大学進学を機に中国から日本へ。帰国生が語る民俗学の面白さ 

民俗学は帰国生にぴったりの学問だと教えてくれた島村教授。では、実際に帰国生はどのように民俗学に取り組んでいるのだろうか。現在、島村教授のゼミに帰国生の学生が在籍している田岸陸さん(関西学院大学 社会学部3年)に民俗学の魅力について話を聞いてみた。  

 

日本における土地と文化の関係に興味  

——はじめに、田岸さんの海外経験についてお聞かせください。  

 

私は神奈川県で生まれたのですが、幼稚園に入るタイミングで家族の仕事の都合で香港に移住し、小学校高学年の頃に上海に移りました。現地では日本人学校で学んでいました。コロナ禍の際には3カ月ほど日本で生活しましたが、それを除くと物心がついてからはほとんど中国にいたことになります。  

 

 

——大学進学のタイミングで日本に戻ったのはどうしてだったのでしょうか?  

 

中国でも日本の教育を受けていたので、いつかは帰国したいと考えていました。そこで日本の大学について調べてみると、社会学という魅力的な学問があることを知りました。経済学部や法学部については当時の自分にも何を学ぶのかイメージがあったのですが、社会学部に関してはあまり聞いたことがなかったんです。社会学部の情報を集めているうちに、興味のあるテーマについて主体的に探究できる点に強く惹かれました。中でも、関西学院大学社会学部には長い歴史があり、幅広い分野の先生方が所属されています。ここで学ぶことが自分にとってベストだと考え、進学を決めました。  

 

 

——現在は島村教授のゼミで民俗学を専攻されていますが、どのような研究に取り組んでいるのでしょうか?  

 

まだ最終的なテーマについては絞り切れていないのですが、さまざまな論文に触れながら卒業研究に向けた準備を進めています。特に関心を持っているのは、土地と文化の関係です。民俗学に関連した授業を履修している中で、日本には数多くの寺社仏閣があり、地域に深く根ざしていることを学びました。もちろん中国にも有名な寺院はたくさんありますが、個人的に訪れる機会はほとんどありませんでした。しかし、日本では地域のお祭りなどが盛んに行われていて、信仰と土地のつながりの深さをとても新鮮に感じました。今後は「土地」を起点に、妖怪伝説などを含めた文化と地域との結びつきについて研究したいと構想しています。

海外経験で身につけた“当たり前”を疑う目線 

——民俗学について研究する面白さはどこにありますか?  

 

大学で学ぶなかで実感しているのは、民俗学が日常の“当たり前”を疑う学問だということです。私自身もそうでしたが、民俗学は過去を調査する考古学に近い分野だと認識されていることが多いと思います。しかし、実際は過去だけでなく現在のことについても研究できますし、未来へと想像を膨らませることもできます。世の中の“普通”をさまざまな時間軸で調べることで、その背景にあるものを明らかにできる点が民俗学の面白さだと感じています。  

 

 

——島村教授は、民俗学が帰国生の方にぴったりの学問だとお話しされていました。異文化を経験した帰国生は日本の文化や習慣に対して「なぜ?」という素朴な疑問を持ちやすく、その疑問が民俗学的な探究の源泉になるとのことですが、中国で過ごされていた田岸さんはいかがでしょう?  

 

日本の“当たり前”に対して疑問を持つことができるというのは、島村先生のおっしゃる通りだと思います。例えば、協調性を重んじる日本では、周囲との調和を大切にするあまりに窮屈さを感じる場面もあると言われます。一方、中国は比較的おおらかな文化だとされていますが、SNSやアプリの使用にルールがあったり、発信内容に制約があったりします。それを考えると、どちらの社会にも良いところと悪いところがあるように思えて。海外経験があるからこそ、その違いを肌で感じられるのだと思っています。  

 

——田岸さんから見て、魅力的な日本文化はありますか?  

 

大学の研究会に所属するくらい落語に面白さを感じています。もともとは日本文化を学びたいという動機で始めたのですが、扇子と手ぬぐいがあれば誰でもできる自由さに魅力を感じてのめり込んでいきました。私が取り組む関西の「上方落語」は「江戸落語」と異なり、三味線や太鼓を実際に鳴らす派手な演出が特徴です。このように、地域による文化の違いがある点も落語の奥深さのひとつだと考えています。所属する研究会では古典から創作落語まで幅広く取り組み、老人ホームや小学校での出張公演も積極的に行っています。  

 

——最後に、民俗学に興味を持つ帰国生に向けてメッセージをお願いします。  

民俗学に興味を持っているなら、ぜひそのまま飛び込んでみてください。学んでから後悔するということもないはずです。民俗学の研究対象は世の中に溢れているので、帰国生にとって非常に楽しい学びが待っていると思います。特に日本の文化に強い関心があり、生活や風土の移り変わりを「面白い」と思える人におすすめしたいです。