帰国生も注目!日本の大学の8割以上が導入する「総合型選抜」とは?
2024年7月22日
特集

帰国生も注目!日本の大学の8割以上が導入する「総合型選抜」とは?

日本の大学で、「総合型選抜」の導入が進んでいます。これは、小論文や面接で合否を決めるいわゆる「推薦入試」のこと。今や日本の大学の8割が「総合型選抜」を導入し、約5割が「総合型選抜」をはじめとする年内入試で入学する時代です。帰国生は、各大学の「帰国生入試」を視野に入れがちですが、志望大学・学部に帰国生枠がない場合、出願条件を満たさない場合などは、「総合型選抜」を目指す選択肢もあります。なぜなら、英語力や海外の経験を評価する「総合型選抜」が増えているからです。「総合型選抜」の傾向と対策について、大学受験の専門家を取材しました。

(取材・執筆:ミニマル丸茂健一)

 

今や併願可能な「総合型選抜」もある

「総合型選抜」を導入する日本国内の大学が増えています。これは、詳細な書類審査と時間をかけた丁寧な面接などを組み合わせることによって、入学志願者の能力・適性、学習に対する意欲、目的意識等を総合的に評価・判定する入試方法のことを指します。これまでAO(アドミッションズ・オフィス)入試と呼ばれていた選抜方式のことで、今や大学全体の85.6%、私立大学では、93.4%が年内に合否が出る総合型選抜を導入しています(※)。 

総合型選抜 導入

「少子化による18歳人口の減少や大学数の増加などにより、えり好みしなければ、理論上、希望者全員が大学に入学できる『大学全入時代』が到来しています。2023(令和5)年度は、私立大学で320校(53.3%)、私立短期大学で254校(88.1%)と実に半数以上が定員割れとなっています。少子化の進行で、今後さらに18歳人口が減少していくため、各大学では少しでも多くの入学者を確保するためにさまざまな策を講じています。その代表例が『年内入試』のひとつである総合型選抜です。今や私立大学の5割以上の入学者が年内入試を利用しています。ひと昔前までは、年内に合否が決まる推薦入試は、専願が基本でしたが、今では併願可能な総合型選抜もあります。帰国生の皆さんにとっては、定員の少ない帰国生入試を受ける前の保険の役割も果たすのではないでしょうか」 

 

そう語るのは、大学進学情報誌『SINRO!』編集長の河村卓朗さん(株式会社進路企画)。20年以上、大学入試の現場を見てきた河村さんから見ると、ここ2~3年の間で一気に年内入試を利用する受験生の割合が増えた印象があるといいます。河村さんの指摘で注目すべきなのは、総合型選抜が定員の少ない「帰国生入試」を代替できる可能性があること。帰国生入試は、通常、定員が「若干名」とあり、実際は3~4名というのが実状です。そこで、帰国生入試に代わり、総合型選抜を受験する帰国生が増加傾向にあるといいます。

帰国生入試に代わり、総合型選抜を受験する帰国生 増加傾向

「総合型選抜では、英検やTOEFL、IELTSといった英語外部試験のスコアが総じて高く評価されます。また、海外で他の学生とは異なる経験をして、多様な価値観を身につけた経験も大きなアピール要素になるでしょう。総合型選抜は、面接や小論文で自分の興味・関心や意欲を伝える選抜形式のため、海外で自分の意見を言語化する訓練をしてきた帰国生の皆さんには、かなり有利だと思います。実際、グローバル系大学では、総合型選抜と帰国生入試で科される試験や課題がほとんど同じというケースもあるようです」(河村さん)

 

河村さんが運営する進学情報サイトはこちら>> 

進路企画「進路の広場」 

 

国公立大学でも導入が進む「総合型選抜」

総合型選抜を検討する際に、頭に入れておきたいのが、近年は私立大学だけでなく、国公立大学でも導入が進んでいること。理工系学部では、推薦入試ながら大学入学共通テストのスコアが求められるケースもありますが、基本的には、高校の成績などによる基礎学力の証明と小論文、面接などで合否が決まります。

 

国公立のグローバル系大学の代表格の1つ、秋田県にある公立大学法人国際教養大学でも「総合選抜型入試」を導入しています。出願条件は以下の3つの要件のうち、1つを満たしていること。  

 

英検準1級相当の英語資格を持っている 

高校在学中に1年程度留学し、30単位程度認められている

国際バカロレアのDiploma Programを修了し、最終試験6科目に合格している 

 

国際教養大学には、「帰国生入試」枠は存在せず、実質上、この「総合選抜型入試」が帰国生向け入試となっています。出願では、成績証明書、英語資格検定証明書などを提出し、試験では、英語小論文と面接が科されます。もともと帰国生を全国から集めている同大学だけに、4月入学と9月入学の試験が用意されています。 

 

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国際教養大学「総合選抜型入試」 

 

そのほか、東北大学、筑波大学、東京工業大学、九州大学など、多くの有名国公立大学も総合型選抜を導入し、年内の合否判定を行っています。志望大学があれば、直接大学の入試情報サイトを調べてみるといいでしょう。

 

「帰国生入試」と「総合型選抜」の統合が進む私立大学  

「グローバル系の私立大学では、帰国生入試と総合型選抜を統合する動きが出ています。そもそも両者は成績証明と小論文など選抜方式が似ているので、運用面でもメリットが大きいのだと思います。なので、志望大学の学部に『帰国生入試』がなかったといって諦める必要はなく、『総合型選抜』を受験するのが正しい選択です」

