多様性あふれる環境で、主体的な学びを実現
国際バカロレア(IB)を実施する全寮制の公立中高一貫校
広島県安芸津港もしくは竹原港からフェリーで30分ほど。瀬戸内海に浮かぶ大崎上島に位置する広島県立広島叡智学園中学校・高等学校は、2019年に開校した全寮制の公立中高一貫校だ。
国際バカロレア(International Baccalaureate、略称IB)は、世界で通用する大学入学資格を与え、大学進学へのルートを確保することを目的に設置された国際的な教育プログラム。広島県立広島叡智学園中学校・高等学校では、中学校1年生から高校1年生冬までの期間に国際バカロレア(IB)のMYP(中等教育プログラム)を、高校1年生の冬から高校3年生までの期間にDP(ディプロマプログラム)を履修できる。
「国際バカロレア(IB)プログラムをはじめ、中高6年間を通して生徒が自由度高く主体的に学んでいけるカリキュラムは本校の強みです」 そう語るのは、同校で理科の教諭を務める徳田敬先生だ。
「広島叡智学園中学校・高等学校では、生徒の主体性を重視した学びのスタイルを提供しています。与えられたものをこなすのではなく、生徒が自分たちで課題を見つけ、自分たちで解決策を模索していく。そんな授業や課外活動が中心ですね。生徒には敷かれたレールを歩むのではなく、自らの意思決定でオリジナルのレールを歩んでいってもらえたらと考えています」
「社会の持続的な平和と発展に向け、世界中のどこにおいても地域や世界の『よりよい未来』を創造できるリーダーを育成する」をビジョンとして掲げる同校では、生徒のリーダーシップ育成にも力を入れているという。
「生徒主体のカリキュラムだからこそ、それぞれがリーダーシップを発揮できる場面が至るところにあるんです。これは特定の生徒に限った話ではありません。授業での学習だけでなく、寮生活、外部プロジェクトなどいろいろな経験を通して特性を伸ばしつつ、自身の特性に合ったリーダーシップを発揮している生徒が多い印象です」
主体性を土台に、国際バカロレア(IB)の3つのコア活動が促す成長
大崎上島の豊かな自然環境を活かしたフィールドワークや地域と連携した放課後活動も、生徒たちにとっては貴重な学びの場だ。
広島叡智学園中学校では、総合的な学習として、生徒たちが自ら課題を設定し解決にチャレンジする「未来創造科(Global-Project Based Learning)」を導入している。なかには、フィールドワークを通して、大崎上島の地域課題の発見、解決を目指すプロジェクトもある。自ら課題を見つけ解決していく経験は、高校進学以降も重要となる自主的な学習姿勢や思考力に繋がるという。
例えば、高校1年生の冬から履修する国際バカロレア(IB)のDP(ディプロマプログラム)には、プログラムモデルのコアとなる3つの活動がある。
■Extended Essay(課題論文)
数学、生物、歴史といった6科目から1科目を選び、関心のあるテーマにまつわる研究論文を英語4,000ワード(日本語の場合は 8,000字)程度で書き上げるというもの。生徒は自分が選んだ科目の先生から助言を受けながら論文を書き進め、高校3年次に完成原稿を提出する。
■CAS(創造性・活動・奉仕)
CASは、Creativity、Action、Serviceの略。創造的思考をともなう芸術活動のような「創造性」(creativity)や、健康的なライフスタイルの実践を促すような身体的活動としての「活動」(action)、無報酬で自発的な交流活動をおこなう「奉仕」(service)に取り組む。
■TOK(知の理論)
TOKは、Theory of knowledgeの略。具体的な知識について学習するのではなく、知るプロセスを探究する。私たちが知っていると主張することをどのように知るのかという「知るための方法」の考察や「知識に関する情報」の分析を行う。
