2023年11月6日

「日本人はもっと海外を視野に入れて生きるべき!」CGKインターナショナルスクール 理事長 甲斐 実さん

神奈川県横浜市でインターナショナルスクールを運営する甲斐 実(かい みのる)さんは、20代の頃、ワーキングホリデーやバックパッカーの旅を通して、アメリカ、カナダ、オーストラリアでの長期滞在を経験した。そこで身につけた「グローバル感覚」や「探究心」を日本の子どもたちに伝えたいという強い思いがあるという。甲斐さんが思い描く理想のグローバル教育について聞いた。

(取材・構成:ミニマル丸茂健一)

 

 ■甲斐さんの現在のお仕事について、教えてください。

 

現在は、神奈川県横浜市で、CGKインターナショナルスクールというインターナショナルスクールを運営し、理事長を務めています。2016年に、「プリスクール」と呼ばれる英語環境の保育施設としてスタートしました。まず、2歳児のクラスを開講して、少しずつクラスを増やし、現在は小学校にあたる初等部もつくり、2歳児から小学4年生までの子どもたちをお預かりしています。今後、2025年に中等部、2028年に高等部を開校する予定です。

■現在のお仕事を始めたきっかけを教えてください。

 

会社を始めたのは、2012年です。起業したのは私ではなくて、ワーキングホリデー制度を利用してオーストラリアに滞在していたときに知り合った友人なんです。私は初期から手伝っていたのですが、次第に本格的に経営に参画するようになり、現在は共同代表という形になっています。

 

起業した当時は、国際交流イベント事業を行っていました。私も共同代表の友人も海外でさまざまな経験をするなかで、「これからの日本人はもっと海外を視野に入れて生きるべきだ」と強く思ったんですね。そこで、まずは海外に興味を持つ機会をつくるべきだと考えて、日本に住む外国人の方と日本人が交流する機会をつくる事業を始めました。

オーストラリア滞在時の甲斐さん。シドニーマラソンを完走!

その後、実際に海外に出るにあたり、語学力(英語力)も重要なので、まず英会話スクールを始めたのですが、やはり社会人になってから劇的に英語力を向上させるのはなかなか難しい。また、実際に海外に出る上で必要なのは、語学力よりもマインドセット(考え方)の部分だったりするんですよね。そこで、英語力とマインドセットを育む最適な形として、幼児期からのプリスクールをやるべきだという思いに至りました。

 

CGKインターナショナルスクールでは、「幸せへの選択肢を世界基準で広げる」というミッションを掲げています。そこに到達する具体的なルートやノウハウを教えるのではなく、幸せを獲得するためのスキルやマインドセットを身につけてほしいと思っています。

CGKインターナショナルスクールのプリスクール 

■お仕事をするうえで原動力となっているものはありますか?

 

3つあると思っています。

1つ目は、CGKインターナショナルスクールの教育を通して、叶えたい夢があるからです。「理想の教育」をより多くの人々に届けたいという強い思いがあります。

 

2つ目は、うちのスクールのコミュニティに所属する子どもたち、保護者の皆さん、教職員を大切にしたいという思いがあります。全員がファミリーだと思っていますので、その責任感が原動力となっているのは間違いありません。

 

3つ目は、スクールに所属する先生たちの魅力を外部にしっかり伝えたいという使命感ですね。本校は、先生の採用に本当に力を入れています。スキル的にも人格的にもすばらしい先生が集まっているおかげで、質の高い教育が実現されています。この点を発信するのが理事長である私の重要な仕事だと思っています。

スクールでは教員の採用に強くこだわっている

■甲斐さんにとっての「理想の教育」とはどのようなものなのでしょう?

 

インターナショナルスクールに通うメリットは、英語力が身につくことだけではありません。むしろ、国際的な優れたカリキュラムで学べる点が大きいと思っています。日本の教育は、結局いまもみんなで同じ内容を学んで、同じテストを受けて……という状況が続いています。そこでうちのスクールでは、テストの点数より、概念理解という部分を大切にしています。

 

目指すのはいわゆる「課題解決型」の学習です。人間は、習得した知識を応用するときに、その概念の理解を深めることができます。つまり、実社会の課題と向き合い、それを解決するために学んだ知識を役立てるときに、学習の本当の意味を知るのです。概念を理解し、応用する技術を身につければ、世界中どこでも活躍できます。プリスクールと初等部で導入している国際バカロレア プライマリー・イヤーズ・プログラム(IB PYP)は、理想に近いものではないでしょうか。子どもたちの自主性・主体性を伸ばしながら、社会に出て本当に役立つ表現力、思考力、探究心などを鍛えられるカリキュラムだと思います。 

子どもたちの自主性を伸ばす教育に注力している

■甲斐さんは、若い頃に海外のさまざまな国で滞在された経験があるそうですが、その当時の印象的なエピソードはありますか?

