2023年1月からオーストラリア、メルボルンで暮らす安原ファミリー。メルボルンの前は2018年から4年半をアメリカ、オハイオ州で過ごした。夫婦ともに小児科医である潤さん、理恵子さんと、メルボルンにある日英バイリンガル校に通う長女Aさん(9歳)、長男Bさん(7歳)、次男Cさん(3歳)の5人家族だ。日本と海外での生活の違いや教育上の悩みなどを、話してもらった。
(取材・執筆:Makiko)
「医師だから、仕方がない」
■潤さん、理恵子さんはご夫婦とも小児科医でいらっしゃいます。日本では同じ職場で医師として勤務されていたこともあるんですね。
理恵子:2人で一緒に働いていても、職場でも家でもほとんど顔を合わせたことがなかったよね。日本では帰宅時間が深夜1時なことも、週末返上で働くのも、仕方がないと思っていたから。医師だから、自分のために帰るなんて許されないと。担当の患者さんを残していると、診てあげられるのは自分しかいないから気になって。
潤:日本での勤務時間は今思えば、長すぎたね。オーストラリアではチームで診療をするので効率が良いですし、純粋に診療という仕事しかしていませんが、日本は主治医制なので担当患者さんに何かあれば勤務時間外でも呼び出しされることもあります。上司がいたら帰れないという空気感もあるし、書類作りなどの事務作業もあるし。当直から翌日まで勤務するのも当然だと思っていました。
■海外を意識されたきっかけは?
潤:高校生の時に姉がメキシコに留学し、「絶対行った方がいい、人生観が変わるよ」などと勧められましたが、当時の僕は留年するとか、大学受験が遅れるとか、そういうことが気になって行きませんでした。主体性のない生き方で、視野が狭かったんですよ(笑)。実際に意識したのは医師になってから、海外研究留学先を紹介してもらえるということで、日本で大学院に行くのではなく海外に研究留学をして学位を取ろうと考えて。子どもに海外生活をさせたいな、一度家族で海外に出て子どもと一緒に過ごす時間を持ちたいな、という割と軽い気持ちで行くことにしました。
理恵子:元々、子どもが好きで小児科医になったので、自分の子どもができたら仕事はセーブしたいと思っていました。でも、なかなか休ませてもらえなかったんです。産休、育休を取得した後は復帰しないと申し訳ないな、という気持ちで、休日にも院内保育園に預けて働いていました。だから、家族で一緒に過ごす時間を作れる海外研究留学にはぜひ一緒に行きたいと思ったんですよね。
■2018年に渡米されて研究留学生活に入られましたが、発見などはありましたか?
潤:昔は試験での英語の点が良かったので、自分は英語ができると思っていたんですよ。それも海外に行きたかった理由の一つかもしれないです。でも、実際に仕事で使う英語となると違うんですね。無茶苦茶、苦労しました。アメリカでは研究留学だったので、「準備してから話す」ことができましたが、今は臨床医として仕事をする中で瞬発的に言葉を出さないといけないので一層苦労しています。
理恵子:子どもたちは英語がすぐに伸びますが、私たちは、大人になってから英語を勉強してもなかなか伸びていきません。英語さえ喋れれば、と思う場面にはいくつも遭遇します。また、アメリカでは医師の働き方を見て、本当に驚きました。家族のイベントがあれば普通に帰るし、週末もしっかり休んで、人間的な生活を送っているんです。
潤:オーストラリアでも、医師が働きすぎなくて済むようなシステムがあるんです。当直をしたら翌日は休みとか、週末に勤務したら代休を取るとか。それをバックアップできる医師や看護師、医療スタッフが充実しています。僕は元々、妻が専業主婦になることに肯定的だったのですが、アメリカで女性たちがガンガン働いているのを見たら、ちょっと考え方が変わりましたね。娘にもジェンダーギャップを感じないで育ってほしいと思うようになりました。