インドに飛び出して、一生追求していきたいことに出会った
2025年12月16日
イマドキの海外生活

インドに飛び出して、一生追求していきたいことに出会った

インド・デリーで友人とLLP(有限責任事業組合:Limited Liability Partnership)を設立し、カラリパヤット(インドの伝統的な武術)の指導者と大学講師をしている北岡かなさん。日本で大学を卒業後、日本語教師としてインドに渡り、18年間デリーを中心に生活をしている。「早く自立したい」という気持ちで海外に出てから、「ドラクエみたいに奇想天外なことが日々起こる」という、現在の生活に至るまでの話を聞いた。

(取材・執筆:Makiko)

「レールから外れて」。大学卒業と同時にインドへ

—かなさんは、今はデリーでカラリパヤットの指導と、アショーカ大学でその実践と講義をセットにした講座を行っているのですね。もともとは日本語教師としてインドに渡られたのが、始まりだったとか。

 

日本で生まれ、至って普通に育ちました。ただ、大学で視野が広がっていくにつれ、日本に対して「適応はできるけど、自分にとって心地がいい場所ではない」という思いが強くなっていきました。マジョリティが選ぶことを選ばないと、なぜか自分が悪いような気がしてしまうーーそんな空気を感じていました。「早く自立したい」という気持ちも強く、日系企業で下積みをしながら海外駐在の順番を待つというのも、できそうにありませんでした。大学生の時に日本語教師の資格を取り、卒業と同時に教師としてインドに渡りました。  

 

 

—特にインドを選んだ理由は?  

 

大学時代にバックパックで旅行をしたのがきっかけです。他にもヨーロッパなど色々と旅はしましたが、特にインドに心惹かれました。ロールプレイングゲームの「ドラクエ」みたいに予想外のことが次々に起こるのが、面白いんです(笑)。約束は守られないし、注文したものは届かないし、大雨が降れば冠水するし。でも、日本の「レールに沿った生き方」から脱したいと思っていた私には、それが魅力的に感じられました。 

 

インドで出会った、夢中になれること

—カラリパヤットとはどんな武術なのですか? 

 

南インドのケーララ州に古くから伝わる武術で、一説にはカンフーの原型とも言われています。戦いのようなポーズや、ダンスのような動きなど、さまざまな体の動きを使います。コンテンポラリー・ダンスをしている友人から勧められて、試したらすっかり夢中になりました。 

 

インドで暮らしている年数は伸びていましたが、「インドの何かをもっと深く身に付けたい」という思いが湧き上がっていた頃だったこともあり、指導者の方にお願いして、デリーとケーララを行き来しながら修行させてもらいました。修行を積んでから許可を得て、子どもたちに教え始めました。「これはこれからも長く追求していきたい」と、体を使うだけでなく、カラリパヤットの変遷の研究も始め、学会で発表するようになりました。   

インドに飛び出して、一生追求していきたいことに出会った

 

—日常生活ではヒンディー語と英語を使っているそうですが、語学はどのように学びましたか?  

 

どちらも正式に勉強したわけではありませんが、インドで2度大学院に通って、社会学を勉強しました。大学院は英語だったので、特に論文を書くのには苦労しました。ヒンディー語は、友人と話す中で覚えていきました。こちらは、とにかく「自信を持って話す」ということが大事ですね。デリーは日常生活では英語を使うことがほとんどなので、特に生活で苦労はありません。  

 

言語が違っても、皆が理解できる「譜面」を立ち上げたい

—今後の展望を教えてください。  

 

海外で暮らす中で、自分が「外国人」であるというのは、年を追って実感するようになります。カラリパヤットを熟練させていくためには言語的な要素も多いので、言葉のハンデがある私には難しいこともありました。そこで現在は、動きを「符号」にして「譜面」にできるように、研究を進めています。音楽と同じように、言葉が違っても、譜面を見ればどんな人でも理解できるような形にできるのが目標です。言葉だけでなく体のハンデがある人にも優しい形にしたいです。 

 

インドの生活は、何かが出てきては変更し、また変更して。何事も予定通りにはいきませんが、そんな日々をこれからも選択していきたいと思います。    

現在住んでいるのは、さまざまな階層の人でコミュニティを作っている、アーバンビレッジ。講義の準備をして、カラリパヤットの練習をしたら、夕方からは友人と集う
現在住んでいるのは、さまざまな階層の人でコミュニティを作っている、アーバンビレッジ。講義の準備をして、カラリパヤットの練習をしたら、夕方からは友人と集う