「コンフォート・ゾーンを抜け出して」カナダから宇都宮へ逆駐在
2026年5月18日
イマドキの海外生活

「コンフォート・ゾーンを抜け出して」カナダから宇都宮へ逆駐在

デイビッドさんとアリシアさんはカナダにある日系企業から逆駐在という形で2人の息子(4歳のソイヤーくんと、1歳のオリバーくん)とともに2025年に来日した。現在は栃木県宇都宮市に暮らしている。「初めての海外生活で、初めての専業主婦」に奮闘するアリシアさんに育児やキャリアについて、デイビッドさんにはカナダと日本の仕事スタイルの違いなどについて、話を聞いた。

(取材・翻訳・執筆:Makiko)  

実感した、「移動の大変さ」

—デイビッドさんは日本への逆駐在を以前から希望されていて、今回念願が叶ったそうです。一方、ちょうど第二子を出産して生活を整え始めていたアリシアさんにとっては、まず「悲しい」という感情が浮かんだそうです。  

 

アリシア:日本に行くとなると、長男ソイヤーの学校や友達、私の仕事や友達、家族、せっかく作り上げた新生児のサポートシステムなどを全て手放すことになります。私はずっと仕事をしてきましたし、専業主婦に憧れたこともないので、「人生が止まってしまう」と感じました。仕事も、2年以上の休職は認められないので、退職するほかありませんでした。  

 

デイビッド:移動は、想像より大変なことでした。ソイヤーも日本の幼稚園への適応に苦労することになりましたし、何よりアリシアが大変でした。ビザの関係で働けないので保育園を利用することができず、育児の全てを一人で担うことになりました。家族や友人のサポートがなく、言葉の壁もある中で、日常生活そのものが負担になっていると思います。ただ、それでも、子どもが小さい今の時期に来られたのが良かったと思っています。  

 

アリシア:同じ会社の仲の良い家族が先に駐在に来ていたので、ロールモデルがあったことにとても助けられました。ソイヤーは確かにカナダでのお友達を懐かしがるなど、私たちが胸を痛める場面もありますが、案外、日本に染まらずに自分を通しています。彼はもともと騒がしくてクレイジーなので、日本でも静かにできないのですが、その辺りは「彼にとっては土地がパーソナリティにインパクトを与えることはないらしいわ」と、ちょっと面白く感じています。

 

次男のオリバーは、児童館で「どうぞ」ってお辞儀をしておもちゃを貸し借りするなど、小さいながらに日本の文化が彼に影響しているのが感じられます。  

 

私に関しては、もともとはなんでも率先してやるタイプの人間。誰かが困っていたら助けるし、なんでも先に整理して準備万端でいるような。それが、日本に来てからは、もっぱら助けてもらうばかりです。来日してからは「悲しみ」というより、いろいろとできないことやわからないこと、時間がかかることに「怒り」が増していましたね(笑)。「せっかく日本にいるのに、私は何をしているんだろう」って。毎日育児と家事でとっても忙しいけれど、これは全て“Thankless jobs”(見えない仕事)だから、満足した気持ちにはなりにくいものです。

 

だからこそ、この状況で生活をしているということ自体を、自分たちが自分たちで褒め合えた方がいいですね。だって、食べ物ひとつ買えただけでも、すごいことをしているわけだから。 

子どもを乗せられる電動自転車は日本での生活に必須!
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日本の幼稚園の給食のおいしさと、行事の多さに驚いたという
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日本とカナダを比較して  

 

—デイビッドさんは日系企業にお勤めなので、日本文化に親しみはあったと思いますが、実際に日本のオフィスで仕事をし、生活する中で新たな発見はありましたか?  

 

デイビッド:日本では生産性に関係なく、「とにかくオフィスにいる」ことが重視されているような印象はあります。私や北米出身者は、必要があればもちろん遅くまで働くこともありますが、生産性がない時間に残ることはありません。 また、ルールについては「正式な規則」と「暗黙のルール」があり、それを破ることへの反応が大きいと感じます。例えば、ちょっとした書類のチェック漏れがあった場合、カナダでは「次から気をつけてね」で終わるようなことも、日本では複数の上司を交えた会議が開かれ、詳細な報告が求められます。 

 

一方、勤務制度はとても柔軟だと思います。子どもの看病のための休暇など、配慮の行き届いた制度が日本にはあります。  

 

生活の中で、日本の人々の素晴らしさを日々、感じます。親切で温かく、助け合いの精神にあふれています。日本の「社会の一員としての責任感」や「調和を大切にする価値観」は世界が学ぶべき点だと思います。 先日、家の近くの居酒屋で「もうすぐ誕生日なんだ」とちらっと話したら、当日に常連の方が集まってくれて誕生日会を開いてくれたんです。心尽くしの料理やプレゼントが並び、人生で忘れられない出来事になりました。このような人の温かさに触れられる、本当に貴重な時間を日本で過ごしています。  

 

アリシア:ジェンダーロール(性別による社会的役割)については、考えさせられます。カナダにいた頃、私たちは仕事、家事、育児の全ての面で完全に平等でした。それが今では、夫は何もしなくなってしまいました。私に何かあっても、子どもを幼稚園に送ることもできないんじゃないかしら。彼は日本語の勉強をする時間を確保できるから、日本語が飛躍的に上達したんです。それなのに、学校関係の書類を埋めるのは私。私の周りにはいつも子どもが走り回っているから、勉強がしたくてもなかなかできないんです。買い物、洗濯、掃除、それも全部私。これはどうやら日本の文化の影響なのかもしれないな、とは感じますね。 

 

育児をするにあたっては公園などが本当に安全なので、その安心感がとてもありがたいです。 

 

週末に日本国内のさまざまな地域に旅行に行くようにしていて、それも全てがかけがえのない経験になっています。「家族でコンフォートゾーン(安心して過ごせる心理的領域)を抜け出して、頑張っているんだな」と実感しながらやっています。   

カナダで友人たちがアリシアさんのために開いた壮行会。週1回は「友人との夕食」をしていたのが、来日してからできなくなり落ち込んだが、今はオンラインで繋がる時間を作っている
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親族との写真。赤ちゃんは親族皆で育てていくという文化で育ったアリシアさんは、新生児を連れて来日するのがとても不安だった。宇都宮では夫の会社の先輩ママや、英語の堪能な幼稚園ママに助けられているという
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