<質問>
子どもは無気力です。何もしていないのに「疲れた」と言います。どうしたらいいのでしょうか。
はじめに
お子さんが無気力で何をするにもやる気が感じられないということは、どのご家庭でも多かれ少なかれ経験されていると思います。
何もしていないのに「疲れた」と感じてしまうのは何らかの「疲れ」がたまっていたり、病気が隠れていたりするかもしれません。
まずは「何もしたくない」と感じる原因を探り、どうしたらよいか考えてみましょう。
何もしたくない(無気力になっている)原因は?
「何もしたくない」、何もしていないのに「疲れた」と感じるときは、疲れがたまっていることが多いのではないでしょうか。
睡眠不足や肉体的な疲れがたまっている?
睡眠不足や肉体的な疲れがたまっている場合も、倦怠感から「何もしたくない」と無気力な状態になりやすいです。特に、学校生活を含めて毎日が忙しく、しっかり休む時間が取れていない子は要注意です。
何かに集中して取り組んでいる時には疲労を感じにくいものです。そのために気づかないうちに限界を超えてしまうことはありがちですので、お子さんの様子をよく見てあげてください。
ストレスや心の疲労がたまっている?
「人間関係がうまくいっていない」「今やらなければならないことにプレッシャーがある」など、ストレスや心の疲労がたまっていると、心を守るために周囲に無関心になったり、意欲が低下して、無気力な症状があらわれやすくなったりします。
また、過度なストレスは自律神経の乱れを引き起こします。自律神経が乱れると、体や心にさまざまな影響を与えるため、精神が不安定になったり無気力な状態を引き起こしたりするのではないでしょうか。
がんばる目的がわからなくなっている?
無気力になっている原因として「何のためにがんばるの?」とがんばる目的自体を見失っている可能性もあります。これは根性論ではなく、日々の小さな不満や我慢の積み重ねから、無自覚に気力が削がれていっているように思います。
「がんばったのに評価されない」「どれだけやっても認めてもらえない」など、報われない経験が蓄積し「どうせ何をやっても無駄だ」と諦めてしまっているのではないでしょうか。
まずは何に不満を感じているのか、感情を整理することからお子さんをサポートしてほしいです。
環境の変化や生活リズムの乱れ?
心や体の疲労だけでなく、転校や引っ越し、学校などの環境の変化によっても、そのストレスから「何もしたくない」と感じることがあります。環境の変化は新しい友達との出会いなど、うれしい場面にもあてはまります。また、夜更かしが続いたり、食事を抜いたりなど、生活リズムが乱れることでも疲れが取れにくくなり、無気力な状態を引き起こす原因になることもあります。
心や体の疲れを引き起こす原因が思い当たらない場合は、まずは生活習慣から見直してみましょう。
燃え尽き症候群?
これまで何かに集中して意欲的に取り組んできた子は、それがなくなると、突然やる気がなくなることがあります。いわゆる「燃え尽き症候群」かもしれません。「何もしたくない」と感じている時は、一生懸命がんばって力を使い果たした状態なのだと思います。そのような場合は、無理に何かをしようとするのではなく、しっかり休んで息抜きをすることをお勧めします。気力を養うことで、また次の目標が見つかり、意欲を取り戻すことができるかもしれません。
「何もしたくない」と感じる人は優しい人が多い?
「何もしたくない」と感じる子の多くは、他人想いの優しい気持ちを持っているように思います。無気力になってしまう前は、「貢献したい」「この人のために頑張る」など、誰かの力になりたいという気持ちで溢れています。
しかし、その気持とは裏腹に「これだけがんばったのに見てくれない」と期待を裏切られるようなことが積み重なると、それが諦めに変わってしまうのです。
自分を犠牲にしてまで誰かのためにがんばれる優しい人は、このサイクルに入ってしまうと、相手の言動や態度に敏感になって、「優しく振る舞っても冷たくされる」「相手を想ってやったのに感謝されない」などとネガティブ思考に陥りがちになります。そして、傷ついた経験が溜まっていくことで、無自覚に無気力になっていくのではないかと思います。
何もしたくない(無気力になっている)ときの対処法は?
