2024年12月16日
トピックス(その他)

グローバル&インクルージョンな取り組み~Cypress College:International Cultural Festival~

【ロサンゼルス在住 岩井英津子さんによる現地の学校や生活を紹介するコラム】

 

 サイプレス・カレッジ(Cypress College)で、国際文化フェスティバル(International Cultural Festival)が大々的に行われるという情報があり、さて、どんなフェスティバルなのか興味津々で出かけました。 
 サイプレス(Cypress)市は、ロサンゼルスのダウンタウンより30マイルほど南下したところにあり、オレンジ郡にある34市のうちのひとつです。ディズニーランドまでは7マイルほど、すぐ近くです。人口は5万人前後と小規模ですが、治安はよい部類に入ります。日系企業のオフィスも複数あります。また、ロスアラミトス競馬場という、隣の市の名前がつけられた大きな競馬場があることでも有名です。 
 コミュニティカレッジとはその名の通り、コミュニティのためのカレッジであり、役割としては、主に三つあります。「準学士をとり、就職に生かすため」、また、「4年制大学へ編入を目指すための基礎学習・研究」、そして「社会人になっている人の生涯学習のため」です。アメリカの高校生の進学する選択肢として、大学へ3年から編入するために、まずコミュニティカレッジで2年間基礎・教養を積むという方法をとる人は多いです。その理由の第一は、やはり学費が安くなり経済的であることです。コミュニティカレッジからの編入の方が、入学許可を得やすいことは意外に知られていないようです。 
 サイプレス・カレッジは、そのようにコミュニティのために大きな役割を担っており、 International Cultural Festival ではその重要性をさらに具現化したもののようでした。このフェスティバルの企画構想は 2年がかりで、同大学の日本語学科の教授である寺田美穂子先生がイニシアチブを取られ、コロナ禍で断絶された人間関係や人と人との絆・コミュニケーションを取り戻すことを大きな目的として実施されました。寺田先生ご自身が受け持つ、日本語学科の学生は250余名とのこと。そのうちの何割かは、日本へ行き職に就くことを希望するそうです。そのために大学で準学士を取らせたり、日本語を通しての日本文化や習慣なども教授したりするなど、丁寧な進路指導をされています。

 さて、フェスティバルに話を戻しましょう。 
 日本をはじめ、中国やメキシコ系、フィリピン、ベトナムなど各国の演目や食べ物ブースはもちろんのこと、大学内にある各グループのブースも目白押しです。
 ラテンアメリカ系のプエンテ・プログラムをはじめとする各国エスニックグループ以外にも、LGBTQ の「プライド・プログラム」、アフリカンアメリカンの「レガシー・プログラム」、そして、「ライジングプログラム」という、何らかの罪を犯したために刑務に服していた人が、Collegeで学びなおすというプログラムやグループがフェスティバルを盛り上げます。まさにコミュニティカレッジならではの多様性です。 
 通常、学生たちは、それぞれ所属のグループまたはクラスごとでの交流だけになりがちですが、寺田先生はそれらのグループを横断的にひとつにし、一人一人が自己アイデンティティを感じてもらいたい、人間関係を築き、自分のゴールに向かってほしいという熱い気持ちでこのフェスティバルを企画し、実現されました。 
 午前11時の開始から午後7時30分のクロージングまで、15分間隔で各種イベントが盛りだくさん。この時間設定には、秘策がありました。学生が大学で講義を受ける合間に見に来ることができ、また入れ替わり立ち替わり多くの学生が参加することも可能にしたのです。 
 校舎ビルの正面玄関前に設置されたメインステージ(ケーブルカバーで仕切られた場所)では、南加徳島県人会の阿波踊りの大太鼓登場から賑やかにスタート。  
 阿波踊りが行われる前には観客に踊りの由来が英語で説明され、「一緒に参加しよう!」というお誘いの言葉を合図にお囃子がチャンチキチャンチキとなりだすと、学生もいっしょに踊ります。日本の演目は、阿波踊り以外に、午後には鳥取シャンシャン傘踊りが披露されました。 このようなローカルな踊りは、日本に居ても見る機会はついぞなかったであろうと思うと、日本文化を知る意味においても日本に居るだけというのはむしろ視野を狭めるのかと思いました。  

 メキシコのマリアッチ五重奏はプロの演奏でしたが、この演目だけでも立派なコンサートでした。入場無料で見せてもらってよいのですか、と、楽しみながらも申し訳ない思いになってしまうほどです。 

 プログラムに記載のあった「ドラァグクイーン・コンテスト」にもまた興味津々。登場したのはとても素敵なクイーン達で、歌いながら踊る姿は、一般の学生とは思えないほど堂に入ったもので、私もステージに引っ張り出されていっしょに踊ってしまいました。
 ステージの興奮が鎮まらないうちにブースでは、各国のお国自慢料理の3分間クッキングが始まります。日本ブースでは、お好み焼きの作り方ということでしたが、「うむ? それは何県のお好み焼きかな?」という懐疑的な思いは、にこやかな笑顔に変えました。お好み焼きは、アメリカ人にも大うけでした。 

 ルイアームストロングが歌ったことで有名な「What a wonderful world」が、大学のコーラスグループとサインランゲージ(手話)グループの総勢 30名ほどで合唱されました。この International Cultural Festival の目指す目的にふさわしい歌詞と韻律で、涙が止まらず、感激の時間でした。 

 その後も、中国の銅鑼を鳴らしての虎パフォーマンスや、アオザイがカラフルなベトナム美女の優雅な踊り、コスチュームコンテストなどなど、出演者はもちろん観客も楽しみました。そして、場内が一体化したフェスティバルは日が沈み始めた頃に終了です。 
 カレッジの学生は、目のまえに迫る社会への荒波に備えるべく、知識と判断力・洞察力、コミュニケーション力などを身に着けて卒業し、それぞれの新たな人生の進路に進みます。 
 グローバルやダイバーシティ、そしてインクルージョンという言葉が世にあふれて久しいですが、本当の意味でのダイバーシティを、ここサイプレス・カレッジにてつくづく実感した1日でした。 

岩井英津子(いわいえつこ)
国際教育アドバイザー。アメリカロサンゼルス在住40余年。商社の女性駐在員として渡米。退社後、永住権取得。補習校の教員として小学校中学校の指導歴20年、学校管理職10年および専務理事として補習校経営10年、在外子女教育に従事。今夏よりJOESの国際広報を担当。