【ロサンゼルス在住 岩井英津子さんによる現地の学校や生活を紹介するコラム】
ロサンゼルスから日々の気づきを発信する素敵なインスタグラムに出会いました。 駐在員の奥様(略して駐妻)が、小さなお子様ふたりを育てながら、日常の中で感じたことを飾らず、でも丁寧に綴っている投稿内容です。写真の美しさと、言葉の数々が心に残る洗練されたインスタグラムは、フォロワーが 1 万人を超えるほどの人気。
それもそのはず、投稿者はテレビ局の元アナウンサー。タレント事務所にも所属され、発信することを職業としてきた方です。けれど、それだけが理由ではないでしょう。多くの、なかでも同じ境遇にある駐妻の方々から、深い共感を得ている発信者 ――それが、大塚奈央子さんです。
うかがったのは、奈央子さんがお住まいのロサンゼルスでも海辺に近い素敵なエリア。明るい太陽と涼やかな風が通る緑の多い公園近くのカフェへ。奈央子さんは、インスタグラム写真そのままの素敵な笑顔で迎えてくださいました。
.png)
神戸出身の奈央子さんは、早稲田大学卒業後、地方局のアナウンサーとして活躍。福井、大阪、名古屋と拠点を移しながら、現在のご主人と出会い、結婚。2023 年夏、ご主人のロサンゼルス駐在に同行して渡米されました。現在はアナウンサーを休業し、 二人の子どもの二か国語教育を支える母として、日々を過ごされています。
彼女のインスタグラムには、駐妻としてのリアルな生活、喜びや戸惑い、そして子どもだけでなく自分自身の成長が綴られています。 明るくポジティブな印象の裏には、繊細な自己分析と、異文化での子育てに向き合う母としての葛藤が、静かに息づいているようでした。
「英語ひとつで世界が広がる」――学生時代の留学経験から、言葉の力を信じてアナウ ンサーの道を選んだ奈央子さん。伝えることが好きで、英語が好き。だからこそ、ご主 人の駐在が決まったときは「やったー」と心から喜ばれたそうです。
もちろん、駐在生活は楽しいことばかりではありません。最初にぶつかったのは、子どもの学校での言語の壁。息子が通う現地校には、日本人がひとりもいない環境でした。
登校時、「ママなんか!」と泣きながら抵抗する息子。最初の 1 週間は、学校から電話 がかかってくる日々。校長先生から「あなたのお子さんは…」と告げられた言葉に、胸がざわつきました。責められているように感じたその瞬間、「言葉がわからない息子の混乱や恐怖の思いを理解してほしい、この子の気持ちに寄り添ってほしい」……その一心で、言葉を探しました。不慣れな英語でも、切実な思いを伝えました。
担任の先生も校長先生も、真摯に耳を傾けてくれ、サポートしてくれるようになると、 息子は、自分の足で学校へ向かい、クラスの中に居場所を見つけることができたのです。母として涙が出るほど心配した日々は、「伝えようとする姿勢」が届いたことで、 先生方・学校への深い感謝の気持ちに変わります。
そんな息子が、ある日「Don’t push!」と友達を守る場面がありました。誰かがいじわるされているのを見て、彼の声が、誰かを守るために英語で響いた瞬間――それは、母としての誇りと感動が重なる場面でもありました。
言葉の力は、自分自身を見つめなおし、世界を広げる。奈央子さんは、彼の成長に胸がいっぱいになったと語ってくれました。
現地校での学びに加え、土曜日には日本語補習校へ通い、日本語のブラッシュアップも 続けています。海外子女教育振興財団の文芸作品コンクールの俳句部門にも応募し、日本語という言葉の美しさや、気持ちを五・七・五に織り込む楽しさを息子に伝え、会心の一句ができました。入賞するかどうかは、今の二人にとって重要ではありません。言葉を紡ぐ時間そのものが、かけがえのない学びだったことでしょう。
