日本児童教育振興財団賞

壁が問う

ジュネーブ補習授業校(フランス)
中1 與那覇 智代

 

校舎の壁は国境だ
かつて迫害から逃れる人々が乗りこえた壁

 

校舎の二階の窓から
庭師が帽子をとって合図した
ドイツ兵が国境をはなれたと
与えられた時間はたった二分
ハシゴに登り自由を求めて飛び降りた
野原をジグザグに駆け抜けた
あの木を目指して
銃弾の届かないあの木まで

 

いま私は
教室から野原で散歩をする犬を見つけて
授業中によそ見をしている
いま私は
グランドから見えるその木を目印に
長距離走を走っている
いま
生徒の声や学校のチャイムが
国境をこえて野原にひびきわたる
校舎で息をひそめる必要なんてない

 

でも
壁のごつごつに触れるとき
有刺鉄線の名ごりを見上げるとき
壁は
自分の命をかけて他人を救えるか
平等のために行動できるか
と私に問いかける