文部科学大臣賞

私のアイデンティティ

カナダ在住

小5 曽根 あやめ

 

 私は三才の時に父の仕事で、日本からカナダに引っ越して来た。カナダに来てからも街を転々とし、学校も三度変わった。この春にも引っ越しをしたので、新しい環境でスタートを切っている。一昨年、昨年は日本の小学校にも通った。二つとも違う小学校だったので、今まで出会った同級生や先生の数は普通よりずっと多いと思う。

 私は初めて会う人に必ず聞かれることがある。それは「どこから来たの?」という質問だ。私はこの質問にいつも、どう答えれば良いか悩んでいる。「どこ」とはいつの時点を指しているのだろうか? まず、私が生まれたのは日本である。母の出身の東京都で三才まで暮らしていた。しかし、次にこの場所に戻ったのはそれから五年後の八才の時だ。この時も日本の小学校で「どこから来たの?」と聞かれた。この時は「カナダのオタワからだよ。」と答えたが、私が生まれた場所、という意味に対して答えるのなら「日本の東京だよ。」と返事をする。

 引っ越し先の小学校でもまた、「どこから来たの?」と質問される。「ここから車で十五分くらいの、となりの街から引っ越してきたよ。」と答えているが、「そうじゃなくて、どこの国から? 中国から?」と言われることも少なくない。私の住んでいる街には日本人があまりいないので、アジア人は中国人と思われることが多いが、「生まれたのは日本だけど、一番長く住んでいるのはカナダだよ。」と、モヤモヤしながら回答している。

 しかしつい最近、そんな悩みを払拭する出来事があった。現在私のクラスでは、ヨーロッパで行われているサッカー欧州選手権についての話題で持ちきりである。ある日クラスの生まれも育ちもカナダの男の子が、

「ぼくはカナダ人だけど、ルーツはイタリアだから、イタリアを応援しているよ。おじいちゃんがイタリア人だからね。イタリアはすごい国なんだ。四回もワールドカップで優勝しているしね。ちなみに世界一おいしい食べ物はピザとパスタだ!」

と、大声で言っていた。また、他のカナダ人の男の子は、

「ぼくのママはフランスで育ったんだ。だからぼくはサッカーではフランスを応援しているんだ。エムバッペはドリブルもうまくて足も速くて、歴史上最高の選手だ!」

と、自分のことのように自慢している。他にも、カナダで生まれ育った、ドイツ人・ギリシャ人・ブラジル人・モロッコ人・ポルトガル人・中国人・ナイジェリア人・ロシア人・ジャマイカ人、それぞれが自分の国自慢をし、サッカーも自分の国が一番だと競い合っている。最近のランチタイムは、先生も混ざって試合結果や内容について話し、そこから食事や文化がテーマの雑談に発展することが多い。言語の話題になれば、同じ発音の言葉が違う意味だったと気付いたりして、ゲラゲラと声を出して笑う。とても楽しい時間だ。クラスメイトのことを知る良い機会にもなるし、何より異文化の話は興味深い。私も負けじと、「レアル・ソシエダの久保は緩急をつけたドリブルがすごいんだよ。日本のメッシだよ。それになんといってもメジャーリーグで活躍している大谷は世界一の野球選手だからね。」

「あ、それと、みんなが大すきなお寿司は日本のものだからね。」

と付け足した。

 私はみんなが笑顔で話す姿を見て、多くの子供が自然に、カナダという国以外も自分の国だと認識しているという事実にちょっぴり驚いた。同時に、「自分の国が一つだけである必要はないんだ。」ということに気付かされた。自分の生まれた国以外に住む経験は誰しもができることではない。今住んでいるカナダや、これから住むかもしれない国だって自分の国だと思って良いのだ。様々な国の文化に実際に触れることができる私はとてもラッキーなのだ。

 そして、自分の国や文化への愛情を育むには、外の国の人との交流こそが大きな役割を果たすのではないかと私は考える。友人が日本食を喜んで食べてくれたり、和風の雑貨を素敵だとほめてくれたとき、小さな「誇り」を感じた経験がある人は多いのではないだろうか。相手にもっと伝えるために、自分自身が自分の国について多くを学ばなければならないと感じたことがある人も少なくないはずだ。様々な国に住んで人や文化を知るという積み重ねの中に、自然とふるさとへ愛情が芽生え、育まれていくに違いない。私はそれぞれの民族がお互いの文化を大切にして、一緒に社会を作っているのが、カナダだなあと思う。カナダのそういうところが大好きだ。私も日本の歴史や文化を日本にいる日本人以上に学び、カナダに、そして世界に、発信していきたい。