上記3つのコアのうち「TOK(知の理論)」を除く「Extended Essay(課題論文)」とCAS(創造性・活動・奉仕)は授業のカリキュラムとしては組まれておらず、その活動は生徒の自主性に委ねられている。生徒たちは、6科目の通常授業と並行してこれらの活動を自ら進めていく必要があるのだ。
「国際バカロレア(IB)は、生徒たちにしてみれば大きな負担のかかるカリキュラムでもあるのです。そのため、生徒たちは自分の時間をどう使うのかというタイムマネジメント力、こなすべきタスクに優先順位をつけて進めていくセルフマネジメント力を身につけていきます。受け身で何かを与えられることなく、否が応でも自ら動くことが求められる環境は、ある意味で酷かもしれません。それでも、ときに壁にぶつかり、乗り越えることを繰り返しながら成長する生徒たちの姿を何人も見てきました」
帰国生も留学生も“特別”じゃない。それぞれの文化と価値観を尊重しあう学習環境
広島叡智学園は中高一貫校だが、高等学校では留学生と帰国生の受け入れも盛んだ。中学校が1学年当たり40人であるのに対し、高校からの留学生と帰国生を合わせた受け入れ人数は1学年当たり最大20人とその比率はかなり大きい。
「現在本校にいる留学生や帰国生を見ても、バックグラウンドはさまざまです。アメリカ、中国、フィリピン、イタリア、スウェーデンにガーナ……。そのほかにも、さまざまな国で過ごしてきた生徒がいます。多様なバックグランドを持つ生徒とともに学び、ともに生活できるのも本校の特色です」
また全寮制の同校では、中学生、高校生ごとに、異なる学年や国籍の生徒10人ほどで1ユニットを組み、寮生活を送っている。寮はメゾネットタイプで、自分ひとりの個室となるケースもあれば相部屋となるケースもあるという。
「学年や国籍を問わず、同じユニットの生徒同士で勉強を教え合ったり、テスト終わりにちょっとしたお菓子パーティを開催したりといったコミュニケーションが生まれていると聞いています」
さまざまなバックグラウンドを持つ生徒が通っていることから、それぞれが異なる文化や価値観を認め合う雰囲気が自然と醸成されているのも魅力。帰国生や留学生だからといって特別扱いされずに受け入れられる土壌がある。
また、広島叡智学園中学校の授業は基本的に日本語だが、高等学校からは、各教科において英語と日本語のクラスが展開される。
「海外の現地校で英語の授業を受けていた帰国生の中には、日本語よりも英語で学習した方がスムーズだという子もいます。本校では、第一言語として英語を選択することもでき、留学生や帰国生がそれまでの学習スタイルを変えずに学び続けられる環境が整っています」
自身の強みや持ち味を存分に発揮してもらえたら
広島叡智学園高等学校の帰国生徒枠入試は、書類選考の第1次選抜と、英語で個人面談と口頭試問を行う第2次選抜で構成されている。書類選考では志望理由書、教科に関するレポートと数学に関するレポートを提出し、通過した場合はその書類をもとにオンラインで面接と口頭試問を受ける。
数学のレポートを課しているのは、数学科目は国や地域によって履修の度合いにかなりの差が出るためだという。加えて、国際バカロレア(IB)でレベルの高い数学が要求されるのも理由のひとつだ。
「ハイレベルな国際バカロレア(IB)は子どもたちにとって負担がかかる一方で、同時に大きなやりがいを感じられるものでもあります。生徒一人一人がここまで自身の学びに価値や手応えを感じながら取り組めるカリキュラムは、なかなかないと思います。その意味では、受け身型の学習ではなく主体的な学習スタイルを好むお子さん向きといえるかもしれません」
最後に、帰国生に期待することを徳田先生に尋ねた。
「特に帰国生だからと線引きすることなく、自身の持ち味を発揮してもらえたらうれしいです。異なる視点や価値観も、ぜひ積極的に発信してみてください。そうして広島叡智学園がより多様な考え方が溢れるコミュニティになっていくといいなと思います」