中学生・松野允時さん インタビュー
JOES Davos Next 2023から生まれた快挙
JOES Davos Next 2024のテーマは「宇宙」。基調講演に宇宙飛行士の山崎直子さんを迎え、世界中をつないでオンラインディスカッションを実施します。期間は、2025年1月からの3カ月。申込受付開始は2024年秋ごろの予定で、それに向けて、現在急ピッチで準備が進んでいます。
そんな中、素晴らしいニュースが飛び込んできました。
昨年の参加者の中学生・松野允時さん(まつの・さねとき)さんが、イベント終了後も海の課題に関心を持って積極的に学びを深め、笹川平和財団海洋政策研究所主催のスタディツアーに参加。航海中に仲間とともに実施した「表層の海水温度と溶存酸素量の実測」の研究が、環境教育の権威として世界的に知られるThe GLOBE Program(Global Learning and Observations to Benefit the Environment)に選ばれてサイトに掲載されたのです。
アメリカ在住の松野さんと保護者に、オンラインでお話をお聞きしました。
※本コメントは、現在作成中のJOES Davos Next 2023 REPORTからの抜粋です。
(取材・執筆:只木良枝)
「海の問題をもっと知りたくて」
松野允時さん(アメリカ在住、現地校、G7)
昨年参加したJOES Davos Next2022の協働作業が楽しかったことと、テーマが海だったことから、2023年も参加を決めました。アメリカに来る前は愛知県に住んでいて、海は小さい頃から身近な存在でした。
阪口博士の基調講演はオンデマンド配信で視聴しました。ブルーカーボンという言葉を知り、海の危機的な現状を学んで衝撃を受けました。グループディスカッションでは、海の問題への意識をどのように高めていくかがテーマでした。お互いの意見を尊重しながら穏やかないい雰囲気でディスカッションが進み、最終的には、当初自分ひとりで考えていたアイデアに比べてはるかにいいものができたと思います。ただ、せっかく英語グループに参加したので、世界各国の子どもたちがいたらもっとよかったのにとも思いました。
基調講演とディスカッションを通して海の問題をもっと知りたくなり、シカゴの科学博物館の「ブルーパラドックス展」を見に行きました。マイクロプラスチックについての展示に感動し、ますます興味が深まっていたところに、JOESからのメールで「国際海洋人材育成プロジェクト」募集を知り、サイトの案内を読んで応募しました。横浜から南太平洋のパラオまで、科学者や世界各地の子どもたちと一緒に帆船「みらいへ」で航海するという、2週間のプログラムです。
帆船での外洋航海ははじめての経験。20人の参加者は11歳から25歳、出身国もさまざま。うまくなじめるかどうか不安もありました。でも、参加できるというワクワクのほうが強かったです。
航海中に海が荒れたときには船酔いにも苦しめられましたが、船の操舵のアクティビティ、レクチャー、ディスカッション、調査、バーベキューなど、すべてが特別で素晴らしい経験でした。マストの上で受ける潮風は本当に気持ちよかったです。
研究をしようと思ったのは航海が始まってからです。クリスティーナ先生(Christina Buffington、アラスカ・フェアバンクス大学)に相談したところ、海水温度と溶存酸素量の調査を勧められました。
採取した海水を計測するときにすばやくやらないと数値が変わってしまうことがあり、慎重に取り扱う必要がありました。
共同研究者のバングラディシュの大学生ミラーズさんとともに、先生の指導を受けながらポスターにまとめ、パラオ到着後にみんなの前で発表しました。緊張していたら、アフリカ出身の仲間のひとりが「ひとりひとりの顔じゃなくて、全体の雰囲気を見て話せばいいんだよ」とアドバイスしてくれたことが心に残っています。
その後、クリスティーナ先生の勧めでこの研究を The GLOBE Program(Global Learning and Observations to Benefit the Environment)にエントリーしたところ、Student Research Reports として選ばれました。これは僕ひとりの力ではなく、共同研究者のミラーズさんとクリスティーナ先生の指導のおかげだと、とても感謝しています。
この航海を通じて、僕は、将来は研究者になりたいと考えるようになりました。 今まで「研究」は、どこか遠い世界のことだと思っていましたが、自分が取り組んでみてぐっと身近なものになりました。今でも環境についての勉強は続けていて、クリスティーナ先生主宰のZoomミーティングにも参加しています。
海にゴミを捨てるのは良くないと、誰もが思っていますよね。でも、なぜいけないのか、ゴミを放置するとどうなるのかについて、ロジカルに説明できるでしょうか。僕はその「なぜ」を追求して、フィールドワークを通して探究し、根拠を持って伝えることができるようになりたいと思っています。
父・隼人さん、母・早苗さんより
小さい頃に連れて行った海で「このゴミ、どこに行っちゃうのかな」などと言っていたことがあったのですが、その興味がJOES Davos Next 2023への参加、展覧会、「みらいへ」の航海、そして研究、発表へとつながっていきました。自分で考えて、どんどん進んでいく息子を間近で見ていて、その成長に驚くばかりです。正直なところ、行って帰ってくるだけで精一杯だろうと思っていたのですが。
親は自分の経験からしかモノを言えませんが、私たちとは違う目線を持つその道のプロがいる場所では、そこでしかできない経験が得られます。親ができるのは、そういう場を与えることでしょう。いや、与えるというより紹介でしょうか。「あっちに行ってみたら何かあるかもしれないから、見てきてみたら?」と背中を押す。その中から取捨選択するのは、子どもの権利だろうと思っています。
どんな研究?
海水温が上昇すると分子の動きが大きくなることから酸素が揮発して海水の溶存酸素量(Dissolved Oxygen)が減少すると仮定。航海中に採取した海水のデータから海水温度と溶存酸素量の相関関係を明らかにしたもの。 過去のデータと比較することで人間の活動が海水温に与える影響を可視化する可能性を持つ、すぐれた研究だと評価されました。
The GLOBE Program
Global Learning and Observations to Benefit the Environment