独自の「言語技術」教育で世界標準の「学ぶ力」を育む
学園創立100周年を機に、「学びをたのしむ人。」を育てる教育へ
大阪府豊中市にある履正社中学校・高等学校は、1922年(大正11年)創立の私立中高一貫校だ。建学の精神は、「履正不畏(りせいふい)」「勤労愛好(きんろうあいこう)」「報本反始(ほうほんはんし)」の3つ。なかでも「履正不畏」は「自ら正しいと信ずることを何ものも畏れず正々堂々と実践する」という意味で、校名「履正社」の由来にもなっている。
学園創立100周年を迎えた2022年、同校は2040年頃の社会を生きる子どもたちを見据え、教育のあり方を見直した。そして新たに掲げたスローガンが、「学びをたのしむ人。」だ。
「単に知識を身につけるだけでなく、自ら問いを立てて考え、他者と対話しながら課題を解決していく力を育みたいと考えています。そうした思いから、学びの内容を抜本的に見直しました。『学びをたのしむ人。』は、生徒だけでなく、私たち教職員全員に課されている言葉でもあります」

そう語るのは、広報企画局 中高入試広報部 部長の漆崎隆太郎先生だ。教職員もまた、研修や新しい取り組みに挑み続け、その姿勢が生徒の「やってみたい」を後押しする校風につながっているという。
五教科に「言語技術」を加えた“主要六教科”
履正社中学校では、中高六年一貫教育の「学藝コース」と外部の難関高校への進学をめざす「3ヵ年独立コース」を設置し、高等学校では「学藝コース」「競技コース」「国際教養コース(2027年4月新設)」の3コースを展開している。
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教育改革の柱の一つとなっているのが、独自の「言語技術教育」だ。履正社中学校・高等学校では「言語技術」を国語・英語・数学・理科・社会に並ぶ「主要六教科」の一つとして位置づけ、「母語である日本語を論理的に扱う技術」を体系的に指導している。
「本校のカリキュラムの大きな特徴は、言語技術を独立した教科として位置づけていることです。言語技術の授業では、文章の論理構造を読み解く力、自分の考えを整理する力、論理的に表現する力、相手に伝わる形で発信する力などを積み上げ式のトレーニングにより養います。本校では、これらの力をあらゆる教科を学ぶ上での土台として、学びをたのしむことにつなげていきます。」(漆崎先生)
中学校から入学する学藝コース(中高一貫教育)では、「言語技術」の授業を週2コマ実施。最近、中高一貫生を対象に行った自己評価アンケートでは、高校1年生の92%が言語技術の授業で育てている力について何らかの成長を実感しているというデータも得られたという。高校から入学する学藝コースも含めて、で培った力を土台として、国公立大学二次試験の論述や、総合型選抜・学校推薦型選抜に必要となる小論文、面接、志望理由書作成などにもつなげていきたいとしている。また、競技コースにおいても、競技理解や戦術分析、チーム内での意思疎通など、競技力向上にも言語技術を活用している。
「言語技術教育で培う論証力や批判的思考力は、大学進学にとどまらず、むしろ大学での学びにおいて、さらには社会に出てから真価を発揮するものだと考えています。本校はこの教育を軸に、これからの時代に自立した思考を表現できる人を育てていきます」(漆崎先生)
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この言語技術教育は、(有)つくば言語技術教育研究所の監修のもとで実施されている。同研究所は、日本における言語技術教育の第一人者として知られ、海外で学ばれているランゲージ・アーツを日本語でおこなう教育へ応用・体系化してきた。所長はもともと帰国生で、親の仕事の都合で高校時代に渡ったドイツで「言葉はある程度わかるのに、議論についていけない」という壁に直面した経験を持つという。また、商社勤務時代に、日本とドイツの商談の通訳を務め、日本人がなぜいつも国際的な交渉になると勝てないのか、課題意識を持ち続けてきた。ある日、その原因が教育にあるのではないかと気づき、海外の国語教育の教科書を徹底的に調べたところ、欧米では幼稚園から高校までを通じて母語による「言語技術(ランゲージアーツ)教育」を一般的に行っているという事実を知り、研究所を立ち上げた——そうした背景がある。
