<質問>
海外で身につけてきた外国語、どう保持・伸長させていけばよいのでしょうか。
アメリカの現地校でほぼ5年を過ごし、小学校5年の初めに日本へ帰国して、現在は社会人として活躍されている帰国生の方にインタビューをしました。
「文法、Listening、Reading。アメリカにいる時は、どちらかと言えばFeelingでしていたことを文法書などできちんとおさえるようにしました。小学校5、6年の時は塾と通信教育でも学んでいました。母の援助も非常に大きかったと思います。母は、海外滞在中も大学に聴講に行くなどをして、一緒に勉強していました。11歳で帰国したので11歳の英語のレベルだったわけですが、そこから、維持ではなく年齢に応じた英語力の向上ができたのは、中学・高校での授業、先生方の指導があったからだと思います」
この中に、『海外で身につけてきた外国語、どう保持伸長させていけばよいのでしょうか』への答えが多く含まれているように思えます。
具体的な方法
① 聞くこと(Listening)、読むこと(Reading)を中心に取り組むこと
② 定着を図るためにも「文法的な事項」を補うこと
③ 親の「支援する姿勢・態度」が必要なこと
④ 良き指導者、環境で学習すること
この4つが、英語を保持・伸長させた具体的な方法として語られています。 そして、それ以上に大切なのが、「英語を保持伸長したいという本人の意思」だということをインタビューの中で感じ取ることができました。
この方は、高校・大学でさらにフランス語・ドイツ語を習得され、インタビューの時にはロシア語の習得にも少しずつ取り組んでいるとおしゃっていました。日本語だけでなく、英語の保持伸長、そればかりでなく、着実に第3、第4、第5言語習得へと拡げられています。
言語の忘却・シフト
『私たちはいかにして英語を失うか』の著者で、JOESの外国語保持教室アドバイザー、言語学博士の服部孝彦氏は、言語の四技能「聞く力(Listening)」、「話す力(Speaking)」、「読む力(Reading)」、「書く力(Writing)」の中で、受動的な要素である「聞く(Listening)」、「読む(Reading)」は衰えにくく、逆に能動的な「話す(Speaking)」、「書く(Writing)」は衰えやすいと述べています。
帰国後に、「言っていることはわかる(Listening)」が「言葉がでてこない(Speaking)」、「読むことはできる(Reading )」が「スペルが出てこない(Writing)」、という経験を誰もがすると聞いています。できないことを嘆いて自信を無くしてしまうのではなく、できないことは諦めて、できることを中心に進めることが大切だと考えます。
学年相応の良質の読書は保持伸長に効果的であるといわれて、JOESの保持教室でも毎回多くの読書が宿題として出されています。
親の態度・支援
子どもが、駐在国につき、その国の言語を習得したり、学校生活・現地生活により早く適応したりするかは親御さんの姿勢・態度にかかっています。
そして、帰国後、圧倒的な日本語のシャワーを浴びる中で、外国語の忘却に自信を無くしているお子さんを支援するのは親の役目です。
駐在国での子どもの外国語の習得、帰国後の外国語の保持伸長と親の態度はそれぞれ相関しています。
年齢と外国語の習得度
幼稚園・小学校低学年段階までに獲得する外国語力は主として生活言語(BICS, basic interpersonal communicative skills )です。
個人差もありますが1年から2年程度で年齢に応じた能力を習得できるといわれていますが、言語環境が変われば、例えば帰国すると、急速に衰えてしまうといわれています。
これに対して小学校低学年から習得が始まる(認知)学習言語力(CALP, cognive academic language proficiency)は、思考や認知力を含めた高度の学習能力であり、習得に時間がかかるのですが、ある一定のレベルまでいくと衰えにくいといわれています。
年齢の高い段階で帰国する場合
良き指導者、環境で学習することが大切です。入学・編入学の可能な、外国語力を保持・伸長するシステムを持つ帰国生受け入れ校がある場合は、そのような学校を選択することが、外国語力を保持伸長するには大変有効でしょう。
低年齢の子どもと親の思い……
「幼稚園や学校できれいな発音で流暢に英語を使いこなしていた子どもの英語力を保持させてあげたい、保持しなければならない」
帰国生の多くの親御さんが望んでいることです。しかし低年齢の子どもの場合、海外で英語を習得するのに比べ、帰国後に英語力を保持する方がはるかに難しいという現実を理解しておく必要があります。
この現実のなか、保持・伸長の最大のエネルギーになるのが「英語を保持伸長したいという本人の意思」です。子ども本人がそのような気持ちになるような働きかけをすることが大切です。 帰国後、英語を保持伸長させて魅力的な人生を歩んでいる先輩の姿を見せるなど、英語ができると世界が広がることを実感させられるとよいでしょう。
終わりに
本稿は英語力の保持伸長を中心にさせていただきました。フランス語・ドイツ語などの保持・伸長は、現状として、大変厳しいものがあります。その中で、家庭教師、家族で音読をする、長期休業にホームステイをする、その言語を選択できる学校へ入学することなどで保持を図られています。
最後に、第二言語を伸ばすには、第一言語を伸ばしていくことが必須です。日本語の確実な習得、日本語での学習にしっかり取り組むことも重要です。
<回答者> 海外子女教育振興財団 教育アドバイザー 後藤 彰夫(ごとう あきお) 千葉県と東京都の教員、ワルシャワ日本人学校教諭を経て、東京都公立学校教頭・副校長・校長に。2013年からは6年ほど、本田技研工業株式会社で教育相談室長を務め、2019年より(海外子女教育振興財団)教育アドバイザー。東京都海外子女教育研究会、全国海外子女教育・国際理解教育研究協議会事務局長も務める。