家族が「自分らしさ」を見つけた4年間のテキサス生活【後編】
2026年8月11日
家族/クロスカルチャー

家族が「自分らしさ」を見つけた4年間のテキサス生活【後編】

日系メーカーに勤務する父・てつおと母・けいこは、長女・めいこ、次女・えいこと共にアメリカ合衆国テキサス州ダラスで2018年6月から2022年3月まで4年間の駐在生活を経験した。コロナ禍を挟んで、世界が大きく変化した時期だった。ふたりの娘は近隣の現地校に通い、地域コミュニティとの交流を通して、日本では得られない多くの経験を重ねた。後編ではコロナ禍での学校生活や子どもたちの帰国後の変化について詳しく聞いた。

アメリカの学校の柔軟な対応に驚いたコロナ禍  

アメリカ生活も1年半ほどが経ち、さらに行動範囲を広げようと思った矢先に突然やってきたのがコロナ禍だった。アメリカでは新型コロナウイルス感染症によって多くの死者が出て、2020年春から夏にかけては、かなりの緊張状態にあった。

 

「コロナ禍になったとき、アメリカの学校のスピーディな対応には驚きました。あっという間にオンライン授業の仕組みができて、子どもたちはタブレットを使って授業を受けるようになりました。宿題も録音や録画をして提出したり、写真を撮って送ったりしていました。先生たちも、子どもたちにタブレットの使い方をきちんと教えていて、子どもたちもすぐに覚えていました。変化への対応力や柔軟性はすごいと思いました」(てつお)

 

一方で、コロナ禍では、タブレットの画面に向かい、家族だけで過ごす時間が続く——。家の中で過ごす時間が増え、遊び盛りの子どもたちにとってはストレスフルな環境だった。それでもテキサス州は、マスク着用など感染対策に対する感覚が比較的緩やかな印象で、知らない国で完全に孤立状態になるような雰囲気ではなかった。振り返れば、コロナ禍の海外生活も家族にとって忘れられない経験になったという。

保護者を招いての中学校のバンドの発表会
保護者を招いての中学校のバンドの発表会

「親が楽しむことが、子どもにも伝わる」

貴重なアメリカ生活において、夫婦は子どもたちのためにどのような選択をすべきかよく考えたという。例えば、ダラスには日本人向けの受験塾もあったが、せっかくアメリカにいるのだから、現地でしかできない経験を優先したいと考えた。そこで、現地校のイベントや地域の活動に参加すること、教会に行って多国籍の人々と交流することを優先したという。

 

「私はアメリカの学校のイベントが楽しかったです。ハロウィーンやクリスマス、バレンタインデーなど、学校全体で楽しむ行事がたくさんありました。パジャマデーやテーマに合わせた服を着る日もあって、日本の学校とは違って面白かったです」(えいこ)

 

「子どもたちには、とにかくいろいろな文化に触れてほしいという思いがありました。だからこそ、現地では親が楽しむことが何より大事だと思っていました。子どもは親の様子をよく見ています。親が不安そうにしていると子どもにも伝わりますし、親が楽しんでいれば、子どもも『ここでの生活は楽しいものなんだ』と感じやすい。そのことはずっと心がけていました」(てつお)

 

「私は現地の人とつながることを心がけていました。日本人同士のつながりももちろん大切ですが、近所の方に声をかけたり、挨拶をしたり、わからないことを聞いたりするようにしていました。近所にはインド系の方が多く、子ども同士が一緒に遊んだり、放課後に交流したりすることもありました。教育に熱心なご家庭が多く、日本人と価値観が近いと感じることも多かったですね」(けいこ)

手作りの仮装で友達とハロウィンを楽しむ
手作りの仮装で友達とハロウィンを楽しむ

隣人には小学校の先生もいて、雪が降ったときには「水道管をタオルで巻いた方がいい」「水を出しっぱなしにしておくといい」といった生活の知恵を教えてくれることもあった。日本人駐在員のコミュニティも心強いが、それだけではなく、現地の人たちと関係を築くことで、生活の幅が格段に広がったという。そして、現地の人的ネットワークに助けられた忘れられないエピソードもあった。

 

「2021年に家賃が高騰し、駐在中に転居しなければならなくなったんです。近所で手頃な物件を散々探したのですが、なかなか見つからない……。やっと学校にも慣れてきたので、子どもを転校させたくなかったので、近所のインド人の方に相談したら、知人で借家を持っている方に「この日本人は信頼できるから」と紹介してくれて、無事部屋を契約することができたのです。近所の方との信頼関係から道が開けたのです。地域コミュニティとつながることの大切さを強く感じましたね」(てつお)

 

自分自身を大切にすることの重要性を学んだ

けいこも「アメリカでしかできないことをなるべくやろう」と考えて、現地で積極的に行動していた。教会のESLクラスに通ったり、コミュニティカレッジでスペイン語を学んだり……特にESLクラスを提供していた教会の活動を通して、さまざまな国の人たちとの出会いがあった。

