アメリカのオハイオ州コロンバスにある「コロンバス剣道部」は、約35名の小・中学生が通う子供中心の道場としてはアメリカ東海岸で最大級を自負する日本人剣道組織です。人間形成を目指す「武道」を学ぶことにより、礼節を身につけ、健全な精神を養うことを目的として活動しています。
(取材・執筆:ミニマル丸茂健一)
子供中心の道場としてアメリカ東海岸で最大級の日本人剣道組織
「コロンバス剣道部」のメンバーの8割以上は、コロンバス日本語補習校に通う日本人の小・中学生。最近は、大人の稽古生も増えています。日本のように徒歩や自転車で道場に通うことができないため、稽古は週に2回、金曜日の夜と土曜日に行っています。稽古の機会が限られているからこそ、1回の質を高めることを常に意識しているといいます。
剣道はスポーツではなく、武道として、心と体を鍛え、人間形成に役立つもの。剣道を通じて、子どもたちが礼節を学び、強い精神力を身につけ、成長していくことを理想としています。
コロンバス剣道部が設立されたのは2012年。当時、コロンバス日本語補習校の有志が集まり、子どもたちのために剣道を教えようと立ち上げられました。アメリカでは、特に子どもたちが運動不足になりがちです。普段は親と車で移動し、自由に外で遊ぶ機会が少ない。そんな環境の中で、「剣道を通じて体を動かし、精神的にも成長できる場をつくりたい」と考えたメンバーによって設立されました。背景には、ここに通う子どもたちが、いつか日本へ帰国する際に、日本の礼儀作法をしっかりと身につけて、社会に馴染めるようにしたいという思いもあったといいます。
目標は、「全米ジュニア剣道大会」優勝!
「コロンバス剣道部」が、指導で大切にしているのは、「心を育てること」。子どもたちは「かっこいいね」「上手だね」とほめられるのが好きです。さらに、ライバルに勝ちたい、負けたくないという気持ちも強い。その感情を上手に刺激しながら、剣道を教えているといいます。
当然ながら、厳しさも必要です。剣道は武道であり、礼節を学ぶ場でもあります。そのため、道場に入ったら靴を揃える、背筋を伸ばす、相手を敬う──そういった基本的なことを徹底させているといいます。最近はアメリカ人の稽古生も増えており、彼らも日本の武道の精神に興味を持ち、真剣に学んでいます。彼らにとって、剣道の魅力は、ただ技を磨くだけでなく、人間的な成長にもつながるところにあるようです。
コロンバス剣道部の子どもたちは、競技として真剣に、剣道に取り組んでいます。特に「全米ジュニア剣道大会」での入賞は、大きな目標の一つです。2024年には5人制の団体戦で3位、個人戦でも16~18歳の部で2名が3位入賞を果たしました。過去には個人戦で大会4連覇した稽古生もいます。最大の目標は、全米ジュニア剣道大会優勝! 世界大会で日本を破った指導者もいるという西海岸の道場に負けないよう日々努力を続けています。
小さな大会としては、年1回、道場で「コロンバス剣道部杯」も開催しています。始めたばかりの子は、ここがデビュー戦になります。部内のメンバーと試合をして慣れてから、部外の大会に出場していきます。
「コロンバス剣道部」では、試合以外にも、昇級・昇段審査を通じて子どもたちの成長を促しています。審査では技術だけでなく、礼儀作法や心構えも評価されるため、普段の稽古の積み重ねが重要になります。剣道の目的は、「勝つこと」ではない。試合で負けたとしても、どうすれば次に活かせるかを考え、学ぶ姿勢が大切だといいます。その「考える力」は、剣道だけでなく、将来の人生にも必ず役立つはずです。
「忍耐力」「決断力」「判断力」を身につけてほしい
剣道の稽古を通じて、子どもたちには「忍耐力」「決断力」「判断力」を身につけてほしいというのが「コロンバス剣道部」の願いです。剣道は瞬時の判断が勝敗を分ける競技です。試合中、何をすべきか、どう動くべきかを考える力が求められます。これは剣道だけでなく、勉強や仕事にも役立つ力です。だからこそ、「文武両道」を大切にし、それを子どもたちにしっかり伝えているといいます。
「ここで学んだ子どもたちが世界大会で活躍し、いつか今度は教える立場になり、また次の世代へと受け継いでいく」
そんな未来をコロンバスの地で築いていきたい、「コロンバス剣道部」が掲げる夢です。