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2024年2月5日

「海外での経験が歴史研究の礎に」 秀 丈瑠さん

幼少期から関心を寄せる日本史について独自の研究を重ね、近年はそのオリジナリティの高さと解説のわかりやすさから「古文書ハンター」としてメディアでも取り上げられてきた秀丈瑠さん。秀さんは上海のアメリカンスクールに通っていた経験を持ち、そこで現在の研究にも通じる大切な学びを得たという。今回、古文書を解読する魅力や海外経験で身につけた価値観について話を聞いた。 

(取材・執筆:ミニマル上垣内舜介)

 

■秀さんは2023年度から大学に入学されたとのことですが、現在はどのような活動をされているのでしょう? 

 

大学では教養科目というかたちで幅広い学びに触れており、今後は日本史学を専門とするコースに進みたいと考えています。それと並行して、個人的に古文書の解読や日本史の研究を続けています。  私が主に調査対象としているのは、江戸時代に作成された古文書です。他大学で日本史を研究している学生と交流するとともに、歴史資料館や個人の所有者の方を訪ねて自分なりに情報を集め、論文のようなかたちにまとめています。  

 

■「古文書」と聞くと、簡単には閲覧できない貴重な史料だというイメージを抱いてしまいます。秀さんは研究を進めるうえで、どのように古文書を集めているのですか? 

ひと口に「古文書」といっても、そこに書かれている内容はさまざまです。私の場合、幕府の大名が取り扱っていたような史料のみならず地方で暮らしていた農民や下級武士に関わるものにも関心があります。特に「地方文書(じかたもんじょ)」という、江戸時代の村において行政上の必要から作成された文書を見ることが多いですね。

 

そうした史料は地方で庄屋を務めていた方の家に残っていることが多く、自分で連絡したり依頼をもらったりして見せていただいています。また、神保町の古書店やネットオークションを利用して購入することもあります。あまりたくさん買うとお金がかかってしまうんですが……(笑)。

秀さんが集めた古文書の一部

■実際に古文書を読んでみて、興味を持ったところを掘り下げていくんですね。 

 

そうですね。私としては、面白くない史料は存在しないと思っています。当たり前のことですが、どんな史料にも作成された目的があり、必要としていた人々がいるんです。重要なのは、史料からいかに情報を読み解くのかということ。当時の人がどんなことを考えていたのか、どんな社会のなかで暮らしていたのかといった、バックグラウンドに迫っていく過程に魅力を感じています。これまで他の人の目に触れることのなかった史料を自分が初めて見るときには、知的探究心を刺激される喜びがありますね。 

 

■そもそも、秀さんが歴史に興味を持ったきっかけは?

 

子どもの頃、田舎にお墓参りにいったときに家紋が刻まれているのを発見したんです。それを見て、「この地域にはこういう家紋や苗字が多いんだ」「苗字が同じなのに家紋は違うんだ」といったことを考えていました。今になって思うと、それが歴史的な史料を読んで背景を紐解く現在の活動のルーツになっていると思います。

金沢兼六園の黄門橋の横にて。小学校3年生

■その流れで古文書にも関心を持つようになったんですね。

 

あるとき、親戚の家に大量の古文書があるという話を聞きました。興味があったらもらってほしいということだったので、「全部ください!」と伝えたんです。それを解読していくと、その家系を鎌倉時代や室町時代まで遡るような内容でした。  

 

私たちは学校の授業で、歴史の大きな流れや偉人について学びますよね。それはもちろん重要だし、歴史を理解するうえで役に立つとも思うんです。ただ、当然ながらその時代にもたくさんの庶民の人たちがいて、それぞれの思いを抱えながら暮らしていました。  

 

例えば農民の日記を読んでいると、「武士になりたいのに就職活動が厳しい」といった現代にも通じる普遍的な悩みや葛藤が垣間見えることもあって。古文書を見れば、見落とされてしまいそうな市井の人々の眼差しを汲み取ることができるんです。時代の大きな流れとそこに生きた人々の思いをあわせて分析することに、歴史を学ぶ醍醐味があると思っています。

 

■秀さんは上海のアメリカンスクールに通われていたとおうかがいしています。海外での経験が現在の活動に通じていると感じる場面はありますか?