けいこが通っていたESLの先生と友人との集まり
けいこが通っていたESLの先生と友人との集まり

「特に印象に残っているのは、ウズベキスタン出身の女性との出会いです。その方から、自分自身を大切にすることの重要性を学びました。『キレイにしていることは、自分を大切にしている証。それは、きちんと生きている証でもある』という意味の話を聞いて、ハッとしました。日本にいた頃の私は、母として家族や周囲を優先することが多かったのですが、海外で暮らす中で、自分の価値観や優先順位を見直すきっかけをもらいました」(けいこ)

 

「私は、アメリカで暮らす中で、他人の目を気にしすぎない自由さを感じました。一方で、外国の人たちに日本の文化や日本人の考え方を伝えることの難しさを痛感しました。海外に出ることで、自分が日本人であることを改めて意識する場面も多かったですね」(てつお)

 

楽しかったテキサス州ダラスでの4年弱の日々が過ぎ、家族は2022年3月に日本に帰国した。中学2年生だっためいこは、地元の公立中学校に通い始めた。教科書がなく、すべてデジタル化されていたアメリカと違い、日本では重い紙の教科書を毎日持ち帰る日々……。持ち物にすべて名前を書き、みんなと同じ絵の具や楽器を揃える生活にけいこは最初少し戸惑った。

 

「めいこは、周囲の環境に合わせるのに、過剰に頑張る子だったので、わざと英語を日本人のイントネーションで話したりして、目立たないようにしていたようです。本人は特に不満を言いませんでしたが、親から見ると、海外経験を含めた自分をより出しやすい環境が望ましいのではと感じました。その後、海外子女教育振興財団にも相談し、中学3年次から海外経験を活かせるような中高一貫校に転校しました。地元の公立中学校にもお友達ができたタイミングでしたが、結果的には転校先のグローバルな雰囲気が合っていたようで、今は国内外で進学先の大学を検討しています。」(けいこ)

 

一方で、次女のえいこは、地元の公立小学校に転入し、カルチャーの違いを楽しんでいる。

 

「日本に帰ってきて、日本の給食はおいしいと思いました。友達といろいろな遊びができるのも楽しいです。アメリカでは子どもだけで公園に行くことはできなかったので、放課後に子どもだけで公園で遊べる日本は自由だなと思いました」(えいこ)

 

異文化の壁を乗り越えたこの経験は今後の人生の土台になる

4年間のテキサス生活は、家族にとって単なる「4年間」ではない。車社会、厳しい暑さ、現地校での学び、コロナ禍、地域コミュニティとのつながり……。戸惑いながらも一つひとつ未知の世界と向き合った経験は、家族それぞれの価値観を広げ、帰国後の進路や生き方にもつながっている。特に、子どもたちにとっては、異国の地で友達をつくり、悩みながら異文化の壁を乗り越えたこの経験は、これからの人生の土台になるはずだ。

帰国前に近所の方が開いてくれたお別れパーティー
帰国前に近所の方が開いてくれたお別れパーティー

「4年間のアメリカ生活は、私にとって、家族にとって何が大切なのかを見直す貴重な機会になりました。日本にいると『母だから』『女性だから』『何歳だから』と常識によってがんじがらめになっていた自分に気づいたのです。現地で出会った人々のように、今後の人生においてはもっと自由な選択をしていきたいですね」(けいこ)

 

「私たちは、子どもたちを現地校に通わせる選択をしましたが、受験が近いタイミングであれば、現実問題として学力の維持は大きな課題です。現地に日本語補習校や日本人向けの塾がある場合は、そこと合わせて学びの環境を考えるのがおすすめです。ただし、考え方次第では、日本国内でかなり費用のかかる英語オンリーの環境を子どもに与えることができる現地校という選択肢は、駐在期間ならではのものだと思います」(てつお)  

 

最後に夫妻からこれから駐在生活が始まるファミリーに向けてメッセージをいただいた。

 

「まずは健康に気をつけることが大切だと思います。そのうえで、心配しすぎず、やりたいことにはチャレンジしてみてほしいです。最初は不安なことも多いですが、現地でしかできない経験がたくさんあります。そこは日本ではありません。人との違いを恐れすぎず、自分たちらしさを大切にして、貴重な海外生活を楽しんでほしいと思います」(けいこ)

 

「親が楽しむことが、子どもにもいい影響を与えると思います。子どもにとって海外生活は大きな変化ですが、親が前向きに過ごしていると、子どもも安心できます。海外駐在は大変なこともありますが、家族で経験するからこそ意味があります。永住するわけではないので、住まわせてもらっている、働かせてもらっているという感覚で、生活や文化の違いをできるだけ楽しんでほしいと思います」(てつお)