2024年9月10日
トピックス(その他)

「幸せに生きるためには」

 経済アナリストで獨協大学教授でもある森永卓郎さんは、小学生時代にアメリカ・ボストン、オーストリア・ウィーン、スイス・ジュネーブで暮らしたことのある元帰国子女。アイデンティティに悩むことの多い帰国生・海外生に向けて、「幸せに生きるためには」というテーマで語っていただきました。

 

大都市とカネを捨てる

 森永さんは子どもが成人したのを機に、お金を稼ぐためだけの仕事を辞めて、東京から埼玉県所沢市に移り住んだ。嫌な仕事に対するストレスがなくなった分、収入は半分に減少したが、近所の畑で穀類や野菜を育てたりして、食物はほぼ自給自足。生活費も各段に減った。

 

 「お金を稼ごうとすると、楽しくなくなります。幸せに生きるには、自由に生きることです。楽しいことをすれば、それは生きがいになります。お金で幸せは買えませんからね。勇気をもって、大都市とカネを捨ててみることです。収入が減った分は生活コストを下げればいいのです」
 

辛い経験は、その後のバネに

 森永さんは幼少期、海外で過ごした頃について「二度と戻りたくない」とふり返る。当時は1970年代。欧米での「日本人」はマイナーな存在で、特にアメリカでは「Remember Pearl Harbor」と声高に叫ばれてもいた時代。日本からやって来た森永少年はひどい差別にあった。そして、帰国しても当時の日本では「帰国子女」はまだ珍しく、「ガイジン」呼ばわりされることも珍しくなかった。

 

「海外での生活は、『24時間イジメ』でしたよ。日本人はものすごく下に見られていたような感じでしたね。たとえば、鬼ごっこをすると、僕だけ鬼にならないんですよ。つまり、元々人間ではないということです。帰国してからも、日本の環境になじめず、苦労しました。ただ、今思えば、あの頃の辛かった経験は、その後の生きるバネになっていると思いますね」
 

同時に無数のチャレンジを、夢ではなくタスクを持つ


森永さんは自身の経験も踏まえ、アイデンティティに悩む子どもたちに向けて「とりあえず無数のチャレンジをしてほしい」と言う。

 

「アイデンティティに対する悩みは、無数のチャレンジをしているうちに、おのずと解決していくもの。大切なのは、同時にいろんなことをすること。そうすれば、楽しいことだけが残り、続けていける。そのなかに『自分』が見つかります。ただ、『いつか叶うといいな』では、いつまでもたっても実現しない。持つべきものは、夢ではなく『タスク』です」
 

自由に生きるために必要な第1ステップは「教養」


 森永さんは、経済アナリストとして知られているが、大学教授でも博物館の館長でもある。博物館は「ビンボーでおバカだけど、ビューティフルな博物館」をもじって「B宝館」と名づけられ、自身が子どもの頃から収集してきたミニカーや食品パッケージなど、約12万点にもおよぶコレクションが展示されている。

 そして、歌手、落語家、寓話作家でもあり、もうすぐ絵本を出版予定だ。どれもやらされているのではなく、自分で創造し、楽しみながら取り組んでいるのがよくわかる。

 

「自由に生きるために必要な第一のステップは『教養』。第2のステップは『大都市を捨てること』。教養がないと、既存のエンターテインメントに依存して楽しもうとしてしまいます。それは、本当に『自由』に生きるのとは違いますよね」

森永さんのコレクションいっぱいのB宝館

「いくらでもお金をあげると言われたら、何に使いますか?」

 こちらからの唐突な質問に、しばらく考えるかと思いきや、少年のような眼差しですぐに返事が戻ってきた。
「スペースシャトルを買って庭におきたいですね、そうしたら楽しいでしょ? でも、スぺ―スがないからあきらめるけど。僕は、一億円だって百億円だって、一日で使えるよ」
 
まったく澱むことなく、滑舌よく話してくださった森永さん。ご自身の教養の上に築かれた「自由」を満喫されているのを感じました。これからの「チャレンジ」が楽しみです。

東京国際フォーラムでのラジオ番組イベントでの歌手活動(2023年6月)

森永卓郎 オフィシャルサイト (morinaga-takuro.com)