トフルゼミナール海外帰国生教育センター

そう語るのは、トフルゼミナール海外帰国生教育センターの林貴之さん。林さんはまさに海外で学ぶ帰国生の日本国内の大学受験のサポートを現場で行っています。トフルゼミナールの資料によると最近、グローバル系私立大学では、通常の4月入学のほか、9月入学の枠も設けて、帰国生を受け入れているといいます。これはもともと留学生向けにつくったコースを受け皿にしているもので、入試は総合型選抜が一般的です。

 

「9月入学ができる大学は、基本的に英語のみで授業を履修できるコースを用意しています。例えば、早稲田大学国際教養学部、上智大学国際教養学部、法政大学グローバル教養学部、明治大学国際日本学部English Trackなどがあります。これらの学部の入試では、海外の現地校やインターナショナルスクールの成績、英語検定試験証明書、英語Essayなどで合否を判定します。また、SAT、IB Diplomaなど、海外の国家統一試験を評価の対象にするケースもあります」(林さん)

 

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帰国生向け入試対策 

英語で授業を行う日本の大学大学 

 

9月入学の総合型選抜は、基本的に海外からの出願が可能で、書類選考のみで合否が決まります。面接がある場合もオンラインで対応するケースが多いようです。また、専願か併願かという問題も気になるところ。ここでも「併願可能な推薦入試の方式が増えている」というのが前出の林さんの見解だ。 

 

「一方で、4月入学の総合型選抜は、基本的に日本の学生と一緒に日本語メインの授業を受けることが前提となります。そのため、日本語での面接や小論文の対策が必要になります。実は、帰国生は、日本語で志望理由書や小論文を書くのが苦手というケースもあり、個別の対策が必要になる可能性もあります。また、面接に関しても同様で、志望理由書に書いた内容を自分の言葉でしっかり語れるかが問われます。日本語の書類を人任せにせず、しっかり自分で仕上げ、その内容を自分の言葉で語る練習も必要になるでしょう」

「帰国生入試」と「総合型選抜」の統合が進む私立大学

最後に総合型選抜を行っている日本国内のグローバル系大学・学部を紹介しましょう。中には、英語のみの授業を履修して、学位を取得できるコースもあります。文系学部がメインになりますが、AI・プログラミング系の学びに興味がある人には、慶應義塾大学総合政策学部・環境情報学部という選択肢もあるでしょう。もともと帰国生が多い学部ということもあり、英語のみで学位を取得できるGIGAプログラムを提供しています。

 

国際基督教大学 教養学部 

英語外部試験利用、理数探究型、IB認定校対象の3つの形式がある。選考方法は書類審査とオンライン面接。帰国生向けのユニヴァーサル・アドミッションズもある。 

 

上智大学Sophia Program for Sustainable Futures(SPSF) 

持続可能な未来を考える6学科連携英語コース。英語で専門科目を学べる。9月入学なので、帰国生やインターナショナルスクール卒業生が主な対象となる。 

 

慶應義塾大学 経済学部 Programme in Economics for Alliances, Research and Leadership(PEARL )

英語の授業のみの履修で学位を取得できる経済学部独自のプログラム。9月入学で、出願は前年の10~11月頃。詳しいスケジュールは下記参照。

 

慶應義塾大学 総合政策学部・環境情報学部 

理系学部では珍しい書類審査と面接のみの総合型選抜を用意。英語のみで授業を履修できるGIGA Programもある。こちらは英語の書類で出願となる。

 

早稲田大学 国際教養学部

総合型選抜にあたる「AO入学試験」は、通常の「4月入学(国内選考)」に加え、帰国生向けの「4月入学(国外選考)」「9月入学」がある。

 

早稲田大学 文化構想学部 Global Studies in Japanese Cultures Program(JCulP) 

文化構想学部独自の「国際日本文化論プログラム」。総合型選抜は、英語能力試験証明書、成績証明書、志望理由書(英文)と面接で合否を決める。

 

明治大学 国際日本学部English Track 

英語の授業のみの履修で学位を取得できる国際日本学部独自のプログラム。英語の書類審査と面接のみで合否を決める。 

※明治大学では、他にも政治経済学部「グローバル型特別入学試験」、法学部「海外就学者特別入学試験」などが用意されています。  

 

立教大学 異文化コミュニケーション学部Dual Language Pathway 

学部の専門科目のほとんどを英語で受講するDual Language Pathway履修向けの選抜。英語試験成績証明書、小論文、面接で合否を決める。 

※立教大学経営学部には従来の帰国生向け入試もあります。  

 

法政大学 グローバル教養学部(GIS) 

欧米型のリベラルアーツ教育を提供。英語能力試験証明書、英語小論文、英語面接で合否を決める。出願は毎年9~10月頃。

 

立命館大学 グローバル教養学部 

オーストラリア国立大学とのダブルディグリープログラムを提供。帰国生やインターナショナルスクール卒業生を対象にした「AO英語基準入学試験」を用意している。

 

立命館アジア太平洋大学 

「総合評価方式・探究型」「総合評価方式・論述型」「活動アピール方式」「帰国生徒(海外就学経験者)選抜」「国際バカロレア(IB)選抜」などさまざまな総合型選抜を用意。 

帰国生も注目!日本の大学の8割以上が導入する「総合型選抜」とは?

 今回は総合型選抜に特化した紹介をしましたが、現在も「帰国生入試」を継続している大学・学部も多数あります。ただし、「帰国生入試」は、「海外で2年以上学んだ経験がある」「帰国して1年以内」といった条件もあります。そこに合致しなかった場合、「総合型選抜」という選択肢があることを頭に入れておくといいでしょう。 

 

最新の入試情報に関しては、必ず志望大学の入試情報サイトで調べるようにしてください。

 

 

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