【ロサンゼルス在住 岩井英津子さんによる現地の学校や生活を紹介するコラム】
2024年10月、ロサンゼルス総領事公邸において、JETRO主催「Beyond JAPAN Zero to X」のピッチ*イベントが実施されました。そこで、補習校出身というアントレプレナー(一般的には起業家を指す)にお会いすることができました。今回の前編では、JETROのイベントについて、後編ではアントレプレナーの佐藤太紀さんについてご紹介します。
*投資家や企業などに対してスタートアップが短い時間で行うプレゼンテーションのこと
タイトル写真 Photo credit: US FrontLine
JETROでは2023年度から、スタートアップ企業や起業家を支援し事業成長を促進するためのプログラム「Beyond JAPAN Zero to X」を実施しています。これは、起業家育成事業「グローバルイノベーター創生プログラム」(5ヵ年計画)のひとつで、日本から米国でのビジネス展開を目指す次世代起業家や企業を対象に、最長7週間に亘る長期滞在型の研修を行うプログラムです。このような起業家育成や日本企業支援の方策については、10年以上前から実施されており、毎年見直しされています。
「Beyond Japan Zero to X」というプログラムでは、研修を行い、将来性のあるスタートアップ企業や起業家と投資家とのマッチング、またはアメリカ進出へのスキャフォールディング(足場かけ)を行うことを目的としています。どのような起業家や企業が選抜されるかは、業務内容はもちろん、将来性など幅広い審査によって決定されます。
今回の「Zero to X」は、ロサンゼルス総領事公邸にて行われた、消費者テック分野のピッチです。ここに参加したのは、17のプログラム研修参加企業のうち6社のみでした。もとより、この研修プログラムには多数の企業が応募し、高倍率で選抜されています。
このピッチの前には、JETRO Los AngelesとWorld Trade Center Los Angeles(WTCLA)が貿易・経済に関する協力関係を結ぶ覚書を締結する調印式が行われました。二つの機関の代表者が調印し、witness(立会人)としてロサンゼルス副市長や曽根総領事が署名しました。
ロサンゼルスにおける航空宇宙産業やAI、そしてクリーンエネルギーや、モビリティー・ライフサイエンス等、これからさらに発展を目指す産業について、両機関の協力関係は重要です。JETRO Los Angelesの梶田朗所長によると、「両機関の関係は長い間良好であり協力関係にあるが、あらためてスタートアップ企業の支援をするという点においてaction programを実施していくために締結した調印」とのことでした。
なるほど、アメリカにおける日本企業の活躍をバックアップするためにもJETROとWTCLAの関係強化は重要であることを再認識すると同時に、今回の6社のピッチへの期待も大きく高まるというものです。

また、今、日本国内では、産官学連携で、アントレプレナーシップ育成に重点をおいています。JETROのこのプログラムも、東京大学をメインに10以上の大学とのMOU(基本合意書)を結び、研究・開発・起業を支援しています。
「アントレプレナー」は、「起業家」と訳されますが、それ以上の意味があります。起業を含めて、産業イノベーションを起こす人材の育成のため文部科学省がアントレプレナーシップ教育のロードマップを平成16年度から提唱し、産官学共同で進めています。アントレプレナーシップとは第三の認知的能力であり、それを兼ね備えているのが「アントレプレナー」である、とされています。ただ、文部科学省の令和4年度の報告では、大学におけるアントレプレナーシップ教育の実施は、文部科学省による次世代アントレプレナー育成事業「Edge Next」の参加大学以外では30%にとどまっており、ましてや、小学校・中学校での導入は現場からは懐疑的に映っているようです。
そのような中にあって「Edge Next」の参加大学である東京大学は、イノベーションの分野においても、起業家創出においても評価が高いようです。
今回 の起業家育成プログラムの募集要項について、梶田所長にいくつか質問してみました。企業の所在は日本であること、海外進出を考えていることなど多様な項目があります。そして、言語に関して尋ねると、「海外でのピッチなので、英語で実施することが当然であり、また募集要項等の連絡事項は日本語記載なので、両語をビジネスレベルで理解できることが必要」ということは大前提すぎるため、わざわざ言語について記載していませんとのこと。
当然と言えば当然のことですが、その言葉に軽くショックを受けた私は、そのショックの理由を分析してみました。国境を越えるレベルのビジネス・社会では、今やマルチリンガルが当然になっていますが、いまだ教育分野では、「いかにバイリンガル育成を成功させるか」という段階で苦労を重ねているからではないかと思い至りました。
すでに、翻訳デバイスやAI技術の発展で、バイリンガル育成の必要性はあるのかと疑問の声も出始めています。しかし、梶田所長いわく、「ビジネスの社会で、複数言語が使用できることは異文化理解につながる大切なことであるが、どのような文化背景または言語獲得状況であろうと、企業が求める人材とその人の能力がマッチすることが一番大切で、いわゆる適材適所だろう」と。多くの企業の支援をしているJETROの所長だからこその言葉がありました。
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岩井英津子(いわいえつこ)
国際教育アドバイザー。アメリカロサンゼルス在住40余年。商社の女性駐在員として渡米。退社後、永住権取得。補習校の教員として小学校中学校の指導歴20年、学校管理職10年および専務理事として補習校経営10年、在外子女教育に従事。2024年夏よりJOESの国際広報を担当。