子どもたちの人間的な成長を支えた4年9カ月のパリ生活【後編】
2024年11月16日
家族/クロスカルチャー

子どもたちの人間的な成長を支えた4年9カ月のパリ生活【後編】

金融系企業に勤務するタカシと妻のマイは、長男ケイタ、次男ユウタと共にフランス・パリで49か月に及ぶ駐在生活を経験した。日仏文化学院パリ日本人学校でスタートした2人の子どもたちの学校生活だったが、家族で話し合った末、中学校から現地のインターナショナルスクールへ通うことに。子どもたちは、海外生活で何を学び、どのような力を身につけたのか。社会人になったケイタ・ユウタからのコメントとともに紹介しよう。(仮名)

(取材・執筆:ミニマル丸茂健一)

 

 

子どもたちは中学からインターナショナルスクールに進学

順調にフランス生活に慣れていった駐在3年目、ケイタの中学進学が近づいてきた。日仏文化学院パリ日本人学校では、中学校までの課程が用意されていたが、ケイタが選択したのは、インターナショナルスクールへの進学。ヨーロッパの国々を旅するなかで、やはり英語ができると強みになることを実感したという。

イタリア・ローマの「真実の口」の前で
イタリア・ローマの「真実の口」の前で

マイもまずは、日本語でしっかり国語、算数、理科、社会の基礎を身につけてから次のステップを考えていた。そのためケイタとユウタには、日本人学校に通っていた小学生時代から国数理社4教科の通信教育を受けさせていたという。インターナショナルスクール進学後、進学後も通信教育は継続。その後、日本の大学受験などを想定し、英語の文法を中心とした通信教育も追加した。おかげで、子どもたちは帰国後、インターナショナルスクールから日本の中学校に戻る際、大きな違和感なく馴染めたという。

 

「ケイタに続いて、ユウタも中学校からインター(ナショナルスクール)に進学しました。日本人学校は中学生までの過程しかなく、駐在生活が長く続いてもなるべく家族で一緒にいられるようにと考えたからです。また、自主性を伸ばすIB(インターナショナルバカロレア)プログラムにも魅力を感じていたので、納得してこの選択をしました。ただ、インター進学は帰国後のリスクを伴います。日本人学校と違い、インターの成績は、日本の公立中学校の内申点として利用できません。なので、英語力の面でアドバンテージはあるものの内申点が不足するので公立高校への進学が厳しくなるのです。これは頭に入れておかないといけません」(マイ)

 

 

パリの日本人コミュニティに大いに助けられた

子どもたちのケア中心のフランス生活だったマイも次第に自分でも楽しみを見つけて行く。「できることはなんでもやろう」と積極的に外に出ることに決め、パンの食べ歩きをしてみたり、料理教室に通ったりもした。また、フランス語教室での成果を活かして、買い物に行く際は、「今日はこれを聞いてみる!」と決めて、フランス語でのコミュニケーションにもチャンレジした。最終的には、アパルトマンの貼り紙もすべて読めるようになり、生活に不自由することはなくなった。

マイはパリでマラソン大会に出場
マイはパリでマラソン大会に出場

「不思議ですけど、不自由だから見えてくるものもあるんですよね。日本だと忙しい日々に追われて気づかなかったことというか……。予定通りバスが来なかったり、24時間営業のコンビニがなかったりすると何でもない日常を大切にできるんです。あとスーパーやレストランで、お客様は神様じゃないことも知りました。フランス人は、『無理なものは無理』とはっきり言います。その代わり、メニューになくてもできるものはつくってくれる(笑)。その辺の感覚は日本人には新鮮でしたね」(マイ)

 

現地の日本人コミュニティにも大いに助けられた。パリ在住の駐在日本人ファミリーは、みな親切で、ウェルカムな雰囲気。パリという都市の規模もあり、住むところもバラバラでいい距離感で信頼関係を築けた。韓国料理教室やフランスの伝統工芸カルトナージュの教室では、日本ではなかなか知り合えない個性的な日本人と知り合う機会も得た。パリでの日本人ネットワークは、今でもマイの財産だという。

 

49カ月のパリ駐在生活を経て、家族が帰国したのは20143月。ケイタは中学3年生、ユウタは中学2年生だった。ふたりは私立の中高一貫校に進学し、大学までアメリカンフットボールに没頭する生活に。子どもたちが高校に進学するタイミングで、タカシに再度イタリア勤務の辞令が下るが、今回は単身赴任することになった。

家族で訪れたスペイン・バルセロナのサグラダ・ファミリアの前で
家族で訪れたスペイン・バルセロナのサグラダ・ファミリアの前で

 

 

 

海外で培った力を駆使してチームスポーツで成果を出した兄弟

 

ケイタは現在25歳、ユウタは23歳でともに社会人になった。そんなふたりにメール取材で海外生活を振り返ってもらった。

 

「インター(ナショナルスクール)で、多様な国籍やバックグラウンドを持つ友達ができ、一緒に時間を過ごすなかで、異文化理解力を培うことができました。また、現地で培った英語およびフランス語の語学力は、高校受験や就職活動などでスキルとしてアピールすることができました。

 

個人的には、海外生活で『受容力』のようなものが身についたと思っています。相手の意見を最初から拒否せず、耳を傾けて受け入れようとする姿勢はインターで自然に学んだもの。これは、大学4年間の部活動でチームスポーツをする際、一つの目標に向かって、互いの意見をすり合わせ議論する中でかなり役立ちました。これからの社会人生活でも必要な力だと信じています」(ケイタ)

 

「インターでは、最初うまく自分の意思を英語で伝えることができず、短くて簡単な質問を繰り返しつつ、相手の話を聞くように心がけました。そこで、英語力だけでなく、『(相手の話を)聞く力』を鍛えられたと思っています。このおかげで、相手が『自分に興味がある人』と認識してくれて、仲よくなれた気がします。

 

また、海外でのこのような経験から相手の思いや状況を考えつつ、自分の意見を正しく『伝える力』も身につきました。これを駆使することで、大学4年次にアメリカンフットボール部の副キャプテンとして、200名の個性豊かなメンバーと日本一に向かって活動を続けることができました。時に、困難な状況もありましたが、部員の想いに耳を傾けながら向かうべき方向にチームを導いていけたのは、異国で鍛えた『伝える力』のおかげだと思っています」(ユウタ)

 

マイは、日本人学校からスタートし、慣れた段階でインターナショナルスクールに通うという選択が正解だったと振り返る。日本にずっと暮らしていたら、あまり海外に目を向けるようなタイプではなかった子どもたちが今ではすっかりグローバルな視点を身につけて活躍している。日本語で学力の基礎を築き、日本での受験勉強も視野に入れながら、グローバルな教育で自主性を伸ばす……。これは、海外駐在という機会を最大限に活用した理想的な教育だといえるだろう。

 

「海外駐在というとインターか現地校と考える人も多いと思います。日本人学校も含めた現地での学校選択に正解はありません。子どもと向き合って、本人の性格に合う環境を選ぶことが大切だと思います。うちのように小学生では、決められないこともあると思いますが、いずれ本人の希望は出てきます。小中学生という多感な時期に体験したことは将来の人格形成に大きく影響します。ぜひご家族で楽しみながら、子どもがのびのびと学べる環境を選んでほしいと思います」(マイ)