日本で妊娠、出産、育児を経験したアメリカ人のアリシアさんと、夫の駐在同行中にアメリカでその経験をしている絢子さんとしおりさん。3人に座談会形式で語り合ってもらった。
(取材・翻訳・執筆:Makiko)
検査や対応にカルチャーの違い
—絢子さんは3人目のお子さんを現在アメリカで妊娠中なのですね。しおりさんは2人目のお子さんをアメリカで出産されています。アリシアさんはお子さんが4人いらっしゃいますが、2人目のお子さんを日本にいる時に妊娠、出産されたのですね。
絢子:妊娠中の精神状態を比較すると、私の場合はアメリカの方がずっと楽です。日本では色々な検査や数値で体をコントロールされている気分になって、ストレスに感じました。アメリカではそのような形でコントロールはされないので。
しおり:私は今回の妊娠中に、抗体の数値を確認するために4週に1度血液検査をすることになっていました。日本だったら検診の時に黙っていても必ず検査をされたと思いますが、アメリカでは自分から「今日は血液検査をする日です!」と主張しなければ忘れられることがありました(笑)。自分の状態や必要なことは自分で把握して主張していくのが、アメリカのカルチャーなのだと感じました。
アリシア:私の日本での妊娠出産経過はちょっと普通ではなかったので、あくまで個人的な体験になりますが、12週から絶対安静で、36週で緊急搬送、出産という流れでした。私は日本に住むのはそれが初めてではありませんでしたが、当時は夫と二人で学校に通いながら、長女の育児にも追われていました。
さらに、信じられないことですが、来日3カ月後に家に泥棒に入られるということもあり、今思えばすごくストレスを感じている中での妊娠ではありました。他の3人の子どもの妊娠・出産は通常の経過だったので、この時だけは体がいろんな負担を感じていたのかもしれません。
—出産時のエピソードを教えてください。
アリシア:前駆陣痛だと思って我慢しすぎてしまい、出血と共に病院に着いた時には「大変なことになってしまった」と思いましたが、みなさん手厚く診てくださって、これは本当にいい経験でした。日本では想定外のことが起きても出産に集中できるようなシステムが構築されているのが素晴らしいです。事前に書類にサインも済ませてあるので用意周到に臨めますよね。アメリカでは、出産の最中に「薬を使うので保険適用か確認してください」なんて言われても……できるわけないじゃない?(笑)
しおり:産後に病院がなぜかすごくうるさかったんですよ。パーティーでもしているような(笑)。だから日本のように何日も病院にいることなく、1泊だけで自宅に戻れたのはよかったです。無痛分娩だったので体は楽でしたし、退院の翌日には自分で小児科に赤ちゃんを連れていかなければならないのですが、それも普通にできました。
絢子:私は日本では自然分娩だったので、今回は無痛分娩なのが楽しみです。さきほどしおりさんから聞き、産後に電話訪問があることを知りました。誰も教えてくれないから、自分から情報を探しにいかないといけないですね。
しおり:駐在中だと、検査なども逐一保険について問い合わせて、コードをもらって、また確認して、と、手続きは煩雑でしたね。会社によって保険も違うから、同じ会社の先輩ママがいればいいのだけれど。
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親も子も、海外での適応に悩みはつきもの
—アリシアさんの長女は日本で幼稚園の年少から小学2年生まで過ごされて、しおりさんの長男は1歳で渡米、絢子さんは長男が3歳、次男が1歳で渡米されていますよね。海外での育児を通して気づきはありましたか?
アリシア:幼稚園では私たちを本当に温かく迎えてくれて、放課後に親も一緒に遊ぶ時間があったことで、私も一緒に馴染んで行けました。ただ、入園式にイースタードレスを着させた時に「あなたは違っていいのよ」と長女に言うと、「みんなと同じがいい」と泣かれたことがありましたね。私も私で日本に馴染めるように、チーズや海苔を小さく切って日本式のお弁当を作ったり、天気や時間帯を意識しながら、ぴったりなタイミングで洗濯物を干したり取り込んだりするように頑張りました。でも、どうしても完璧にはできないんです。自分の価値が減ってしまったような、そんな気分になることがありました。
その後、一度アメリカに戻って3人目を出産した後、再び日本で生活する時には、「母」としてというより、幼稚園の英語の先生として戻ったんです。それなら、私は「完璧な日本風ママ」ではなくて「クレイジーなアメリカ人」でいられます。それでようやく日本での自分の振る舞い方を手に入れました。「日本に住むアメリカ人ママ」としてのアジャストメントには、4、5年は必要だったと思います。
絢子:長男と次男は日本生まれですが、アメリカの現地校しか知らないので、帰国後のことは心配ですね。日本の学校に馴染めるのだろうかって。私は自分自身が高校生の時にオーストリアに留学していたこともあり、海外で育児をするにあたって特に大きな違和感はありません。こちらでアメリカ人ママが子どもの失敗を責めずに励ます様子は素敵だなと学んでいます。
しおり:私は日本で結構働いていたので、長男を産んだ後も、朝7時に保育園に預けて6時に迎えに行くような生活をしていました。長男が1歳3カ月で渡米した後、ちょうど冬だったのもあり、まだ会話もできない子どもと二人で家に篭りっきりというのが辛かったですね。
2歳で現地の幼稚園に入れることにしたのですが、日本語もできていない子を英語の環境に入れたので、その後言語遅延があり、悩みました。言葉にできないことから、おもちゃを投げるようなことも出てきて、言語遅延が環境要因なのか発達要因なのかわからない。医者に聞いても、わからない。結局、日本人のスピーチセラピーの先生に見てもらえて、落ち着いてきたのですが、そこにたどり着くまでに時間がかかってしまったな、と思っています。
アリシア:その社会での「良いママ」になろうとして、ママも自分にプレッシャーをかけてしまいますよね。親も子も、それぞれストーリーが違ってきます。日本生まれの次女は日本にうまく馴染めなかったんです。「幼児なら大丈夫、すぐにスイッチが切り替わるから」と言われるけれど、そんなに単純なものはないですよね。
しおり: 私も高校でミネソタ州に留学したことがあり、その後英語も日本語も話せない時期を経験しています。日本に戻ったら復職したいので、帰国前から子どもに日本的な基盤を作っておかなければならないと思ってはいます。
でも、日本で保育園や幼稚園で教えてもらっていたことをアメリカで実践しようとするには、お金をかけるか、ママがすごく頑張らないといけなくなります。鉄棒や縄跳び、健康的な食事。英語や環境への適応に気を取られがちになるので、子どもの長所を十分伸ばしてあげられているかな、というのも気になっています。
絢子:次男は1歳で渡米し、耳が良いのか、英語も日本語もよく入りました。今は英語の方が強いのですが、日本では日本の学校に行って、日本でしか経験できないことを体験してほしいです。ただ、私と夫がこの駐在生活を気に入っていても、今後、子どもたちが引っ越しを含む環境の変化を気に入るかはわかりません。これからも子どもたちの気持ちを聞きながら、やっていきたいと思います。
アリシア:アメリカ人でも日本人でもない、いわゆる「サードカルチャーキッズ」であることは「どちらでもない」ということでもありますが、私は二つの視点を持って生きられるのは素晴らしいことだと思っています。私たちが子どもたちに与えたのは「完璧」ではなくても「特別」な資質なんじゃないかな。
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