海外で学んだ経験のある帰国子女にとって、大学進学において「日本か? 海外か?」と悩むのは共通のテーマ。昨今、英語力や国際感覚を生かして海外の大学進学を目指す場合、円安の影響もあり、欧米圏の留学費用の高騰は無視できないものがあります。そこで注目なのが、日本の大学に通いながら、海外の大学の学位も取得できる制度。「ダブル・ディグリー・プログラム」や「パラレル・ディグリー・プログラム」と呼ばれる複数学位を取得できる制度を持つ日本の大学を取材しました。
(取材・執筆:ミニマル丸茂健一)
規定の課程を修了した学生に複数の学位を授与する制度
国内外の複数の大学が、単位互換制度を利用して、規定の課程を修了した学生に複数の学位を授与する制度。それが「ダブル・ディグリー・プログラム」です。日本人学生の場合、この制度を利用すれば、日本の大学に通いながら、海外の大学の学位も取得できることになります。同様の制度に「ジョイントディグリー・プログラム」があり、こちらは日本と海外の大学が、共同の教育課程を編成・実施し、2大学の連名で学位を授与するものになります。
「ダブル・ディグリー・プログラム」は、多くの場合、日本の大学に在籍する4年間のうち、1~2年をパートナーである海外の大学で学び、現地で規定の単位を取得します。メリットは、海外の大学に4年間通うよりも学費がかなり抑えられること。「ダブル・ディグリー・プログラム」だからといって、取得した学位の価値は変わらないので、その後、海外の大学院進学を検討する際にも非常に有利になるのは間違いありません。
では、具体的にどのようなプログラムがあるのか詳しく見ていきましょう。
立命館大学グローバル教養学部×オーストラリア国立大学
デュアル・ディグリー・プログラム
関西圏でグローバル教育に力を入れる大学として知られる立命館大学。こちらのグローバル教養学部は、オーストラリア国立大学のCollege of Asia and the Pacificと提携し、2大学の学位を取得できる「デュアル・ディグリー・プログラム」を提供しています。
「グローバル教養学部に所属する全学生は、このプログラムで学び、立命館大学から『グローバル教養学』、オーストラリア国立大学から『アジア太平洋学』というふたつの学士号取得を目指します」
そう語るのは、立命館大学グローバル教養学部事務室で、学生募集を担当する竹村妹子さん。
グローバル教養学部では、まず1年次にIntroductory Courses(導入科目)を履修します。哲学や歴史学にはじまり、政治学や経済学、社会学、文化研究、国際関係論、さらには情報工学からデザイン学まで、あらゆる学問の基礎を学ぶことができます。これは、欧米のリベラル・アーツ系大学に通じるものがあるでしょう。グローバル教養学部の1学年の定員は100名。授業はすべて英語で行われ、講義形式のレクチャーと学生同士のディスカッションやグループワークを主体とするチュートリアルで構成されています。
立命館大学グローバル教養学部のカリキュラム
2年次は、専門的な科目の履修とオーストラリア国立大学の導入科目の履修が中心になり、2年次後半からの留学に備えます。オーストラリア国立大学の学位を取得するためには、入学後に学力と英語の2つの基準(デュアル・ディグリー・プログラム履修要件)を満たす必要があり、現地留学も必須となります。英語の基準は、TOEFL iBT® トータル・スコア80点以上、もしくはIELTSTMオーバーオール・バンド・スコア 6.5以上が求められます(入試時の条件は別途)。グローバル教養学部の学生は、4月入学の場合は2年次後半から3年次前半の1年間、オーストラリア国立大学のCollege of Asia & the Pacificに留学して、アジア太平洋地域の国際関係、歴史、文化を理解する科目を履修します。
「学部生の6割が留学生、教員の6割が海外出身で、さまざまなバックグラウンドを持つ学生や教員が集まっている点も大きな特色です。グローバル教養学部が設置されている大阪いばらきキャンパス内に、国際寮(OICグローバルハウス)があり、個性豊かなクラスメイトと一緒に暮らしながら、多文化環境の中で日常を送ることができます」
立命館大学グローバル教養学部は、「帰国生徒(外国学校就学経験者)入学試験」を実施しています。2024年度入試では、TOEFT iBT®68/IELTSTM5.5レベルの英語力の証明、高校時代の成績、英文エッセイ、面接選考の総合評価で入学の判断を行いました。カリキュラムの特性上、英語によるアカデミック・ライティングやプレゼンテーションを繰り返すことになるため、入試ではその素養が問われます。
卒業後の進路に関しては、立命館大学キャリアセンターが手厚くサポート。国内外のグローバル企業、国際機関、海外大学院への進学など、学生一人ひとりの希望に合わせて、個別最適型の支援を受けることができます。
オーストラリア国立大学への留学も含む4年間の授業料は、総額約1000万円。これは、オーストラリアの大学に4年間留学するのと比較して、割安といえるでしょう。