休むことに専念する
どうしてもやる気が起きず「何もしたくない」と感じたら、思い切って休みましょう。しっかりと休息できる環境や時間をもつことが大切だと思います。
ストレスが慢性化して1日の休息だけでは気力が戻らない場合は、状態に応じて期間を決めて休むことに専念しましょう。「何もしたくない」と感じる大きな原因は「心や体の疲労」です。この疲労をしっかり回復させることで、また少しずつ意欲を取り戻していけるのではないでしょうか。
心の整理をする
まずは、どうしてやる気がでなくなってしまったのかお子さんといっしょに考えてみましょう。
「いつから無気力になってしまったのか」「何が原因でやる気が出なくなったのか」など、ひとつずつ紐解いていけるといいですね。原因はひとつではない可能性もあるので、傷ついた経験はあったか、裏切られて悲しかった経験はないか、など直接関係していないと思っても振り返っておくことが大切だと思います。
実際は、辛かったり傷ついたりした経験から無自覚にやる気を失っている可能性が高いです。その場合、ひとりで原因を探しても見つからない場合があるので、できれば家族といっしょに考えてみましょう。
人間関係を見直してみる
やる気がでない原因が、学校や家族、友人との人間関係にある場合は、日々の対人関係について振り返ってみるといいでしょう。
どんな言動に傷ついたのか、 どんなことに不満を感じるのか、そして、自分を犠牲にして我慢していることはないか……。
対人関係で抱えている悩みを振り返ることから、ストレスに感じている部分を探してみましょう。
お子さんの年齢も関係しますが、それらのストレスは「アサーション」という自分の主張はしっかり行いつつ相手を傷つけないというコミュニケーション方法を取り入れることで解決する可能性があります。
相手を変えることは難しいですが、自分自身の考え方や振る舞いで緩和させることはできると思います。
生活習慣を整える
「朝日を浴びる」「決まった時間に起床・就寝する」「栄養のあるバランスのいい食事を心がける」「お風呂につかってリラックスする」など、良い生活習慣を毎日続けることで疲れが取れやすい心や体の状態になります。
忙しいと睡眠時間が短くなったり、食事が偏ったり、入浴はシャワーだけで済ましてしまったりと、生活リズムも乱れるため心や体が休まる時間がありません。お子さんといっしょに生活習慣を見直して、オンオフの切り替えを心がけてみましょう。
適度な運動や親しい友人と会うことでリフレッシュ
適度な運動は「幸せホルモン」とも呼ばれるセロトニンが増えるため、心と体を安定させてくれるそうです。さらにセロトニンが分泌されると、交感神経が優位になるためポジティブな気持ちが沸き起こり、活動的になる働きがあるとも言われています。
運動が苦手な場合は、一人で悩んでいると気分が落ち込むなどの悪循環が生まれるため、親しい友人に会って話をしたり、好きなことに没頭したりして気分をリフレッシュさせましょう。
おわりに
最後に普段感じていることをお話しします。
子どもにとって自分の考えや感情を表現することは自己肯定感の発達に欠かせません。子どもが興味を持つものを大切に扱うことも自己表現を受け入れることに含まれます。子どもに対して「自己表現を肯定的に評価する」「邪魔をしない」ということは自分が大切なものを認めてもらえている、応援してもらえていると自然に感じられる素晴らしい機会でもあり、裏返すと無気力な子どもになりにくいということだと思います。
お子さんに対して、自己肯定感が高くなるように関わっていけるといいでしょう。そのために次のような接し方を参考にしてみてください。
- お子さんが達成したことについて認める。
- お子さんと感情を共有する。
- 条件付きでない愛情を与える。
このような関わり方をされた子どもは失敗を恐れず、気持ちよく周りに助けや協力を求めることができ、自分を取り繕うことなく安心してやりたいことにチャレンジする傾向が強いように感じます。
またお子さんと会話するときには、「うれしかったね」「悔しいと思ったんだね」などのように気持ちを共有しながらお子さんの感情を受け止める言葉をかけられるといいですね。
<回答者> 海外子女教育振興財団 教育アドバイザー 鈴木敏彦 (すずき としひこ) 愛知県の公立小中学校に38年間勤務する。1986年より3年間アンカラ日本人学校(トルコ)へ赴任。帰国後は愛知県内で教員、地元教育委員会で派遣指導主事、教頭、校長を歴任。2016年より㈱デンソーの海外教育相談室室長を務め、現在に至る。2022年9月より海外子女教育振興財団の教育アドバイザーも務めている。