文部科学大臣賞

今はもうない図書室

ペンシルベニア州在住
中2 清水 冬和子
 


私には忘れられない場所がある
卒業した日本語補習校
そこにあった小さな図書室
古くなった学校は
新たな街へ移っていた

 

今はもうない図書室を
時々無性に思い出す
歩くたびにきしむ床
異常にくもった窓ガラス
そこからもれる弱い光
少し傷んだ絵本の背表紙
修理を重ねた古い児童書
ページに残る小さな落書き
出番を待つ本達は
優しく私を出迎えた

 

そこに置かれた全ての本は
遠い海を越えてきた
きっと長い旅の中
ページは何度も開かれて
人の心に入っただろう
本の数だけ語られぬ
旅の思い出があっただろう
けれど破れ目隠す白いテープは
何も知らないふりをする
色あせながら傷跡守り
平気だよと眠り続ける

 

今はもうない図書室は
アメリカ暮らしに慣れない私に
優しい時間を与えてくれた
知らない道へと連れ出した
日本の文字に囲まれた
その場所だけは日本だった
異国の地だが日本だった

 

そして私はこれからも
きっと思い出すだろう
ピッツバーグの小さな街に
確かにあった古びた図書室
存在しない図書室は
時折私の心の中で
ほのかに光が差しこんで
静かににひっそり開館する