9月7日基調講演
いよいよ今年のJOES Davos Nextがはじまりました。皮切りとなる基調講演の講師は、公益財団法人笹川平和財団 海洋政策研究所所長の阪口秀博士。テーマは「海の今と未来を考えよう」。食卓に並ぶシーフードを起点に、それらが採れる環境、漁獲までの人々の仕事、自然とのバランス、環境保護・保全、守る海・楽しむ海、と様々な視点で海の問題を解き明かし、私たちと海のつながりについて考えていきます。Part 2のグループワークの出発点となる内容です。
講演は昨年と同じくオンラインで実施。当日はライブ配信し、その後はオンデマンド配信により、時差を気にせずに世界中で視聴することができます(オンデマンド配信のお申し込みは日本時間2023年12月15日(金)正午まで)。 使用言語は主に日本語ですが、オンライン会議システム上に英語への同時通訳を用意し、参加者が自由に選べるようにしました。
ライブ配信にはアフリカの子どもたちも参加。質疑応答のコーナーでは、国内外の日本の子どもたちに交じって、ケニアの現地校の生徒からも質問が寄せられました。
(取材・執筆:只木良枝)
日本時間9月7日18時ちょうど、司会進行を務めた桑原りささんの紹介を受けて登場した阪口秀博士は、今年7月の南アフリカ出張のときに購入したばかりだという茶色に黒のシャープな柄の入ったシャツ姿。笑顔で、「みなさん、シーフードは好きですか? 私は魚が大好きで、釣りにも行くし、自分でさばいて料理もするんですよ」と語りはじめました。
講演は、桑原さんとの対話形式で進行しました。阪口先生は、写真やグラフ等を見せながら海の抱える問題を具体的に列挙し、ひとつひとつわかりやすく解説をして、解決の糸口や考察の方向性を示しました。
約40分にわたる講演のあとは、事前に寄せられた質問や、講演中にチャットに投稿されたコメントに阪口先生が直接答えました。
最初の質問は「海が汚れていることを、世界中のどれくらいの人が知っているのか。知っているのになぜ対策ができないのか」。阪口先生は「これは重要です」と大きくうなずきながら「世界中の人がきちんと知っていれば今の問題は起こらない。ゴミのリサイクル率やマイバッグ使用を意識している人は日本国内ですら70~80%。世界全体ではおそらく90%以上の人が意識を持っていないのでは」と衝撃的な数字を口にしました。しかし、環境問題に意識の高いことで知られるノルウェーの人々でも50年以上前には海はゴミ捨て場だと思っていたというエピソードを挙げ、「意識は人の力で変えていける。協力して一緒にいい道を探っていきましょう」と呼びかけました。続いてケニアの生徒から、ビクトリア湖の環境問題にふれたあと「私たちの学校ではどんな活動をすればよいか」との質問が。阪口先生は英語に切り替えて、「まず始めるべきは湖水の富栄養化につながる食品廃棄物や生活排水を減らすこと、そして学校だけでなくそれを地域の皆さんに伝えていくこと」と答えました。
このほかにも、ナノプラスチックなどの汚染物質や海洋環境の研究について質問が相次ぎました。ひとつひとつに丁寧に答えていた阪口先生は、最後に「海の問題は世界共通。たとえ政治的に反目していても、海を囲んで一緒に解決策を考え行動する。海洋政策は、人と人を結び付け、人類の共通ゴールである平和につながる学問」と述べました。そして立場や意見の食い違う人々の議論の重要性にふれ、「歴史、文化、社会構造が異なれば意見は違って当然。その時、両方の立場を理解し尊重し、『通訳』できる人が必要です。みなさんには、ぜひ自分で世界のいろんな所、海に行って、見て知って、現地の人と話してほしい。きっと海の問題を解決できるキーパーソンになってもらえると期待しています」と、世界各地から視聴している子どもたちに呼びかけました。
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