「海外の大学に留学した日本人が最初に苦戦するのは、レポートや論文の“型”です。論理的に読み解き、型に沿って書き、相手に伝わる形で話す技術は、従来の国語の学習だけでは十分に身につけることが難しかった力でもあります。国語ならではの表現の豊かさも大切にしながら、クリティカル・リーディングやアカデミック・ライティングとも呼ばれる世界標準の言語技術を、母語である日本語で身につけてほしいと考えています」(漆崎先生)
同校で「言語技術」を教える教員は国語科の教員に限らない。数学科、社会科、理科、英語科、中には音楽科や体育科の教員も。情報を分析し、構造をとらえて、言葉でわかりやすく表現する能力は、どの教科においても求められる能力だからだ。授業を担当するのは、同研究所での合計56時間におよぶ研修を修了し、認定を受けた教員だけ。彼らがそれぞれの授業に言語技術のエッセンスを取り入れていった結果、ディスカッションやグループワークの機会が増え、「自分の考えを論理的に整理し、自信を持って発信できるようになった」と実感する生徒が明らかに増えているという。

「以前に比べ、生徒が自ら質問したり、自分の考えを発信したりする姿が増えました。言語技術教育を導入したことで、校内の雰囲気がずいぶん明るくなったというのが正直な実感です」(漆崎先生)
2027年4月に「国際教養コース」を新設
2027年4月には、新たに「国際教養コース」が誕生する。こちらは、1カ月または1年の留学(希望選択制)を必須とし、国際的なキャリアを築くための学びを重視したカリキュラムで、海外大学や英語で学ぶ国内の大学への進学を目指すコースだ。
「国際教養コースでは、長期留学前に言語技術のエッセンスを1年間で集中的に学ぶ環境を準備しています。真の英語力とは、自分の考えを英語で表現する力です。海外の学校では英語で授業を受け、議論し、レポートを書くためには、語学力に加えて、学ぶためのスキルである言語技術が必要です。それを母語である日本語で理解・習得してから留学することで、海外での学びを最大化させ、留学先でも主体的に学び続けられる生徒を送り出したい、というのが狙いです」(漆崎先生)
留学制度は、国際教養コースのみのものではない。学藝コースでも在校生が留学する例があり、サポート体制も整っている。国公立大学(理系を含む)への進学も視野に幅広く進路を考えたい生徒には学藝コース、一方で、海外大学や国内のグローバル系大学への進学など、国際的な進路を明確に描く生徒には国際教養コースというように、それぞれの志望に応じた選択ができる。
放課後は20講座以上の専攻ゼミを開講
ネイティブ教員による「グローバル進学ゼミ」も
履正社中学校・高等学校のもう一つの特色が、生徒一人ひとりが主体的に選べる放課後のプログラムだ。まず、火・水・木曜日には、20講座以上の「専攻ゼミ」が開講されている。これらは教員がそれぞれの専門性や強みを生かして企画・開講しているもので、英検をはじめとする資格対策から、医学部進学対策講座、プログラミング、データサイエンスまで、内容は実に多彩。学年をまたいで受講できるため、得意分野をさらに伸ばすことはもちろん、苦手科目や海外在住中に学ぶ機会が限られた科目の補充にも活用されている。
帰国生とその保護者から特に関心が高いのが、「グローバル進学ゼミ」だ。担当するのは、海外大学で学位を取得した教員やネイティブ教員を含む専門スタッフ。日常英会話にとどまらず、アカデミック・ライティングやパブリックスピーキング、IELTS対策まで踏み込んで指導する。海外大学への進学や、英語で学ぶ国内大学への進学、その先のアカデミックな学びまで見据えた内容となっている。

「帰国生の保護者の方からは、『これまで頑張ってきた英語を維持・向上できる環境か』という質問をよくいただきます。通常授業だけでは、英語が得意な生徒には物足りなさがあるかもしれません。ただし、放課後のグルーバル進学ゼミを活用することで、高い英語力を維持・向上させながら、大学進学後にも役立つ実践的な力を身につけることができます。海外大学への進学制度や奨学金についても、経験豊富なスタッフがサポートします」(漆崎先生)
