入試広報委員・地歴公民科教諭
林晟一
「中動態」って知ってますか?
英語の授業で、能動態(~する)と受動態(~される)を学んだ人がいるでしょう。
中動態とは、大ざっぱにいえば、両者の間で生じる動作のことです。
「小さいころよく一緒に遊んだ花子さんのことが、ふと思い出される」
自分で行おうとしているのではないし、誰かに指示されているわけでもない。なのに、心と体が動いてしまう。中動態を解きほぐしてみると、そういうことです。
* * *
やりたいこともまた、みずから能動的に見つけられるものではないかもしれません。
海外での楽しい生活、おいしい料理、魅力的なファッション、現地の人びとの笑顔。
日本を離れたことによるストレス、コミュニケーションの難しさ、海の向こうにいる日本の同級生をうらやましがる気持ち……。
あなたは、日本で生活してきた人には味わえない、刺激たっぷりな、それでいてほろ苦い経験をしてきたはずです。
「忙しい毎日で、受験勉強や志望校だって気になるのに、やりたいことなんて見つけられないよ!」
そんな心の叫び声を、大切に。だって、人とは一味違う生活を送ってきたあなたの言い分は、ひとつも間違ってないんですから。
* * *
十代のうちは、少しでも興味がわいたことをやってみて、「あ、つまらない」「飽きた」という経験を重ねられれば、ハナマルです。
やって、つまずき、方向転換し、別の何かを始め、つまずき、休み、立ち上がる。
頼りないライトを灯し、暗闇のダンジョンを進み、何度も行き止まりの壁にぶち当たる。この無限ループから早く抜け出したい。そう思うことがあるかもしれません。
そんな毎日を、「時間の無駄だ!」と説教する大人が近くにいたら、こっそり鼻で笑ってあげてください。
一見すると無駄のように思える経験を重ねるうち、いつの間にか何かに魅了(みりょう)され、引き寄せられ、没頭する。あなたがやりたいことを「見つける」のではなく、やりたいことにあなたが「見つけられる」。
そんな中動態の瞬間がきっと来ます。そのときをじっと待つことも、人生の大事な1ページです。
* * *
けれど、あせるなって言われてもあせりますよね。もやもやが晴れないときは、外を思いっきり走り、体の動きに心をあずけてみてはどうでしょう。
無心に腕を振って走るうち、いつの間にか、風と息と汗と体のリズムに心が吸い寄せられ、ここちよさが感じられるとしたら……。中動態の芽が、顔をのぞかせたということです。
走り回ったあとは、大好物をお腹いっぱい食べましょう。
ふしぎと笑顔がこぼれ、その笑顔に誘われて元気いっぱいになれますから!