2026年6月29日
トピックス(その他)

広がる学びと人生——ホームスクーリングが育てるもの

【ロサンゼルス在住 岩井英津子さんによる現地の学校や生活を紹介するコラム】

 

アメリカでは、パンデミック期にホームスクーリング(学校に通わず、自宅を中心に学習する教育スタイル)で学ぶ子どもたちが急増し、一時はK–12(幼児~高校生)の約6%、およそ300万人に達しました。ジョンズホプキンス大学の調査によると2023-24年のカリフォルニア州のホームスクールリング人口は4.4パーセントとされています。依然として高い水準を保っているといえます。ホームスクーリングを選択する理由は、宗教観、学習環境、安全、家族の価値観、多文化性など、驚くほど多様です。

 

カリフォルニア州のホームスクーリングには、下記のような三種類があります。

1.    自宅を私立学校として登録する PSA方式(Private School Affidavit)
2.    私立学校に所属しながら家庭で学ぶ PSP方式(Private School Satellite Program)
3.    公立チャータースクールに在籍しながら家庭学習を行う ISP方式(Independent Study Program)

ジョンズホプキンス大学の資料では、チャータースクールの全体の在籍率は10.4パーセントで、この数字の中にホームスクールのISP方式が属していると推測されると分析しています。


このようにアメリカでは、学校の「選択肢」のひとつとしてホームスクールが位置づけられることが理解できます。

日本では、「ホームスクールって、不登校の子が選ぶものですよね?」という発言をよく耳にしました。ここロサンゼルスで出会った荻野ともさんは、息子H君の教育にホームスクールを選びましたが、その選択はなぜ?と興味深く思い、お話をうかがいました。そのストーリーは、私も持っていたであろう日本人のホームスクールに対する固定観念が、静かに揺さぶられるものでした。

荻野ともさん

H君は、ISP方式(Independent Study Program)のホームスクールで学習を続けています。具体的にどのような学習方法かというと、ホームスクールティーチャーやアドバイザーと呼ばれる先生が各家庭の担当となり、月に1回程度、子どもへの家庭学習について保護者の相談に乗ります。子どもの教育を実行する責任が親に一義的にあるものの、このように専門家のアドバイスや支援をうけられます。そして、家庭・保護者には教材費に該当する一定の費用が支給されます。

 

生活と学びが一体化するという選択


荻野さんがホームスクーリングを考え始めたのは、H君が4歳の頃。

当時はコロナ禍で、ご主人が大病を抱えていたことにより、感染への不安がとても大きかったそうです。
その時期に出会ったのが、森の中で遊びながら学ぶイメージの幼稚園、 Forest School。
Forest Schoolとは、森や自然の中で行う体験型・探究型の教育アプローチのメソッドであり、子どもたちが自然の中で主体的に学び、心身の成長を促すことを目的としています。

「小さいうちは、外で思いきり遊んでほしい。生活と学びは切り離せない」という彼女の価値観は、このForest Schoolを通して確かな形を得ました。

家庭では日英両語使用で、両親は完全なバイリンガル。二つの言語と文化を自然に行き来する環境を整えたい——そんな願いも、ホームスクールという選択を後押ししたことでしょう。アメリカ人の父は大学教授とはいえ、母は日本語話者であること以外、子どもの教育や学習指導はまったく初めて。ホームスクーリング経験者へインタビューしたり、色々とリサーチしたりしながら、文字通り手探りで始めました。

モナークバタフライを研究するプロジェクトに取り組むH君

 

チャータースクール型ホームスクーリングの “フィット感”


荻野さん一家が選んだのは、ホームスクールでありながら、チャータースクール(学区の規定に縛られない自律性の高い公立校)に在籍して、対面授業にも臨むハイブリッド型という、ホームスクーリングとしては稀な形です。

 

具体的には、週に2日は学校に通い、それ以外の日は家庭で学ぶ。クラスに属していて、クラス担任教師が、月に1回のミーティングで子どもの学習の進捗を確認します。教材費は、Instructional Fundとして一定の予算額が示され、その枠内で教材やレッスンを選べることになっています。

 

家庭学習と学校のサポートが絶妙に混ざり合うこの方式は、子どもの学びは「完全に自由」でも「完全に学校任せ」でもありません。

親の価値観を反映しながら、専門家の伴走も得られるという、まさに「ちょうどよい自由度」で家庭生活と学びを追究するフィット感があります。

 

子どもの興味から広がる日々の学び


義務教育として1日4教科を学ぶ枠組みは維持しつつ、家庭では日本語補習校の学びも加わります。しかし、厳密には1日4教科を学ぶという表現はそぐわず、プロジェクトベースラーニング(PBL)がメインとなります。PBLとは、一つのテーマから4教科を学べるような総合的な学習であり、学校教育のように学科ごとに学ぶスタイルではありません。

例えば、本人がパッションプロジェクトとして選んだ「武器(weapons)」のテーマでは、下記のように、国語・算数・理科・社会等まさに教科横断型の学びです。


- 武器の歴史、分布、古代~戦争に至るまでの歴史、世界地図、年表(=社会)


