和夫(かずお)と月子(つきこ)は家族を伴って3回の海外駐在生活を経験する。長女・万梨阿(まりあ)と次女・愛弓(あゆみ)は両親の「貴重な体験のできる恵まれた環境にいる事を理解し、自分自身でその環境の中で何ができるのかを考えて、チャレンジしてほしい」という期待に応え、海外ならではのチャレンジを積み重ねていった。
(取材・執筆:髙田和子)
英国ののどかな暮らしが始まる
和夫の海外駐在が決まり、妻の月子と生後3か月半の長女・万梨阿の3人は英国・ロンドンに渡った。
住居は閑静なロンドン北部に決めた。リスがやってくる庭は広く、バドミントンもできる。秋になると庭には洋梨が実り、コンポートやジャムを作って収穫を楽しんだ。
渡英3日後に小さな事件が起きた。鍵や携帯電話を室内に置いたまま外に出てしまい、玄関のドアが自動的に施錠されてしまったのだ。11月のロンドンは午後3時でも薄暗く、寒い。生後3か月半の万梨阿を抱きながら、しばらく途方にくれたが「隣のイギリス人の老夫妻に頼るかしかない」と勇気を出してチャイムを鳴らした。ドアが開くとマダムたちが紅茶を飲みながらブリッジを楽しんでいるのが見えた。事情を話すと「まあ、とにかく入って。紅茶でも飲む?」と家に上がらせてくれた。大家に電話をかけて合鍵を持ってきてもらい、無事家に入ることができた。
「前途多難なイギリス暮らしの幕開けとも思いましたが、異国の地で人の優しさに触れることのできた出来事でもありました」と月子。