はトゥクトゥクに乗って
最後に
一回だけ
手を振った
今まで
本当に
本当に
本当に
ありがとう