日本史など、海外では学ぶ機会が少なかった科目についても、学年を下げてゼミを受講することでフォローできる。帰国生が抱えやすい学習面の不安にも、放課後の学びが応える仕組みになっている。
教科試験を課さない「言語技術」の適性テストによる帰国生入試
履正社中学校・高等学校では、海外での生活や学びを経験した生徒を、同校の教育活動をともに創る存在として迎えたいという考えから帰国生入試を導入している。言語技術教育や国際交流を進めるなかで、海外で学んできた生徒の経験や視点が、学校全体へ新たな価値観や学びを還元してくれる存在だと捉えている。
入試では、教科の学力を一律に問うのではなく、「言語技術」を用いた適性テストを実施している。教科ごとの学習環境の違いに左右されにくいかたちを採用することで、論理的に物事を分析し、考えて表現する“学びの土台となる力”を評価するためだ。具体的には、日本語で朗読される物語を聞いて原稿用紙に再現する「再話」と呼ばれる課題などが出される。
「学習環境や履歴による有利・不利をできる限り排除し、帰国生が受験しやすく、学校や塾の先生にも安心して勧めていただける入試をめざしました。言語技術(再話)テスト導入初年度は『どう対策すればいいのか』と戸惑う声もありましたが、2年目には言語技術の意義を理解していただき、『帰国生の力を適切に評価できる入試だ』と評価していただけるようになりました」(漆崎先生)
2027年度入試では、海外での実施地拡大を予定している。これまでのタイ・バンコクに加え、マレーシア・クアラルンプールでの実施が決定している。入学時期は4月で、中学・高校とも4月入学を基本としている。
挑戦を応援する学校
履正社中学校・高等学校では、帰国生も一般の生徒と同じクラスで学び、日々の学校生活をともに送る。
「帰国生に、日本の学校文化へ一方的に合わせてほしいとは思っていません。むしろ、海外で培った経験や価値観を生かして、新しい価値観や考え方を学校にもたらしてほしい」(漆崎先生)
卒業後の進路も実に多彩だ。これまでは、関西圏の難関私立大学への進学をめざす生徒が多かったが、近年は難関国公立・医学部進学をめざす生徒も増えている。新設の国際教養コースからは、国内のグローバル系大学をめざす生徒も出てきそうだ。また、近年のグローバル教育の強化によって海外大学への進学視野に入れる生徒も年々増えている。
「進路実績のために教員が受験先を誘導する、という文化は本校にはありません。『なぜその大学・学部なのか』『将来何をやりたいのか』を生徒自身が考えるキャリア教育を大切にしています。その結果として、進路の選択肢が全国、そして海外にも広がってします。」(漆崎先生)
漆崎先生に履正社中学校・高等学校の校風について聞くと「挑戦を応援する学校」と回答してくれた。学習、クラブ活動、学校行事、留学や海外研修など、生徒が何かに挑戦しようとしたときに、それを後押しする文化があるという。一人ひとりの個性や強みを尊重しながら成長を支える環境が、同校の魅力なのだ。最後に、漆崎先生から帰国生とその保護者に向けてメッセージをいただいた。
「帰国後、日本の学校生活や学習環境になじめるか、不安を感じる保護者の方は少なくありません。本校は、帰国生だけを特別な存在として扱うのではなく、一人の履正社生として、ともに学び、ともに成長する学校です。昨年入学した生徒たちは、その環境のなかで生き生きとリーダーシップを発揮しています。海外で培った経験や価値観は、これからの社会で大きな強みになります。本校では、その経験を仲間と共有しながら、自分自身の可能性をさらに広げてほしいと考えています。私たちは、その挑戦を全力で応援します。」
<DATA> 履正社中学校・高等学校 所在地:〒561-0874 大阪府豊中市長興寺南4丁目3番19号 Tel:06-6864-0456(代) URL:https://riseisha.ed.jp/ 交通:大阪メトロ御堂筋線・北大阪急行「緑地公園」駅より西へバス9分または徒歩18分/阪急宝塚線「曽根」駅より東へバス5分または徒歩15分 生徒数:中学校=男子184人、女子132人/高等学校=男子916人、女子582人 教職員数:158人(うち外国人3人) ※2026年6月末時点 帰国生の出願資格:入試情報サイトをご確認ください。 https://riseisha.ed.jp/guidelines/#tab-3







