ファシリテーターたちも始動
9月7日の阪口秀博士の基調講演を視聴した世界各地の子どもたちによるグループワークが始まっています。参加者がそれぞれ選択したテーマごとに5~6人の小人数のグループをつくり、調査とディスカッションを進めていきます。グループワークには、アフリカの子どもたちも参加しています。これは、「いつかJOES Davos Nextを、世界中の子どもたちが参加するディスカッションイベントに育てたい」というJOESの綿引宏行理事長の夢につながる大きな第一歩でもあります。
このグループワークを支えるのがファシリテーターです。大学生や高校生を中心とした約40人。そのほとんどが、かつて海外で暮らしていた経験を持っている、あるいは、現在海外に住んでいる現役大学生と高校生です。そのファシリテーター研修の様子をご紹介します。
(取材・執筆:只木良枝)
今年のディスカッションテーマは「海の問題」
グループワークのテーマは海ゴミ(プラスチック)、水産資源管理、ブルーカーボン、養殖の4つで、参加者が選択します。ゴミ捨てに対する考え方や行動を変えるためのルールづくり、漁獲規制、水産資源を有効活用するためのアイデアやルール、サステナブルな養殖は可能か、そしてブルーカーボンという新しい概念をどのように普及・拡大していくか……。どのテーマも、JOES Davos Nextが大切にしている「答えのない問い」そのもので、解決策は簡単には見つかりそうにありません。それを同じグループになったメンバーと協力しながら探っていくのが今年のミッションです。
今年もディスカッションは合計4回。9月から10月にかけての4日間を事前に設定し、知識の習得、意見の表出、他者の意見を踏まえたリフレクションを、段階を踏んで行います。事前学習やワークシート記入などのリマインドとディスカッション当日の意見表出のための司会進行がファシリテーターの役割なので、その場が充実したものになるかどうかは、ファシリテーターの手腕にかかっています。
各グループには、オンライン交流の場としてチャットツールが提供されます。また、笹川平和財団海洋政策研究所にご協力いただき、例えば、調査やディスカッションの中で専門的な知見が必要になった場合などには、ファシリテーターから研究員へ直接質問することも可能になっています。
ファシリテートについて学んだ第1回
2023年のファシリテーター研修は、8月6日、Zoomによるオンライン形式で実施されました。研修を担当するのは、山本良太さん(大阪教育大学 理数情報教育系 特任准教授)と桑原りささん(フリーキャスター)。昨年に引き続き運営委員をつとめる二人は、JOES Davos Nextを育ててきた立役者でもあります。綿引理事長からの「子どもたちの議論をリードしてくれることを期待しています」とのビデオメッセージ、事務局から使用するアプリやワークシートの運用など、ディスカッションの具体的な進め方についての説明に引き続いて研修がはじまりました。
山本さんは「世界各地に住む子どもたちが集まってディスカッションするのはなかなかない貴重な機会。その議論をまとめるのにはファシリテーターの力が不可欠」と語りかけました。続いて、教育的な狙いとして、「海洋をとりまく問題に関心を持ち、理解を深め、責任感や主体性を形成、そして課題に一緒に取り組む仲間としての意識を持つこと」を示しました。次に、桑原さんから、「ディスカッションの場にいい空気が漂っているか、みんながついてきているか、発言できているか、議論が目的地に向かっているかを、つねに気を付けてほしい」と、ファシリテーションのコツが伝授されました。
レクチャーの後に、ブレイクアウトルームに分かれて20分間のアイスブレイクのシミュレーションを実施。初対面のメンバーでも躊躇が見られたのは最初だけでした。その後の質疑応答では、「反応がない、あるいは微妙な反応だったときはどうすればよいのか」「一人が話しすぎる場合はどのように介入したらよいか」「子どもたちの語学力にばらつきがあったらどうするのか」など、具体的なケースを想定した質問が次々に飛びました。
最後に、研修をオブザーブしていた小熊幸子さん(公益財団法人笹川平和財団 海洋政策研究所主任)から、「大きな議論をしなくちゃいけないと身構えるのではなく、自分たちができることを自分たちの言葉で話しあってもらうことが一番大切」と励ましの言葉をもらい、画面のなかのファシリテーターたちは大きくうなずいていました。
第2回研修は担当時間帯に実施
ディスカッションの参加者は世界中に散らばっているので、どの地域からも無理なく参加できるように4つの時間帯が設定されていました。9月3日の第2回研修は、日本時間の朝、午前、夕方、深夜の4回に分けて実施、ファシリテーターは本番で自分が担当する時間帯に合わせて、オンラインで参加しました。
自己紹介では、「世界中の子どもの意見を聞きたい」「リーダーシップを鍛えたいと思った」「去年はできなかったが今年こそ」など、積極的な参加動機が次々に語られました。なかには、「昨年は中学生としてディスカッションに参加し、楽しかった」「去年のファシリテーターのことが印象に残っている」「自分もやってみたいと思った」などと語る高校生ファシリテーターが何人も。JOES Davos Nextが毎年開催されることの意義を感じさせられました。
世界中をオンラインで結んで実施されているグループディスカッションで、ファシリテーターたちはどのような場をつくってくれていたのでしょうか。追ってご紹介します。