 

20代の頃に、ワーキングホリデー制度を利用して、オーストラリアに7カ月、カナダに3カ月滞在しました。その流れで、アメリカでも3カ月間、バックパッカーの旅をしていました。合わせて、1年強ほど、海外を放浪していた計算になります。

オーストラリア・アデレードでのファームステイの様子

その頃は、各都市のバックパッカー向けの安宿に泊まっていました。8人とか10人用のドミトリーがあるような宿です。そこで50カ国以上の人々とさまざまな話をして、多様な文化・価値観に触れた経験は、本当に貴重だったと思っています。「英語」という私にとっても彼らにとっても母国語でない言語を介して、世界中の人々とコミュニケーションできたという成功体験は、今のスクール運営の基盤になっていると言っても過言ではないと思います。

 

この時期の忘れられないエピソードがあります。オーストラリア・アデレードでファームステイをしていた際、私と同年代のオランダ人2人とドイツ人2人と私の計5人で共同生活をしていました。このオランダ人カップルはベジタリアンでした。動物愛護という意識が強く、日本のイルカ漁の映像を扱ったドキュメンタリー動画を私に見せ、涙ながらに「どうしてこんなにひどいことをできるのか」「この映画を見て自分はベジタリアンになったんだ」と語っていたのを今でもよく覚えています。 この映画での描き方の是非や事実関係の確認はともかく、この映画を見ていなければ、ベジタリアンになっていなかったかもしれないこのオランダ人のことを考えると、人の生き方や価値観を形成していく上で、どういった人や出来事に出くわし、そこからいかに自分が学び、考えるのかというのが大きいと感じました。

 

日本で暮らしていれば、一生知ることがなかったかもしれない事実や考えも、海外に出て、いろいろな環境や人に接することで得られる貴重なものが非常に多いですので、海外で暮らすことはやはりとても大事なことだと思います。

アメリカでは、MLBニューヨークメッツの試合を観戦

■英語力以外に海外経験で得たものはありますか?

 

やはり日本ではできないさまざまな経験を通して、視野は広がりましたよね。月並みですが、日本の常識が世界の常識ではないことを海外に出たことによって肌で感じることができました。

 

ほかにも、欧米の同世代の若者と話すなかで、クリティカルシンキング、つまり「批判的思考力」が鍛えられた気がします。彼らからの「どうして?」「なぜ?」という質問と向き合うなかで、自分自身も常識を疑うことを意識するようになりました。

 

例として、我々日本人は、友人と「政治」というトピックに関しては話し合うことはあまりありません。日頃、政治に対する不満があったとしても、その先の「じゃあどうあるべきか」「自分がどう発言し、どう行動すれば良いか」というところまでは意識が深まりません。しかし、海外の同世代の若者と話す中で、政治に限らずあらゆるトピックに関して、自分なりの意見を持っている人が非常に多かったです。それは、普段からクリティカルシンキングをもって、物事に向き合っているからなんだなと感じました。

 

さまざまなトピックや日本に関して話す機会が増え、自分がいかにグローバルな視点で考えられていないかということ、そして日本のことすらよく知らないということに気付き、クリティカルシンキングというものを意識するきっかけとなりました。

 

あとは「探究心」ですね。海外経験を通じて、何か新しいことを知る・経験するというのが、すごく楽しいということを学びました。国際バカロレア(IB)には、「生涯学習者」という考え方があって、そこでも「探究心」が重視されています。 こうした海外で学んだ経験を今のスクールでも伝えていきたいと思いますね。

 

■インターナショナルスクールを運営する上で、将来の目標や夢はありますか?

 

先ほどお話しした「理想の教育」を実現する「場」をつくりたい。具体的には、自前の校舎を建設して、プリスクールから高等部までの一貫校をつくりたいという目標があります。

もっと大きな視点で言うと、教育で実現できるものには大きな可能性があると思っています。極端な例かもしれませんが、いま世界中で起きている戦争や紛争を解決する方法は、教育の中にある可能性が大きいと思っています。戦略的互恵関係とかではなくて、一人ひとりの倫理観や道徳心を育むことで、本当の解決への道が見えてくるのではないかと思います。

一方、身近な目標としては、グローバルな考え方ができる人をひとりでも多く増やすことです。グローバルな考え方は、海外だけでなく、日本国内でも十分身につけることができます。自分とは違う環境にいる人のことを思いやったり、相手の立場に立って物事を考えられたりできるだけで十分です。それに加えて、常識を疑うクリティカルシンキングを身につけられれば、世界で自分らしく、生き生きと生きていけるでしょう。そんな子どもたちをいまのスクールからたくさん輩出していきたいです。

 

■海外子女・帰国子女にメッセージを。

 

ぜひ伝えたいのは、「海外に住む経験は誰にでも得られることではない」ということです。海外に住んでいる皆さんは、帰国後、生活や価値観のギャップに苦しむかもしれない。でもその違いをネガティブなものとして捉えてほしくないんです。

日本のほうがいいこと、海外のほうが優れていること、いろいろあると思います。その両方を経験することで、日本のよさや課題が見えてくるのです。それをポジティブに捉えて、成長につなげてほしいと思います。

そして、海外に長年住むような経験をさせてくれた親にぜひ感謝してください。それは大人にならないとわからないことだと思いますが、子ども時代に海外で苦労した経験も含めて、将来生きていくうえでの大きな財産になると思います。

 

【プロフィール】 

株式会社CosmoBridge

CGKインターナショナルスクール 理事長

甲斐 実さん

CGKインターナショナルスクール(横浜)の理事長。プリスクール、アフタースクール、初等部の開校に続き、2025年に中等部、2028年に高等部も開校予定。インターナショナルスクールをゼロから起ち上げた経験をもとに、プリスクール経営コンサルも行う。オーストラリア、カナダ、アメリカでの居住経験あり。

https://cgkis.com/ja/

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