未就学の娘と過ごす時間もまた、奈央子さんにとって大切なものでした。渡米してしばらくは、ふたりだけの毎日。公園や図書館へ出かけることで、同じ年頃の子を持つ現地ママたちとの交流が広がりました。
娘の言葉の発達に少し不安を感じた奈央子さんは、そのままの心情を現地ママに相談すると、ロサンゼルス学校区の言語支援プログラムや親子クラスなど、有益な情報をたくさん得ることができました。日本人社会だけでは得にくい情報も、現地ママとの会話から広がった世界。言語だけでなく、母としてのサポートのあり方にも、大きな変化があったと振り返ります。

駐妻となると、言語の壁から限られた世界になりがちですが、あえて現地の社会に飛び込む――その選択が、駐在生活の困難を楽しさに変える鍵になると、奈央子さんは笑顔で語ってくれました。
インスタグラムでは、「現地ママとどうやって話せばいいですか?」という質問がよく寄せられるそうです。奈央子さんは、「無理に話す必要はないけれど、一歩踏み出すと違う世界が見える」と答えるようにしています。
彼女の発信は、同じ立場の誰かの背中をそっと押す、静かなエールのようです。1 万人 を超えるフォロワーとのやり取りの中で、「自分の人生を一歩踏み出す勇気になった」と言われたとき、奈央子さんは「自分の経験が誰かを勇気づけられる」と実感したそうです。それは、海外で生きる日本人の駐妻たちに向けた彼女なりの応援の場です。そして彼女自身もまた、フォロワーの方々から力をもらっていると言います。
報道関係のご主人は、北米西海岸を中心に、時にはハワイまで飛び回る多忙な日々。子どもの学校関連や子育ては、奈央子さんが一人で担うことも多いそうです。だからこそ、「夫は家庭を大切に思ってくれている」と感謝を忘れず、いざというときには、留学経験で培ったネイティブに近い英語力で助けてもらえる心強さもあると語ってくれました。企業によっては、夫が先に渡航し、生活基盤を整えてから家族を呼び寄せるという派遣スタイルもありますが、奈央子さんは家族全員で渡米。それも、彼女にとっては大きな意味があると感じています。
今後の子どもたちの成長の願いについて尋ねると、日本へ帰国した後の英語力の保持や、日本の教育環境への不安を口にされました。せっかく英語で自分の思いを伝えられるようになった息子や娘が、その力をどう生かしていけるか――それが、今の奈央子さんの切実な悩みです。言葉で伝えることを生業としてきた奈央子さんですが、ロサンゼルスに来てからは、インスタグラムというツールを使って、文章で発信することの楽しさと大切さを、あらためて感じるようになったと語ります。
言葉を紡ぐためには、自分自身の心の中を深く掘り下げる時間が必要。その準備こそが、発信の質を高め、誰かの心に届く力になるのだと気づいたそうです。
日本語という言語の美しさに改めて触れ、子どもたちにもその豊かさを受け継いでほしい。そして、海外にいても、言葉をツールとして自分自身を表現できることが、不安や迷いを楽しさに変えてくれる――そんな確信を持って、奈央子さんは今日も発信を続け ます。
子どもたちの成長を通して、奈央子さん自身もまた、駐妻生活の中で確かな変化を感じているようでした。それは、母としての成長であり、ひとりの女性としての成熟でもあります。
言葉の力を信じて、伝えることを続ける――その姿は、駐在生活を送るすべての家庭に、静かな勇気と新たな視点を届けてくれるように感じました。
大塚さんのインスタグラムはこちらから
岩井英津子(いわいえつこ)
国際教育アドバイザー。アメリカロサンゼルス在住40余年。商社の女性駐在員として渡米。退社後、永住権取得。補習校の教員として小学校中学校の指導歴20年、学校管理職10年および専務理事として補習校経営10年、在外子女教育に従事。2024年よりJOESの国際広報を担当。


.png)





