絵本は、ことばや感情、あたらしい世界など、子どもたちにたくさんの「はじめて」を教えてくれる存在です。すぐれた絵本は「知識」だけでなく、子どもたちのことばと心を豊かにしてくれます。絵本選びは、お母さんお父さんにとっては悩み処かもしれませんが、期間限定の楽しい「絵本の旅」です。今回は子どもと一緒に読みたい、「ことば」に焦点を当てたおすすめの絵本をご紹介します。
(取材・執筆:ミニマル武藤美稀)
絵本は特効薬ではない! 大切なのは日々の読み聞かせ
「お子さんの教育のために絵本を読ませたいという方は少なくないでしょう。最近では『これを読めば聞き分けのいい子に育ちます!』などと謳った絵本を多く見かけます。しかし、覚えておいていただきたいのは、絵本は特効薬ではないということ。日々の読み聞かせを通して、お子さんのことばと心は豊かに育まれていくのです。それと同時に、親子で絵本を楽しんだ体験はあたたかな記憶となり、お子さんの『生きる力』となっていきます」
そう語るのは、銀座の老舗書店、教文館の「子どもの本のみせ ナルニア国」スタッフ・国岡晶子さん。今回は、日々お母さんお父さんたちの絵本選びをお手伝いする国岡さんに、子どものことばを育むのにおすすめの絵本をご紹介いただきました。
「まず、絵本選びで注目してほしいのが、本の年齢。書店には毎日たくさんの絵本が入荷します。そのなかで長く残り続けるのは、時代を超えて子どもの心を捉える力がある絵本です。選んでいただきたいのは、そういった生命力のあるもの。いわゆる、ロングセラーの絵本ですね」
子どものファーストブックにおすすめの絵本
最近、子育てのなかで再評価されているのが「わらべうた」。わらべうたは、昔から、親から子へとうたい継がれてきた、いわば日本の子育て文化を支えてきたもの。
「わらべうたには、小さな子どもたちにとって気持ちがいいものがたくさん詰まっています。日本語の美しい響き、ゆったりしたリズム、抑揚のおもしろさ……。たくさんうたってあげることで、親子のコミュニケーションが生まれ、赤ちゃんのことばの土台も築けますよ」
シンプルでゆったりとしたリズムは赤ちゃんにとって一番心地のよい音なんだそうです。わらべうたをたくさん歌ってもらった子どもは、聞く耳が育ちます。
『あがりめ さがりめ』では、手や体を動かしながら、親子が自然とふれあえるわらべうたが登場します。ましませつこが描くあたたかく柔らかな色彩の世界に、きっと赤ちゃんもにっこり笑ってくれるはずです。
『あがりめ さがりめ』を出版しているこぐま社は、いち早くわらべうたを取り入れた絵本をお母さんたちに届けました。どこかで聞いたことがあるような懐かしいわらべうたの数々が収録されています。
わらべうたを聞いて育った赤ちゃんは、読み聞かせが好きな子どもに育ちます。
そこでおすすめなのは、石井桃子訳のディック・ブルーナの絵本。
石井桃子は、戦後の日本児童文学の礎を築いた文学者。当時、海外の優れた作家の絵本や本を翻訳して、日本の子どもたちのもとへ届けました。
彼女が訳した文章は、日本語の美しさ、リズミカルな音などすべてが集約されています。シンプルな絵を、短く端的な文章で表現しているため、ストーリーがテンポよく進んでいきます。
「石井桃子さんが使う日本語の特徴は、わかりやすいけれども幼稚な表現ではないこと。読者が子どもだからといって、ことばのレベルを下げず、しっかりとした日本語を使っているんです。最初は意味を理解するのに時間がかかるかもしれませんが、何度も読み聞かせをするうちに、子どもたちは自分のことばへと変えていきます。小さい頃から上質な日本語を聞かせることは、大切なことのひとつですね」