JOES Davos Next 2024無事終了
2025年6月9日
Davos Next

JOES Davos Next 2024無事終了

「JOES Davos Next 2024」の学びのデザインを振り返る

 

2024年12月、宇宙飛行士・山崎直子さんの基調講演で幕を開けたJOES Davos Next 2024は、年明けのQ&Aセッション、それに続くPART 2グループワーク4回の全日程を、盛況のうちに終了しました。それぞれのグループの成果は、動画の形でまとめられました。
参加者、ディスカッションを支えてくださったファシリテーター、そして宇宙開発フォーラム実行委員会のみなさんとともに、充実した時間を過ごすことができました。数か月間にわたって子どもたちを支えてくださった保護者や先生方に、心より感謝申し上げます。
JOES Davos Nextは今回で3回目。基調講演とディスカッションという基本構成は変わりませんが、その実施スタイルは少しずつ変化してきました。第1回からJOES Davos Next運営委員をつとめ、学びのデザインを一緒に築き上げてきた山本良太先生(大阪教育大学)に、今回の学びの設計とその狙い、そして成果についてお話を伺いました。

(取材・執筆:只木良枝)  

山本良太先生(大阪教育大学)
ファシリテーター研修のときに撮影したもの

——今回の基調講演は初のオンデマンド配信でしたね。  

 

はい。今年度の基調講演は、反転学習と呼ばれる教育方法を参考に組み立てられました。 

反転学習というのは、対面授業での知識等の指導、その後の家庭学習での復習という従来の流れをひっくり返して、まず家庭学習で動画教材等から知識を獲得し、次に対面授業でそれをより深めるための対話等を行うという方法です。学校の授業でも、この方式を取り入れているところがありますね。  

 

 

 

——基調講演の後に、ライブでのQ&Aセッションが用意されていました。  

 

Q&Aセッションは、基調講演動画の配信開始後2カ月ほど経ってから、ライブで実施されました。リアルタイムでたくさんの質問が寄せられていましたし、時差等の関係でライブ参加できなかった子どもたちは事前にビデオレターなどの形で事前に質問を提出してくれました。山崎直子宇宙飛行士に質問できるということで、Q&Aセッションに向けてしっかりと知識を獲得するモチベーションが高まったり、知識等をより深めるための自分なりの探究ができるようになったりしたのではないでしょうか。参加してくれたみなさんにとって、価値のある時間になったと思います。 

 

 

 

——グループディスカッションについて、どのような印象をお持ちでしょうか。  

 

私自身が具体的なディスカッションの場に入ったわけではないのですが、成果動画は視聴しました。参加者はそれぞれ基調講演や資料から、宇宙に関する問題をしっかり理解することができていたように思います。 

 

宇宙は私たちの日常生活からは遠く、実際に行ったり見たりすることが難しい存在です。ですから、宇宙の問題解決は今すぐに児童生徒たちが取り組めることではないかもしれません。 

 

しかし今回のJOES Davos Nextでは、宇宙の問題解決方法を地球に応用してさらに自分の行動に結び付けるために考える、ということを学びの目標のひとつにしていました。成果動画からは、子どもたちが「宇宙や宇宙の問題解決が自分には縁遠いものではなく関連するものなのだ」ということを理解し、自分の行動に結びつけようとしていることが伝わってきました。 

 

 

 

——宇宙という難しいテーマにもかかわらず、子どもたちは生き生きと興味を持って取り組んでいましたね。  

 

特に印象に残ったのは、宇宙の問題や解決方法などに関する調べ学習がとても充実していたことです。 

 

これはおそらく、山崎宇宙飛行士の基調講演が充実していたこと、ファシリテーターのみなさんがしっかりと次回までの宿題を伝えてくれたこと、宇宙開発フォーラム実行委員会の大学生たちが様々な情報をわかりやすく提供してくれたこと、そして何より参加してくれたみなさんが関心を持ち一生懸命取り組んだ結果であるように思います。 

 

良い提案をするためには、その前提として分厚い調査が必要です。調査に基づいた提案ではないと、内容が薄くなってしまいますから。 

 

また、学習において大事なこととしてよく挙げられるのが、どのような資料を準備するか、ということです。その意味では、2024年度は山崎直子宇宙飛行士やJAXA、宇宙開発フォーラム実行委員会など、かかわった多くの方々がたくさんの良質な資料を提供してくださいました。そしてその資料をしっかりと読み込むための仕掛けやディスカッションの場をファシリテーターがしっかりと支えたこと、何よりもそこに参加したみなさんの努力があったことがうかがえます。  

 

 

 

——JOES理事長の綿引はDavos Nextの夢は「ダボス会議のような場にキーノート・スピーカーとして招かれるような人材を育てたい」、狙いとして「20年後の未来の日本を支える原動力となる未来世代の子どもたちに前例のない学びの場を提供したい」と述べています。そのミッションは達成できている、あるいは達成の一歩を踏み出しているとお考えですか?  

 

綿引理事長は長期的なスパンで、JOES Davos Nextをはじめとする様々なプロジェクトを人材育成の場として位置付けていらっしゃると思います。私も教育の成果が分かるのはずっと先だと思っています。加えて、この取り組みだけが子どもたちの成長に関わるわけではありません。 

 

ですから、JOES Davos Nextの掲げるミッションが達成できたかどうかは安易に評価できません。 

 

しかしながら、前年度に参加してくれた中学3年生が次年度以降はファシリテーターとして継続的に関与してくれている例がいくつもあることなどから、この取り組みは参加者によい影響を与えているという実感があります。ミッションが達成されているかを確かめることも大事ですが、ミッションの達成を信じてこの取り組みを継続することもまた、とても重要なのではないかと思っています。 

 

私は、学習においては、知識や技能の習得に加え、どのようなコミュニティに参加しているかが重要だと考えています。例えば、ローカルなコミュニティで子どもたちは、その中で継承されている文化や習慣を継承することに関心を持っていくように思いますし、グローバルなコミュニティであれば、様々な違いを持った子どもたちがそれぞれの特徴を認識して「自分らしさとは何か」を追及したり、お互いに切磋琢磨して学び、新しいことを生み出していったりするように思います。 

 

この考えにDavos Nextを当てはめてみると、基調講演で良質な知識や考え方を獲得し、ディスカッションセッションで普段とは異なるグローバルなコミュニティでの切磋琢磨や協働が展開されています。つまり、学習で大事な複数の側面にアプローチすることができる、とても意義深い取り組みであると言えますね。  

 

 

 

——これからのJOES Davos Nextについて、どのようにお考えですか?  

 

毎年、参加者同士の交流や、ファシリテーターと参加者間の交流があり、興味深い成果が生まれていますが、どうしても開催期間中だけのスナップショット的なものになってしまいがちです。Davos Nextでは刺激的な情報の獲得や議論ができる一方で、日常生活ではなかなか同じように考える仲間が見つけられないということもあるでしょう。


ですから、「Davos Nextコミュニティ」のようなものが生まれてくるとよいですね。参加者にとって「帰る場所」「面白いことを生み出す場所」のひとつとして、志を同じにする仲間が集まることができるコミュニティがあると、切磋琢磨が継続されていくのではないかと思います。 

 

 

——ありがとうございました。これからのJOES Davos Nextも、どうぞよろしくお願いします。