「みんなが自由に表現できる世界をつくりたい!」Belonging Beyond Borders創設者・代表 小池夏子さん
2025年9月9日

「みんなが自由に表現できる世界をつくりたい!」Belonging Beyond Borders創設者・代表 小池夏子さん

生後2カ月の頃からフィリピンで育ち、中学2年間を日本で暮らした経験を持つ小池夏子(こいけなつこ)さん。現在は、インターナショナルスクール・マニラに通いながら、サードカルチャーキッズやグローバルユースに向けたコミュニティ「Belonging Beyond Borders(BBB)」の代表を務め、多文化な環境で育った自身と同じ境遇や悩みを持つ若者たちをつなぐ活動に力を注いでいる。BBBを立ち上げたきっかけや活動への思いを聞いた。 

(取材・構成:ミニマル武藤美稀)

ーー小池さんのこれまでの海外経験について教えてください。  

 

父の仕事の関係で、生後2カ月の頃から家族とフィリピンで暮らしています。幼稚園は現地のインターナショナルスクールに通っていましたが、「日本人としてのアイデンティティを持って育ってほしい」という両親の思いから、小学校1年生から6年生の前期までは日本人学校に在籍しました。クラスメイトも先生も日本人という環境が居心地よく、とても楽しい学校生活を送りました。

 

私は、小さい頃から将来について具体的なビジョンを持ってきました。日本人学校を卒業したら現地のインターナショナルスクールに進学し、そこからアメリカの大学へ――。そのため、6年生の前期まで日本人学校に通い、その後飛び級して、インターナショナルスクールの7年生(日本の中学1年生に相当)に編入しました。しかし、コロナ禍の影響で、8年生の途中から授業が全てオンラインになってしまったんです。そこで家族で話し合い、「学校に行けないなら、日本の学校に通ってみよう」という結論に至り、東京学芸大学附属国際中等教育学校に編入しました。

クラスのみんなが開いてくれた、日本の学校でのお別れ会
クラスのみんなが開いてくれた、日本の学校でのお別れ会

 

 ーー「Belonging Beyond Borders」をスタートさせたきっかけは何ですか?  

 

10年以上暮らしたフィリピンを離れ、日本に移り住んだ当初は、慣れない環境にとても苦しみました。コロナ禍で自由に行動できなかったこともあり、「自分には海外の生活のほうが合っている」「フィリピンに戻りたい」と何度も思っていました。フィリピンでは飛び級していたため、日本では再び中学2年生の授業を受けることになり、学校生活も退屈に感じていたのかもしれません。

 

自分のアイデンティティについて考えるなかで、異文化の間で育つ「サードカルチャーキッズ」として、どこにも完全に属していないという感覚を経験したんです。日本人でありながら日本に住んだ経験が少なく、フィリピンで育ちながらも、自分をフィリピン人だとは思ったことがない。

 

そんな私の心の支えになってくれたのが、日本の学校で出会った友人のひとりでした。生まれ育った国は違っても、彼女も幼少期から海外で暮らしており、同じような悩みや辛さを共有できる仲間。フィリピンに戻った後も連絡を取り合い、「オンライン上でもつながっていられる存在がいるっていいよね」と話すうちに、さまざまな人にとってのそういった環境をつくりたいと思い始めたんです。サードカルチャーキッズだけでなく、考え方や外見の違いから、周囲に上手く馴染めなくて、自分の居場所を探している人にとっても安心できる場所――。そうした願いから、複雑なアイデンティティを持つ若者たちが、自分の考えや気持ち、アイデアを自由に表現できるコミュニティ「Belonging Beyond Borders(BBB)」を立ち上げました。

BBBの活動の様子
BBBの活動の様子

 

 ーーBBBのメンバーや普段の活動内容について教えてください。  

 

BBBの活動は2024年夏にスタートしました。最初は4人ほどの小さなグループでしたが、現在では約200人のメンバーが参加し、そのうち30人ほどがアクティブメンバーとして活動中です。ヨーロッパやブラジルをはじめ、15カ国に住む多様なメンバーが揃い、日常的にInstagramのメッセージ機能を使って連絡を取り合っています。

興味を持ってくれた方は、BBBの公式アカウントにメッセージを送ってもらえれば誰でも参加できます。  

 

Instagram:belonging.beyond.borders  

 

活動内容は、月に一度のパネルディスカッション、メンターシップ・プログラム、ポッドキャスト配信、ソーシャルメディアの運営、ブログの執筆など。ゲストスピーカーイベントも開催し、オックスフォード大学の卒業生を招いて「第三文化の幼少期の経験を、学問やキャリアにどう活かすか」について講演していただいたこともあります。これらの活動を通して、異なる国や文化の間で育った若者たちが、自分のアイデンティティや居場所について話し合える環境づくりに力を入れています。 

 

活動の中で、私が一番大切にしていることは、「人と人をつなげること」です。

以前、フィリピンからオランダに移り住んだという男の子から、慣れない環境に不安を抱えているという相談を受けたことがありました。そこで、BBBの信頼できるメンバーをメンターとして紹介したところ、打ち解けられたようで、「すごく助かった!」とのメッセージが届きました。自分のやってきたことが誰かの助けになったのを実感して、とてもうれしかったです。  

月に一度のパネルディスカッション
月に一度のパネルディスカッション

 

ーーこれまでのBBBの活動の中で、印象に残っている出来事はありますか?  