 

父の仕事の都合で小学5年生のときに上海にわたりました。それが自分にとって衝撃的な体験だったんです。英語も話せないなかで外国の学校に入学して、マイノリティの立場になったという経験ですね。当時から日本史には関心がありましたが、「社会って何なんだろう?」「日本ってどんな国なんだろう?」といったことについて、改めて思索を深めるきっかけになりました。

外国人のアシスタントティーチャーの先生と。アメリカンスクールの卒業式にて

上海のアメリカンスクールから日本人学校にも編入されたそうですが、当時のことや、日本人学校での思い出も教えてください。

 

アメリカンスクールから日本人学校へ編入したときは、アメリカンスクールの自由な雰囲気に慣れていたので規律を重んじる日本人学校の校風に驚かされたと共に背筋が伸びる思いでした。また、上海日本人学校には中学1年生の1年間通いましたが、当時、日本全国からいらっしゃっていた先生方の素晴らしい授業を受け感銘を受けました。今でも先生方の授業風景を鮮明に覚えています。

 

■海外で過ごしたことで、むしろ自国文化への関心が高まっていったと。 

 

同時に、社会的に弱い立場にある人々の気持ちを考えたいと思うようにもなりました。上海では友達もできて、楽しい思い出がたくさん残っています。しかし、文化や言語の壁を感じて不安を覚えることも少なからずありました。例えば先生に何か誤解されてしまったとき、自分の本当に伝えたいことが中々伝えることができず大変苦労しました。

近年は多様性が受け入れられる時代になりつつありますよね。そうした多様性を子どものころに当事者として認識できたことは、大きな財産になりました。  

 

これは歴史を学ぶ人間としても非常に大切な経験だったと思っています。江戸時代の日本人には、明確な身分の格差がありました。今でも興味があるのは、そうした多様性のなかで生きた人々の営みについてです。小さい頃から好きだった歴史と、海外で実感した多様性。この2つが組み合わさって現在の研究の礎となりました。  

 

■日本に帰国されてからの苦労はありましたか? 

 

 帰国後に通っていた南山国際中学校・高等学校(現在は閉校)は、帰国子女や外国籍の生徒しかいない学校だったので、幸いなことにほとんど苦労はありませんでした。生徒の自主性を受け入れてくれる先生ばかりで、好きなことに対してはありのままを貫いていいという精神を学びました。先生とは研究の話をしたり一緒に資料館に行ったりと、今でも交流を続けています。

 

■海外での経験、さらに帰国後の経験を通じて、秀さんが大切にしている価値観は?

 

 生活面でも研究面でも、一歩引いて考えてみることは大切にしています。例えば「この人、ちょっと嫌な人だな」と思ったとしても、「普段は優しいのに、たまたま機嫌が悪かったのかもしれない」といったように想像を巡らせてみる。それが他者を受け入れることにつながります。  

 

これは言い換えれば、“if”を考えることかもしれません。歴史的な史料には、その時代における人々の選択が記載されています。それを読んだときに、もしこの選択をしていなかったらどんな変化があったのかをイメージしてみるんです。そうすることによって、別の視点から歴史にアプローチできるのではないかと考えています。

自宅の本棚

■今後の展望や将来の夢をお聞かせください。

 

 最近は「由緒」に興味を持っています。「由緒正しい家柄」といった表現は現代でも用いられますが、その格式がどのように生まれたのかを知りたいです。また、「由緒」を手に入れたいと願う昔の人々の上昇志向にも迫りたいですね。  

 

将来の目標は一貫して、日本史の研究者になることです。そして歴史的な発見に基づき、現代社会が抱える課題の解決に貢献できる存在になりたいと考えています。もちろん、そのためには膨大な勉強量が必要になります。大学に入ったことで、ようやく研究者としてのスタートラインに立つことができました。さらに知識を身につけるため、先生の研究を積極的に手伝うなど人一倍努力を重ねたいと思います。

 

■最後に海外子女・帰国子女とその家族にメッセージをお願いします。

 

海外で暮らした経験は、自分にとってかけがえのない宝物になりました。皆さんにとっても、そこで出会った友人や先生、学んだ文化や知識は、きっと将来の大きな糧になるはずです。もちろん不安もあると思いますが、あまり気張らずに海外での生活を楽しんでもらえたらと思います。 

 

【プロフィール】
筑波大学
人文・文化学群 人文学類1年
秀丈瑠さん
2003年愛知県犬山市生まれ。上海のアメリカンスクールを卒業後、南山国際中学校に編入。高校時代に執筆した研究論文が「全国高校生歴史フォーラム」で入賞。「古文書ハンター」として『超無敵クラス』(日本テレビ系列)に出演し注目を集める。2023年度に筑波大学人文・文化学群人文学類入学。研究分野は日本近世史(江戸時代)。

 

 

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