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【在学生の声】
グローバルな環境で、気の合う仲間がすぐに見つかった
立命館大学グローバル教養学部 2年
松尾航太郎(まつおこうたろう)さん
私は、アメリカ・カリフォルニア州サンノゼに1歳から11年間在住していました。Grade7(中学1年)まで現地校に在籍し、同時に小学校5~6年次は日本語学校にも通っていました。帰国後は、東京の私立中高一貫校のインターナショナルクラスで学びました。授業は英語中心ですが、日本語の科目も履修していました。
大学進学にあたり、海外の大学も検討しました。しかし、日本と海外の大学の学位を取得できる「ダブル・ディグリー制度」に魅力を感じ、最終的に立命館大学グローバル教養学部(GLA)を選びました。
GLAの授業は基本的に英語で進められます。1年次は入門科目中心で、政治や歴史、宗教、環境学など、幅広い分野を学ぶことができます。高校時代は物理が得意で、理系クラスで学んでいたので、文系科目も楽しんでいます。もちろん物理学など理系科目や美術系の科目もあり、4年間で幅広い学びに触れながら、やりたいことを絞り込むことができます。これは海外のリベラルアーツカレッジと同じような学び方だと思います。
学生は中国、韓国などアジア系の留学生が多く、デュアル・ディグリー・プログラムの提携先であるオーストラリア国立大学の学生もいます。1クラス20名程度の少人数制なので、すぐに友達ができます。また、現在はオンキャンパスの学生寮「OICグローバルハウス」で留学生たちと英語環境で共同生活をしており、まるで海外の大学のような感覚です。 一方で、GLAのある大阪いばらきキャンパスには、政策科学部、経営学部、総合心理学部など他学部の学生も学んでいるので、サークル活動などを通じて、日本人学生とも友達になれます。
2年次後半からのオーストラリア国立大学での留学に向け、これから本格的な準備が始まります。アジア太平洋地域の政治や文化、外交について学べる科目が多いということで、今から楽しみです。卒業後のことはまだ考えていませんが、グローバル系企業への就職か、海外の大学院進学という可能性もあると思っています。
日本の大学を検討している帰国子女の皆さんは、ぜひ自分に合う学びのコミュニティを探して、海外経験を活かせる進学をしてください。
【卒業生の声】
ESG、AI、政治などについて幅広く学び
国際社会のつながりを理解する授業も
立命館大学グローバル教養学部 2024年3月卒業
脇坂純(わきさかじゅん)さん
総合金融系企業勤務 総合職
私は生まれてから小学校3年生まで、中国浙江省寧波の現地校に通い、小学校4~6年は上海にある中国語と英語のバイリンガルスクールで学び、小学校卒業と同時に日本に帰国しました。帰国後は地元の公立中学校に通い、高校では英語をもっと勉強したいという思いで、高校2年次にニュージーランドのオークランドで1年間の交換留学を経験しました。
高校時代のニュージーランド留学を経て、英語を使って勉強したいという思いが強くなり、大学進学は、海外も視野に入れていました。ただ、日本語のレベルも維持したいため、日本の大学とオーストラリアの大学両方で勉強できる立命館大学グローバル教養学部(GLA)を選択しました。GLAはディスカッションベースの少人数形式で、幅広い学問領域を学べるため、自分の興味のある分野を見つけるチャンスになると考えました。
GLAの授業で特に印象に残っているのが、オーストラリア国立大学での留学から帰国後の4年次に受講したGlobal Governance in the Asia Pacificです。このコースではESG(環境・社会・企業統治)やAI(人工知能)、エネルギー、政治、世界の紛争などについて学び、アジア太平洋地域の情勢や国際関係について学習しました。一見、分野がさまざまで、互いにあまり関係性を持たないトピックだと感じますが、実際は緊密につながっており、一つのトピックがもう一つのトピックの要因や誘因になることを学習し、社会の複雑さをより実感できるようになりました。さらに、これらの学習は、日々の出来事やニュースを深く理解することを手助けし、私たちが生活している社会や仕組みについて自ら考え、どのように行動すべきかを主体的に考える絶好の機会となりました。
GLAは日本でもかなり珍しい学部で、日本とオーストラリアという2つの異なる環境で学ぶことができます。多様性の溢れる環境下で勉強し、日々異なるバックグラウンドの人とコミュニケーションを取ることで自分自身の視野を広げ、異なる物事の見方を発見することもできます。英語をツールとして多様性の環境下で成長したい学生にとっては、GLAは数少ない最適な選択肢だと思います。
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パラレル・ディグリー・プログラム