- ウェポンをポケモンカードのようにして、それぞれの強さ、長さなどまとめる。表を作る(=算数、美術)


- 武器がどのようにできるのかにも興味があったので実際にforge鍛冶場に行き、作ってみたり、素材について学ぶ。(=理科)


- 文献の読み込み(英語、国語)


- ウェポンズ・ミュージアムとして、エアークレイでまとめる。(=美術)


自由な発想で学びたいことをどんどん深堀りしていくスタイルと言えます。この方法が、荻野さんとH君、二人のライフスタイルに最適でした。それについては後に述べるエピソードで紹介しましょう。


日本語での学習に目を向けると、日本語補習校へ通う一方、家庭では荻野さんが理科や社会を定着のための指導をします。英語学習で使うものは、タブレット教材「北米版スマイルゼミ」。この教材でかなり自発的に学ぶ習慣が育っているそうです。

現在小学4年生の彼は、英語のReadingでは7年生レベルに達しているとの評価を受けており、読書が大好きなことが大きな理由だと母は分析しています。

そして、ホームスクーリング4年目に入ったいま、「親が教える以上に、本人が自分から学ぶ姿勢になっています」と今日、一番の輝く瞳で語ってくれました。

「子どもの学び」が「やらされるもの(拘束的受動)」から「自分で広げていくもの(快楽的能動)」へと変わっていく姿を、母親として、また指導者として間近に見てきたことでしょう。

 

Eaton Fire——家を失っても、学びは続く


2025年1月、カリフォルニア州で発生した未曾有の大火災Eaton Fire。

その日、炎が迫るのを見て、防災グッズと猫、そして数日分の着替えだけを持って逃げだしました。荻野さん一家の住む家は完全に焼き尽くされました。近隣の家もすべて焼け落ち、友人宅に身を寄せる日々が続き、2026年6月現在も自宅に戻る術がありません。
Eaton Fireが落ち着いたあとに訪れた自宅跡は、現実とは思えない姿。家具や財産、生活をしてきた場所での大切な思い出が、すべて焼き尽くされました。


しかし、そのような状況下でも子どもの学びは止まることはありませんでした。

その地域の現地校は、数日から数週間閉鎖されましたが、荻野さんが選んだホームスクールという学びの方法では、被害の大きさに関わらず子どもの学習は止まることなく続けることができたのです。

H君は「友達に会いたい」と強く希望し、避難先からその週の土曜日は、日本語補習校に登校しました。

日本語補習校のママ友たちは、彼のためにお弁当を交代で作ったり、文房具を寄付してくれたりするなど、「本当に支えられました」と今でも涙ぐむ荻野さん。

H君には、こうして「コミュニティに支えられていることを忘れないでほしい」という思いを伝えています。この言葉には、我が子が、困難を乗り超えて強く生きていくこと、社会へ貢献できる人に育つことの願いが込められています。

 

ホームスクールは積極的な選択肢


日本では、ホームスクールはしばしば「学校に行けない子のための代替教育」と捉えられがちでしょう。しかし、アメリカのホームスクーリングはまったく異なる背景で発展してきています。


•    家庭の価値観を大切にしたい
•    多文化・多言語環境を整えたい
•    子どもの興味を中心に学びを設計したい
•    安全や健康を守りたい
•    非常時にも学びを止めたくない


こうした前向きな理由から、多様な家庭がホームスクーリングを選ぶ現実があります。特に銃社会であるアメリカの学校における安全は、親にとって大きな課題でしょう。

荻野さん一家は、ホームスクーリングでの学びが「教育の可能性を広げる選択肢」であることを明示しています。

 

学びは、学校の建物の中だけではない


昨夏、荻野さんは親子で横浜の日系人資料館を訪れました。

先に述べたプロジェクトベースラーニング(PBL)の一環です。

そのとき、H君は日系移民の歴史に驚き、感銘を受けたといい、食い入るように展示物を見て、次への学びにつなげようとしていたそうです。

荻野さんもまた「自分自身が学んでいる」ことを強く感じると同時に、子どもの学ぶ姿、知識が深まっていくステップを目の当たりにしました。


学びは、教室の外に広がる世界とつながっている。どんなときも、どんなことも学びにつながります。
ホームスクーリングは、そのつながりを柔軟に、豊かに設計できるカスタマイズの学び舎と言えるでしょう。
家を失っても、場所が変わっても、学びは続けられる。
家族の価値観を中心に据えながら、コミュニティとともに子どもを育て、力強く生きていく。
荻野さん一家の物語は、ホームスクーリングが持つ「教育的価値」を鮮やかに照らし出していると感じました。
 

 

岩井英津子(いわいえつこ)
国際教育アドバイザー。USJP Rockwell Education & Beyond 代表。アメリカロサンゼルス在住40余年。商社の女性駐在員として渡米し、退社後、永住権取得。補習校の教員として小学校中学校の指導歴20年、学校管理職10年および専務理事として補習校経営10年、在外子女教育に従事。2024年よりJOESの国際広報を担当。