前回に引き続き、JOES Davos Next 2025の基調講演講師・馬奈木俊介先生(九州大学主幹教授・国連Inclusive Wealth Report Director)のインタビュー(後編)をお届けします。
前編では、基調講演や当日お答えいただいた子どもたちからの質問について先生の感想をお聞きしました。そしてそこから、「発言できる機会は積極的に活かして、自分の意見を表出することが大事」というお話になりました。
日本の講演会でよく見らえる、講師の「何か質問は?」に対して会場がシーンとしている光景について、「発言しないのは自分が損をすること。意見を出せば、それは社会の方向性を決めることにつながる」とおっしゃる馬奈木先生。その言葉にハッとした参加者は多かったのではないでしょうか。もちろん、子どもたちだけでなく大人の私たちも。
インタビュー後半は、まず、自分の意見を表出するためにどうするかという問いからはじまります。そして話題は、自分がやりたいことを実現するための「戦略」へ。最後は、狭い分野に縛られずに視野を広く持つこと、そして世界を広げていくことの素晴らしさについて、熱いメッセージをいただきました。
(取材・執筆:只木良枝)
——自分の意見を持ち表出することが、大切な社会参加であることはわかりました。では、実際はどうすればよいのでしょうか。
SNSの発達で、以前よりも意見の発信はしやすくなっています。その分、今のSNSは人の足を引っ張るツールのようになってしまっていて、その結果、みんな自分の意見を言わなくなっちゃっています。だからこそ今、自分の意見をしっかりと持ってきちんと発言できるようになってほしいです。
ではどうするか。喋る場、対話する場を増やせばいいんです。
東日本大震災のときには、原子力発電所の賛成意見と反対意見が入り乱れて、双方まともな議論になりませんでしたよね。だから対話のためには、反対・賛成を叫ぶだけでなく、相手が何を言わんとしているかをしっかり聞くことが重要なんです。 人の意見というのは、だいたい教科書のようなきちんとした文章になっていません。それをちゃんと理解するということは、実はとても難しい。でも、それをやらないと、結局は自分も困るんですよ。対話は、相手の意見を理解するところから始まるわけですから。
——「違う人の意見を理解して考える」ということは、JOES Davos Nextの基本姿勢でもあります。さて、JOES Davos Nextは、JOES理事長・綿引の「子どもたちが答えのない問いに立ち向かう場をつくりたい、そこから世界をリードしていく人材を育てたい」という願いのもとに始まりました。私たちはそれに近づいて行っているでしょうか?
綿引さんは「国連のトップをつとめるような人材を育てたい」って言われていて、私はそこが面白いと思っています。私自身は30代の頃から、国連の仕事もしていますし、国際的なプロジェクトとかの代表をいくつもやっています。
日本の方針って「No.2を育てること」なんですね。たとえば外務省なら、外務大臣ではなくて事務次官が事務方のトップです。でも私はそれが大失敗だと思っているんです。そんなの、何の意味がありますか? だって結局何でも決めるのはトップでしょう。だから「トップになってなんぼ」なんですよ。
学者って「自分がやっていることが、いずれ国連で活用されるとか、教科書に載るとか、世の中の標準になればいいんだ」って言いますよね。ただ、これは結構大変な道のりです。
でも、自分が教科書をつくる立場になったらどうでしょう? 当然、自分のやっていることを書くじゃないですか。「教科書に載ればいいな」じゃなくて、自分で載せちゃう。なんかちょっと詐欺みたいな言い方ですけど(笑)、自分がトップになってその分野の教科書を書けば、それをさらに進めていくことができます。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)で、私は、最初は自分がやっていることを国連のプロジェクトに採用させようって考えていたんです。でも途中で「なんかそれ面倒くさいな」と感じて、「これは自分が代表になったほうが早い」と思い、国連の職員でもないのに代表になったんです。本質的に「やった方がいいこと」を見つけて、そのための戦略を考えて、実現したわけです。
だから、自分がやりたいことと、そこに至るまでのプロセスの戦略を、子どもたちにはぜひ身につけてほしいと思っています。別に国連でなくて、町内会でもいいしPTAでも何でもいいんです。どうすれば自分がやりたいことを実現できるかを考える。
それと、「自分が得意なこと」と「自分が好きなこと」の二つを合わせていけるように考えてほしい。例えば、サッカーは大好きだけどそんなに上達しないってこともありますよね。で、選手になるのをあきらめるじゃないですか。でも、サッカーをやったことでとりあえず足はちょっと速くなったし、体力もついた。根性も育った。そこで勉強をはじめたら、体力や根性がある分、頑張ることができて、勉強だけをしている子に勝てるかもしれない。
——なるほど、何でも自分なりのやり方があるということですね。
一般に専門家って狭いところを深く追求していくものです。でも、私はある時、自分は専門家としては大したことがないなと気づいたんですね。そこで自分の強みは何かを考えて、だったら広げよう、と思ったんです。だから今私がやっているのは、多くの分野にまたがっている研究です。
——先生がおっしゃった「いろんな分野を融合させる」というのは、まさにそういうことですよね。それこそが、今世界が抱えている課題に立ち向かうのに必要なことですよね。
そうです。それと、総じてその分野に秀でた人はやっぱり優秀で、専門分野から広げて、学んでいくことに積極的な人が多いです。
たとえば、基調講演で腸内細菌の話をしましたが、私は腸内細菌の専門家というわけではありません。腸内細菌と温泉の関係に着目したテーマで専門家の前で話をすることがありますが、その時に、「その細菌の成り立ちを知っているか」とこちらの知識を試したり、「お前はこんなことも知らないのか」なんて言ってくる意地の悪い人は少ないです。たいてい、「なるほど、腸内細菌と都市開発をつなげようとしているんですね!」と、興味を示して、話を聞いてくれます。
新しいことに接したときに、自分なりに物事を解釈して広げて学ぼうという姿勢を持っている優秀な人はたくさんいます。そういう人と繋がることの価値は大きいですよ。
——そのためにも、自分の意見をきちんと持ち、発言できるということがまず重要になっていくわけですね。子どもたちへの大切なメッセージをいただいたような気がします。
本日はどうもありがとうございました。