 

BBBの創設者である友人とふたりで、定期的にポッドキャストの配信をしています。トピックは、ソーシャルメディアや若者が抱える悩みや不安など、私たちが興味を持っていることについて。たとえば、自分だけ新しい情報や機会を逃すことへの恐怖を意味する「FOMO(Fear of Missing Out)」をトピックにしたエピソードでは、それに対する私たちの考えや解決方法について議論しました。 

 

印象に残っているのは、日本でいう道徳の授業のような、自分自身の感情や他人との関わり方について学ぶ「SEL(Social Emotional Learning)」をトピックにしたエピソード。反響が多くあり、はじめて私たちのポッドキャストを聴いたという子から、「自分もBBBに入りたい」というメッセージをもらったときはすごくうれしかったです。その後、彼はアクティブメンバーとして、ブログの執筆など積極的に活動に参加してくれました。

https://open.spotify.com/show/39R6jXz8BjpbLbRvjGIbPY?si=y31RwlTvSGGYl1GGIdpObA&fbclid=PAZXh0bgNhZW0CMTEAAaeTNKUc_YEU6XVQ1sevqw9tcwZ_pRzscUY7M94ijDUhSDyROKtiDxD9bzxbRg_aem_vFss5Tqr6UsLctIYpu4vyA&nd=1&dlsi=9700aebe46db4d4b
画像をクリックすると、Podcastが聴けます

 

♪BBBのイントロもご覧いただけます!

 

ーーBBBとしてのこれからの目標について教えてください。  

 

活動のひとつとして、メンバーがそれぞれのバックグラウンドやBBBが自分にとってどのように大切なのかを綴ったブログをアップしています。Webサイトだけではなかなか読んでもらえないこともあり、今年はこれらのブログの記事をまとめた1冊の本をつくり、これまでの記録を形として残したいと思っています。

 

多様な背景を持つメンバーたちの強みを活かし、「誰かの力になれる場」をつくることを実現するために、メンターシップ・プログラムにも力を入れていきます。IBを受講している、英語以外の言語を話せる、帰国子女ならではの悩みを理解できる、英会話の相手としてぴったりなど、それぞれに適切なメンターと出会える場所をつくっていきたいです。

 

さらに今年は、慶應義塾大学SFC(総合政策学部・環境情報学部)の先輩方が立ち上げた教育団体と協力し、公立小学校での出前授業も計画しています。授業では、海外子女・帰国子女や文化的に多様な背景を持つ子どもたちが直面する課題について教えることをめざしています。 

 

 

ーー小池さんご自身の今後の目標について教えてください。 

 

インターナショナルスクール・マニラを卒業後は、アメリカの大学でコミュニケーションを専攻し、メディアや教育がどのように人々の思考や文化形成に影響を与えるかを研究したいと考えています。

将来はメディア関係の仕事に就き、人々が自分らしさや文化、大切な何かをありのままに表現できる世界をつくっていきたいです。私にとってBBBの活動は、目標に近づくための第一歩だと思っています!   

水泳の大会で遠征したとき
学校の友人たちと

ーー最後に、海外子女や帰国子女、BBBの活動に興味を持たれている方にメッセージをお願いします。  

 

みなさんには、誰に何を言われようが、自分らしくいることを忘れないでほしいと思っています。 私たちと同じような境遇の中で悩みや不安を抱えている方や、自由に自分自身を表現できる場所を探している方は、BBBの公式Instagramをチェックして、ぜひメッセージを送ってください!   

 

【プロフィール】 
小池夏子(こいけなつこ)さん
Belonging Beyond Borders 創設者・代表 
 インターナショナルスクール・マニラ12年生。生後2カ月の頃からフィリピンで育つ。小学校1年生から6年生前期まではマニラ日本人学校で日本の教育を受ける。小学校6年生後期からはインターナショナルスクール・マニラに通うが、中学校2年生から中学校3年生前期までは東京学芸大学附属国際中等教育学校に通うために日本で過ごす。その後フィリピンに戻り、現在はインターナショナルスクール・マニラでIB(国際バカロレアプログラム)の教育を受ける。